10話 「それ一人でやる動きじゃない」とコメントが騒然となった
ガルドが地を蹴った。
通路の空気が一気に張り詰める。
速い。
だが、問題ない。
最初の一手で分かる。
速さも、型も、癖も。
全部、見える。
この戦闘は、もう終わっている。
湾曲した剣が横薙ぎに走る。
首を刈る角度。
俺は上体を引く。
刃が鼻先をかすめた。
風が頬を打つ。
重い。
だが、遅い。
その軌道は、もう見切っている。
コメントが一気に流れる。
「速っ」
「今の避けた?」
「ゴブリンと全然違う」
ガルドは止まらない。
剣を返し、そのまま踏み込んでくる。
2撃目。
今度は斜め下からの斬り上げ。
俺は半歩だけ横へ動く。
刃が胸の前を通り過ぎた。
オークのような大振りじゃない。
無駄が少ない。
しかも、通路の幅に合わせて振っている。
壁に当てない角度を選んでいる。
こいつは、ただ強いだけじゃない。
戦い方を知っている。
コメントが流れる。
「紙一重すぎる」
「見えてんのか?」
「新人これやばいだろ」
ガルドが一歩引く。
距離を取った。
そのまま左へ回る。
通路の幅を測っている。
俺も少しだけ動く。
壁を背にする位置を取る。
真正面から押し込まれたら終わる。
なら、選択肢を減らす。
コメントが流れる。
「なんで下がった?」
「位置取り?」
俺は短く答える。
「正面だけにしたいんです」
コメントが返る。
「冷静すぎる」
「初配信でそれ言う?」
ガルドがまた踏み込んだ。
今度は速い。
低く沈んだ姿勢から、一気に距離を詰めてくる。
剣先が揺れない。
突きだ。
喉を真っ直ぐ貫く軌道。
俺は肩の動きを見る。
肘の向きも見る。
来る位置が分かる。
だから、首をずらすだけでいい。
剣先が耳の横を抜けた。
そのままガルドの体が流れる。
俺は短剣を出しかける。
だが、止めた。
まだ浅い。
今、反撃しても届かない。
それに、次がある。
最初から分かっていた。
コメントが流れる。
「反撃しない?」
「今チャンスじゃなかった?」
俺は小さく息を吐く。
「まだです。次があります」
言った直後。
ガルドの尾が唸った。
長い尾が横から薙ぎ払ってくる。
剣だけじゃない。
俺は咄嗟にしゃがむ。
尾が頭上を通り過ぎた。
そのまま後ろの石壁に叩きつけられる。
鈍い音。
石の欠片が散る。
頬に細かい破片が当たった。
コメントが爆発する。
「尻尾あるのかよ」
「今の初見殺し」
「危なすぎる」
俺は立ち上がる。
口の端が少しだけ上がった。
分かった。
この相手は剣だけじゃない。
尾。
蹴り。
多分、全部使う。
厄介だ。
だが、悪くない。
情報が増えれば、型も見える。
見えれば、終わる。
ガルドはまた距離を取る。
黄色い瞳が俺を見ている。
笑っているように見えた。
試しているのかもしれない。
俺は短剣を握り直す。
手汗で柄が少し滑る。
だが、視界は冴えていた。
肩の高さ。
腰の向き。
尾の角度。
さっきより見える。
戦闘の情報が、少しずつ繋がってきた。
コメントが流れる。
「新人、顔変わった?」
「今、慣れた?」
俺は短く答える。
「少しだけ動きが見えてきました」
コメントが返る。
「それで済むのか」
「やっぱおかしい」
ガルドが低く喉を鳴らす。
次の瞬間、3歩で距離を詰めた。
速い。
だが、さっきより遅く見える。
1歩目で重心が前に落ちる。
2歩目で剣が少しだけ外へ開く。
3歩目で斬り下ろす。
その後、尾。
さらに蹴り。
全部、繋がっている。
だから、全部見える。
俺は横へ滑る。
剣が肩の横を落ちた。
石床が裂ける。
そのまま尾が来る。
俺は後ろへ半歩。
尾が腹の前を通り過ぎた。
続けて蹴り。
膝が上がる。
俺は体をひねる。
つま先が服をかすめた。
全部避ける。
全部、想定通り。
この連携が、こいつの型だ。
しかも無駄がない。
普通の探索者なら押し切られる。
パーティで受ける相手だ。
コメントが止まらない。
「全部避けた」
「今の3連撃だぞ」
「パーティ推奨モンスターじゃね?」
俺はスマホを見ずに答える。
「そうですね。1人で相手する相手じゃないです」
コメントが流れる。
「じゃあ何で戦えてんだよ」
「意味分からん」
俺はガルドを見る。
もう見えた。
速さも。
型も。
癖も。
足りていない。
こいつは強い。
だが、届く。
次で終わる。
ガルドが剣を構え直す。
その姿勢で確信した。
決めに来る。
なら、こっちも終わらせる。
通路の奥に、張り詰めた沈黙が落ちた。
俺は短剣の切っ先を少しだけ上げる。
視線は剣先。
肩。
腰。
尾。
全部に置く。
一瞬も逃さない。
ガルドが口元を歪めた。
そして、地を蹴る。
本番は、ここからじゃない。
もう終わる。
俺は小さく呟いた。
「――見えた」
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