1話 同時視聴者100万人の俺は、かつて「無能」と呼ばれていた
パーティを追放された。
「お前、今日でクビな」
あの時の声が、今でも耳に残っている。
「戦えないやつはいらない」
「雑用はもう足りてる」
笑い声。
俺が見つけたルートも。
罠の位置も。
弱点も。
全部、こいつらが使った。
――なのに。
誰も止めなかった。
――俺は何も言い返せなかった。
同時視聴者数。
1,024,381。
――追放された俺の配信だ。
コメントが画面を埋め尽くしていた。
「来るぞ」
「右だ」
「また読んでる」
「観察チート」
巨大な影が咆哮する。
全長30メートル。
黒い外殻。
無数の棘。
山のような巨体。
Sランクダンジョン最深部。
何十人もの探索者が挑み、
全滅したボス。
その怪物の前に立っているのは――俺だ。
「観察完了」
コメントが爆発する。
「終わった」
「またそれ言った」
「ボス死亡確定」
巨大な爪が振り下ろされる。
普通なら即死。
だが俺は、半歩だけ動く。
それだけで、すべての攻撃が外れる。
「神回避」
「未来見えてる」
「化け物」
尾が薙ぐ。
しゃがむ。
毒針。
横へ一歩。
全部、見えている。
敵の動き。
癖。
次の行動。
そして――弱点。
俺は短剣を構える。
狙うのは一点。
胸部の奥にある魔力核。
「クリティカル解析」
コメントが流れる。
「来た」
「終わりの合図」
「ワンパンタイム」
俺は踏み込む。
最短距離。
最速タイミング。
最適角度。
すべてが分かっている。
――その瞬間。
視界の端で、
何かが一瞬だけ凍りついた。
すぐに消える。
次の瞬間には、もう跡形もない。
俺は気にしない。
必要ないからだ。
短剣を突き立てた。
「終わりだ」
次の瞬間。
超大型モンスターが崩れ落ちた。
地面が揺れる。
コメントが一斉に流れる。
「またワンパン」
「世界最強」
「観察おかしい」
その時。
背後から声がした。
「……相変わらずね」
振り向く。
そこに立っていたのは一人の少女。
白い探索者ジャケット。
長い黒髪。
配信カメラを構えている。
登録者数100万人の人気配信者。
「全部見えてるんでしょ? そのスキル」
俺は肩をすくめる。
「まあ、だいたい」
その背後で、
小さく息を呑む気配がした。
だが振り向かない。
戦闘は終わっている。
確認する必要もない。
コメントが流れる。
「ヒロインきた」
「この人だけ分かってるやつ」
少女はカメラを向けた。
「新規の方へ説明します」
一呼吸置いて、言う。
「この人、数ヶ月前まで――無名の新人でした」
コメントが止まる。
「嘘だろ」
「新人?」
少女は頷く。
「ええ」
そして、静かに言った。
「パーティを追放された探索者でした」
コメントがざわめく中、
ひとつだけ流れが違うものが混ざる。
「……無駄がない」
「解析精度が異常」
すぐに他のコメントに流され、
跡形もなく消えた。
――この時。
俺を追放した連中は知らなかった。
俺のスキルが。
“すべてを見通す力”だということを。
画面が暗転する。
これは数ヶ月前の話。
同時視聴者数。
10人。
――俺が、すべてを失った日。
そして。
すべてが始まった日だ。
面白かったらブクマしてもらえると嬉しいです




