16話 同時視聴者数、ついに1000人を超えた
翌日の夕方。
俺は小さなダンジョンの前に立っていた。
昨日とは別の場所だ。
入口は狭く、人通りも少ない。
Cランク。
初心者が無理をしなければ潜れる程度。
昨日みたいな大当たりは期待していない。
今日は確認だ。
自分の配信が、本当に伸びているのか。
それを確かめたかった。
スマホを取り出す。
DungeonLiveを開く。
フォロワー数。
昨夜よりさらに増えていた。
3桁後半。
まだ大手には遠い。
だが、昨日の俺から見れば十分すぎる数字だ。
通知もかなり残っている。
「次も見る」
「今日もやる?」
「通知入れた」
そんな文字が並んでいた。
少しだけ、気持ちが引き締まる。
俺は配信タイトルを入力する。
昨日より短くした。
『ソロ探索 2日目』
少しだけ考える。
それから配信開始を押した。
カメラが起動する。
ダンジョン入口が映る。
同時視聴者数。
17。
昨日の最初は1だった。
それを思うと、十分すぎる。
コメントが流れる。
「来た」
「昨日の新人だ」
「待ってた」
俺は軽く頭を下げる。
「こんばんは」
「今日も潜ります」
コメントが増える。
「挨拶えらい」
「昨日の続き楽しみ」
俺は入口へ向かって歩き出す。
石段を下りる。
湿った空気。
冷たい匂い。
昨日と同じだ。
だが、気分は少し違う。
今日は見られている自覚がある。
最初から誰かが待っていた。
それだけで空気が変わる。
妙な緊張があった。
通路に入る。
石壁に魔灯の光が揺れる。
同時視聴者数。
26。
31。
37。
昨日より明らかに増え方が早い。
コメントも途切れない。
「増えてる」
「昨日の切り抜き見た」
「観察スキルの人だ」
俺は苦笑する。
「その呼ばれ方はまだ慣れないですね」
コメントが流れる。
「もう定着してる」
「観察の人で通じる」
通路を進みながら、俺は画面を見る。
トレンド欄にも昨日のタグがまだ残っていた。
『新人ソロでボス撃破』
『観察スキル』
短命だと思っていたが、思ったより長い。
バズの余韻が続いているらしい。
足を止める。
前方の気配を読む。
まだ遠い。
小型モンスターが2体ほど。
俺は短剣を抜く。
コメント欄が少し速くなる。
「戦闘?」
「来る?」
俺は前を見たまま答える。
「多分、もうすぐ」
コメントが増える。
「この言い方すき」
「見えてるの怖い」
通路の角。
影が動いた。
スライム。
その後ろにゴブリン。
昨日より弱い。
だが、油断する理由にはならない。
俺は立ち位置を調整する。
狭い通路の中央。
先にスライム。
後ろにゴブリン。
その順番で来る。
同時視聴者数。
51。
昨日の序盤とは違う。
最初から人がいる。
スライムが跳ねる。
進行方向は右。
俺は半歩だけ動く。
体当たりを外させる。
そのまま短剣を振る。
核を断つ。
一撃。
スライムが崩れた。
コメントが流れる。
「相変わらず無駄ない」
「早い」
ゴブリンが飛び出す。
錆びたナイフ。
腕の角度。
肩の向き。
全部見える。
俺は体をずらす。
刃が空を切る。
そのまま首元へ一突き。
ゴブリンが倒れた。
コメント欄が一気に流れる。
「綺麗」
「やっぱうまい」
「見やすい」
俺は少しだけ息を吐く。
昨日より落ち着いている。
戦闘そのものより、配信の方に意識が割けていた。
それでも十分対処できる。
スマホを見る。
同時視聴者数。
74。
もう70を超えていた。
速い。
コメントが流れる。
「昨日より伸びるの早い」
「固定ついてきたな」
俺は通路を歩き出す。
「そうならありがたいです」
コメント。
「言い方が堅い」
「もっと喜べ」
俺は苦笑する。
その時、通知が画面上部に出た。
おすすめ急上昇。
再掲載。
昨日だけの偶然じゃないらしい。
今日も伸ばす気だ。
同時視聴者数がまた動く。
91。
118。
143。
一気に3桁へ入った。
さすがに少し驚く。
コメント欄の流れも変わる。
新規が増えた。
「おすすめから」
「昨日の人?」
「初見です」
俺は立ち止まる。
画面を見る。
「初見の人もこんばんは」
コメントが流れる。
「律儀」
「好感度高い」
そのまま先へ進む。
今日は無理をしないつもりだった。
だが、数字を見ると考えが変わる。
これなら、もっと伸びる。
昨日の切り抜きで来た人。
今日のおすすめで来た人。
両方が混ざっている。
配信は流れだ。
今、その流れが来ている。
通路の奥から、また気配。
今度は3体。
俺は短剣を握る。
視界の端で数字が動く。
196。
243。
318。
増え方がおかしい。
コメントも止まらない。
「何でこんな伸びてんだ」
「今来た」
「昨日の神回避の人?」
俺は小さく笑う。
「多分その人です」
コメントが流れる。
「自覚あって草」
「好き」
3体の処理を終えた頃には、数字はさらに伸びていた。
444。
ここまで来ると、昨日とは完全に違う。
もう偶然ではない。
俺は壁際で一度立ち止まる。
呼吸を整える。
コメント欄が高速で流れていく。
読める量を超え始めていた。
そして。
通知が鳴る。
白石凛がライブ配信を開始しました。
俺は少しだけ目を細める。
嫌な予感ではない。
むしろ、分かりやすい追い風だ。
コメント欄も同じことを考えていた。
「また来るぞ」
「凛が始めた」
「1000行くか?」
俺は思わず画面を見る。
同時視聴者数。
612。
まだ伸びる。
そんな予感があった。
そして実際に、数字は止まらなかった。
711。
836。
924。
コメント欄が爆発する。
「来た」
「1000見える」
「乗れ」
俺は短剣を握ったまま、スマホを見つめる。
少しだけ息を止める。
そして。
1001。
画面の右上に、はっきり表示された。
4桁。
同時視聴者数。
1000人。
俺は数秒、何も言えなかった。
コメントだけが流れていく。
「おめでとう」
「1000人きた」
「新人じゃねえ」
俺はようやく息を吐く。
「……本当に。
1000人ですね」
その瞬間。
スマホが震えた。
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