15話 初配信でランキング6位に入ってしまった
白石凛の配信が始まってから、流れは明らかに変わった。
壁にもたれていた背を離す。
少しだけ肩を回す。
疲労はある。
だが、頭は妙に冴えていた。
スマホを見る。
コメント欄はまだ速い。
他人事みたいに眺めているが、
全部、自分の配信で起きていることだ。
同時視聴者数がまた動く。
231。
244。
258。
ゆっくりだが確実に増えている。
さっきまでとは空気が違った。
コメント欄には、新しい名前が次々に流れていく。
「今来た」
「トレンドから来た」
「例の新人?」
俺は頷く。
「多分、その新人です」
コメントがすぐ返る。
「自覚あって草」
「落ち着きすぎ」
「普通もっとテンパる」
俺は苦笑する。
確かに他人事みたいに言っていた。
だが、実感が追いついていない。
それが正直なところだ。
スマホがまた震える。
D-Shareの通知だ。
フォロー。
クリップ共有。
トレンド反映。
短い間隔で増えていく。
画面の更新が追いつかない。
その中に、運営からの通知が混ざっていた。
見慣れない表示だった。
俺は画面を開く。
内容を確認する。
新人配信者ランキング。
日間更新。
その文字を見た瞬間、少しだけ息が止まった。
ランキング画面を開く。
一覧が表示される。
上位には見たことのある名前が並んでいた。
配信歴のある新人たちだ。
その中に、自分の名前がある。
順位は――7位。
俺は画面を見たまま止まる。
数秒、思考が遅れた。
初日で7位。
それがどれだけ異常なのか、
配信に詳しくない俺でも、なんとなく分かる。
コメントが流れる。
「何位?」
「入った?」
「はよ」
俺はそのまま答える。
「7位です」
コメント欄が一気に跳ねた。
「きたあああ」
「初日でそれはやばい」
「バグってる」
俺は軽く息を吐く。
ランキング入り。
しかも日間。
初配信で。
現実感はまだ薄い。
だが、数字はそこにある。
コメント欄では、切り抜きから来た新規と、
最初から見ていた人間が混ざり始めていた。
「トレンドから来た勢多いな」
「クリップ回りすぎ」
「凛効果えぐい」
白石凛。
あの一言で流れが変わった。
有名配信者が認める。
それだけで、ここまで人が来る。
配信の世界は速い。
思っていた以上に。
俺はランキング画面を見たまま、
更新ボタンに指を置く。
一瞬だけ迷った。
だが、そのまま押した。
画面が読み込まれる。
順位が並び替わる。
表示された数字。
6位。
俺は息を止める。
また上がった。
コメントが爆発した。
「はやすぎ」
「止まらん」
「ガチでバズってる」
俺はそのまま言う。
「6位です」
コメントがさらに流れる。
「トップ見えてきた」
「5位いくぞ」
「新人最強」
俺は小さく苦笑する。
そこまでの実感はまだない。
だが、流れは感じていた。
確実に上へ引っ張られている感覚。
スマホを握る手に少し力が入る。
ダンジョンとは別の緊張だった。
コメントが流れる。
「フォロワー増えてる」
「見てみ」
「桁変わるぞ」
俺は自分のページを開く。
フォロワー数。
三桁を超えていた。
しかも、まだ増えている。
配信前は0。
今は、もう別物だ。
数字が変わるたび、
本当に自分のことなのか分からなくなる。
コメントが流れる。
「やば」
「一晩でそれ?」
「夢あるな」
俺は画面を見たまま言う。
「正直、実感ないです」
コメントが返る。
「だろうな」
「普通そうなる」
「でも現実だぞ」
俺は一度目を閉じる。
呼吸を整える。
事実だけを並べる。
あの時、役立たずと切り捨てられた俺が。
追放された。
1人で潜った。
配信を始めた。
ボスを倒した。
クリップが拡散された。
有名配信者が反応した。
そして今。
ランキング6位。
一つ一つは繋がっている。
だが、速すぎる。
コメントが流れる。
「次どうする?」
「今日もう一回やれ」
「このまま伸ばせ」
俺は少しだけ考える。
体は確かに疲れている。
だが、頭はまだ動いている。
むしろ、今が一番冴えている気もした。
それでも無理はしない。
今日の勝ちは、見えていたからだ。
見えなくなれば終わる。
それだけは分かっている。
俺はゆっくり立ち上がる。
壁から体を離す。
配信画面を見る。
コメントはまだ流れ続けていた。
「続けるか」
「期待してる」
「追うぞ」
俺は小さく笑う。
初日で6位。
この伸び方は、普通じゃない。
なら、この流れは逃さない。
次で、さらに伸ばす。
そう決めた。
俺は、役立たずなんかじゃなかったのかもしれない。
「じゃあ、また」
配信終了ボタンに指を置く。
少しだけ間を置く。
それから、押した。
画面が暗くなる。
音が消える。
静寂が戻る。
だが、前とは違う静けさだった。
ポケットにスマホをしまう。
ダンジョンの入口へ向かう。
朝の光が差し込んでいる。
少しだけ眩しい。
初配信。
初バズ。
初ランキング入り。
全部が一晩で起きた。
俺は外に出る。
冷たい空気を吸い込む。
そして、静かに呟いた。
「……続ける」
その直後。
ポケットの中で、スマホが震えた。
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