生き残る者
旧校舎の空気は、やけに静かだった。
風が吹く音だけがこだまする。
校舎の窓はくすんでいて、旧校舎であることをより一層強調させていた。
その旧校舎の校庭に、全員が整列している。
誰もふざけない。
誰も笑わない。
息をすることですら気を使うような空気。
私たちはもう知っている。
生存適性統理育成選抜試験。
最後の一グループになるまで終わらない。
試験は2日間。最後の一グループにならなかった場合、延長戦に入る。
そして、このグループは3年間の運命を共にする仲間だということ。
「……いや、静かだな」
隣でルーカスさん……ルーカスが言う。
私は静かに頷いた。
あまりにも静かすぎる。
教師たちがじっと私たちを見つめる。
激励の言葉も、注意事項の言葉もない。
先日配られたパンフレットに全て記載されているからだ。
知っているだろう、と言わんばかりの視線。
やがて、学年主任のカターモール先生が朝礼代に上がる。
「これより、生存適性統理育成選抜試験を開始する」
それだけ。
ざわめきもなにも起きない。
左腕に付けた腕時計が淡く光る。
心臓が、どくりと脈打つ。
「転送を開始する」
世界が白で塗りたくられるその直前、私は無意識に息を止めていた。
世界に色が戻る。
風が頬に当たる感覚が無くなった。
目を開けると、そこは見知らぬ教室。
机はもう何年も使われていないようで薄いホコリを被り、黒板には古いチョークが置かれていた。
私たちは、校舎内に転送されたようだ。
腕時計をみると、心拍数、体温などが既に表示されている。
【残りグループ:21】
まだどのグループも脱落していない。
「全員……いるね」
ダリアさんがそう呟く。
───転送直後は合流確認。
───近距離グループは避ける。
───初日は極力戦闘をしない。
「あの、一つ作戦に加えたいことがあるんですけどいいですか?」
「今?まあ内容によるけど……」
ダリアさんがビックリしたように言う。
「権理は極力使わないようにしたいです」
「それ、温存ってことか?」
「これから三年間、こんな試験が続くと思うんです。長い目で見た時、すぐ自分たちの手の内を晒すはどうかなって思って。」
思わず私は軽く目を伏せてしまう。
「いいんじゃないかな。これは情報戦だしね」
ノアさんの声が響いた。
「……了解。それなら俺も切らない」
「あー、そういうことね。なるほど」
二人も、私の意見に賛同してくれる。
─── 一人だけ、例外にはならない。
赤い残像が脳裏を掠める。私はそれを振り払うように軽く頭を振った。
「つか、ここの棟の構造先に把握しようぜ。」
ルーカスがそう言った瞬間だった。
遠くで、ガラスの割れる音が聞こえた。
4人の腕時計が、一斉に震える。
私は反射的に再び腕時計を見た。
【残りグループ数:20】
「え、もう全滅したグループがあるの?」
ダリアさんが少し大きめの声をあげる。
試験はまだ始まって20分も経っていない。
なのにもう、一つのグループが消えたという事実がそこにはあった。
体全体が冷えるような感覚がした。
誰も喋らない。試験開始直前のときのような空気が再び流れた。
どれくらい時間が経っただろう。ノアさんが最初に声を出した。
「一旦、移動するのはどうだい?」
廊下の奥、人通りが少なそうな設備管理エリアへと足を運んだ。
「ここなら正面衝突は避けられるだろうね」
鉄と油の匂いが残る空間。あまり人は立ち入らなさそうだ。
「ここに籠るのか?」
「別に籠ってもいいんじゃない?」
「……あの、籠らない方がいいと思います」
なんで?という目で三人が私を見つめる。
「敵の位置は分からないです。でも、音は消せない」
私は腕時計の液晶の上で指を滑らせる。
「音のした方向的に、東側で戦闘があった可能性が高いです。あっちは窓も多いですし、ガラス音とも一致します」
私はミニマップで説明をしながら一気に喋った。
「なるほど。見事な推理力だね」
ノアさんが私に賞賛の声を贈る。
「今日は予定通り、戦わないです。でもその代わり、動きを読むことを徹底しましょう」
私は続ける。
「最初の位置から移動をしたグループは少なくないはずです。さっきの出来事があったので尚更」
二十分もせず一つのグループが消えたのだ。
どこかで焦りを感じているグループは必ずあると言っていい。
「私たちは、接触しない範囲で他グループのルートを観察しましょう。移動傾向が分かれば危険域も絞れます」
「隠密尾行っつーことか」
「見つかったら意味はないですけどね」
その後、私たちは情報を集め続けた。
【残りグループ数:18】
ときおり、腕時計から振動が伝わる。
【残りグループ数:16】
数字だけがどんどん減っていく。
でも確実に、誰かが消えていた。
ちょっとした物音ひとつに、今までにないくらい怯えながら過ごした。
足音、金属音、誰かの悲鳴が響いていた。
夜が来る。
私たちは男女分かれて見張りと睡眠を繰り返した。
暗闇の中目を閉じる。
私たちの判断が正しいのかどうか、分からないまま。




