未完成の連環
全員の権理の説明が終わった。
すると、ノアが口を開いた。
「一旦、模擬戦をしてみないかい?」
「ああ、四人で一気にぶつかり合うってことか?」
ルーカスさんが思いついたように言うが、ノアさんは首を横に振る。
「少しやってみたいことがあるんだ。今回は、ダリアちゃんと僕、トモリちゃんとルーカスのペアで模擬戦をしたい」
やってみたいこと、とはなんなのだろう。
「なんでその組み合わせ?」
ダリアさんが疑問を投げかけた。私もそう思った。ノアさんは迷わず決断した。それにはなにか理由があるのだろうか。
「単純さ。さっき話した制御型と出力型に分けたんだ。僕とダリアちゃんが制御型だね」
意外と単純、というか単純すぎた。
確かに言われてみるとそうかもしれない。風、水は柔軟性がある能力だ。
「武器はもちろん実際のものではなく模擬戦用の武器を使う。」
「決着はどうするの?試験直前なのに相手が潰れるまで戦い続けるのはよくないんじゃない?」
「それについても考えてあるよ。完全な戦いにはしない。あくまで模擬戦だからね。」
「あ、決着がつく直前でやめるってこと?」
「そのとおりだよダリアちゃん」
なるほど。完全には決着をつけない模擬戦。
この学校に来てから誰かと手合わせをするのは初めてだ。なんなら、誰かと組んで戦うのは人生初だ。負けた重圧がかかるのは、私一人ではない。それがとても怖かった。
「あー、なるほどな。じゃあ、早速やってみるか」
そう言ってルーカスさんは私の方に近寄る。
それが合図だったのだろう。
私たちの真上に球形を成した水ができる。ダリアさんの先制だ。
それが、弾けた。
水が風によって細かく離散する。
視界が霧のようなもので包まれる。
私の炎で蒸発させれば大丈夫。
炎を使えば───────。
あのとき、私の炎を見た人は離れていった。
でもこの三人だったらもしかしたら。
そう思い炎を薄く展開する。
霧は消える。
だが、すぐに攻撃が来る。
右から風圧。
当たれば切れる。
私は炎を収束させ、密度を上げる。
─────── 紅蓮弾。
風と衝突。相殺された。
ダリアさんがルーカスさんに攻撃をしようとする。
私は炎踏を使う。
これなら間に合う。
そう思ったとき。
前から猛烈な風邪が飛んでくる。
私は後ろへ吹き飛ばされた。
だが幸い、後ろに人の気配はない。
大丈夫。
グンと、上空へ引っ張られた。
気づけば天井近くまで引き上げられていた。
訓練場の天井は、激しい戦闘を想定して作られているためとても高い。
地面は、遥遠くにあった。
「視界を奪われた時点で、トモリちゃんの意識は地上に固定された」
隣から声が聞こえ、私は反射的に振り返る。
「やっと気づいたかい?ずっと上にいたんだよ」
そこには、ノアさんがいた。
「反応は悪くなかったね。出力型なのに出力管理がしっかりできていたよ」
ほんの少し声が柔らかくなる。
でも、すぐに戻る。
「ただ、一人で戦う癖がついてしまっている。」
一拍置き、決定的な一言を発する。
「トモリちゃんは強い。でも、まだ噛み合ってないんじゃないかな?」
下で、ルーカスさんがダリアさんの水によって拘束されている。逃げようがない。
「いい戦いだったよ」
ノアさんは少しだけ笑った。
「でも、今回はここまでだね」
風で拘束されていた私の身体が地面に降りていく。
私は、炎を消した。
出力はちゃんと制御できていた。
判断も間違っていない、はずなのに。
私は、ちゃんと「反応」していたのに。
視線を上げると、ルーカスさんが目に入る。
少しだけ、悔しそうにしていた。
「くそ……」
そんな声が、小さく漏れた。
はあっ、と大きく息を吐き出し、ルーカスさんは天を仰ぐ。
「俺、前に出すぎてたな」
「いや、私がルーカスさんの動きを意識できてなかったから……私は、来てから合わせてた。」
ルーカスさんは一瞬目を見開き、苦笑する。
「それ、俺も同じだ」
視線が合う。
「あいつらの連携、ヤバかった。俺らはただ、二人で並んでただけなんだなって」
二人で並んでいただけ、か。私たちの今を最も分かりやすく表した言葉だ。
「次は、並ばないようにしましょう」
「どういう意味だ?」
ルーカスさんが小首を傾げる。
「動く前に決める、ってことです」
ルーカスさんの口角が上がる。
「いいな、それ」
ルーカスさんが口を開く。
「てか、さん付けはもういらなくね?」
「……考えておきます」
ルーカス。
声には出さないけど、その言葉を胸の奥で静かに転がす。
悔しさはまだ残っている。でも、ちゃんと次に向いている。




