幕開けは炎とともに
炎には、守る力と奪う力がある。
そして、何かを守るためには何かを差し出さなければならない。
これは、特殊能力を持つ少年少女の物語。
1人の少女が掲げた炎は、やがて国家を揺るがす炎となる。
※本作は別アプリにて掲載していた作品の改訂版です。内容に一部変更・加筆があります。
春の空に、桜がひらりと舞い降りる。
ラドロネス権理育成高等学校。
ラドロネス共和国直属の教育機関。
私は、その光景にどこか現実味を感じられずにいた。
周囲では、新入生たちが何気ない話をし、小さく笑いあっている。
緊張と期待が混ざったざわめき、と表現すればいいのだろうか。私は、その輪の外にいた。
別に避けられているわけではない。
ただ、入る理由とその勇気を持ち合わせていないだけだ。
この、春特有の言葉にできない感情には、名前があるのだろうか。
ここにいる全員が、“ 権理保持者”。
それぞれが、世界の法則に触れる力を持っている。
守る力にも、奪う力にもなり得るものだ。
私も例に漏れず、炎を宿している。
だけれど、それが何を意味するのか、私はまだ知らない。
突然、私の隣の席の椅子がガタリと動いた。
彼と私の視線が、一瞬だけ交差する。
でもそれだけだった。
どちらからも、言葉は生まれない。
壇上では、校長の声が淡々と響いている。
何分くらいたっただろうか。
入学式は、まだ終わりそうにない。
「諸君は、選ばれた存在だ」
その言葉が、妙に胸に残る。
選ばれたって、何に対して?
「そして一週間後、生存適性統理育成選抜試験を実施する」
生徒たちの間でざわめきが起こる。
私の心臓も、一際大きく脈打った。
「準備期間は七日間。諸君らの在学が保証されるのはそれまでだ」
7日間。これは猶予なのだろうか。それとも、余命宣告なのだろうか。
「脱落判定は統理監視システムが自動で行う。試験続行不可能と判断された場合、そこで試験脱落ということになる。そして、最後まで残ったグループを暫定首位とする。」
グループ?
今まで一度も出てきていない言葉がいきなり出てきたことにより、私のみに限らず再び全体がどよめく。
「なお、このグループは、統理相性値に基づき決定済みであり、3年間を共にする仲間である。」
そう言った瞬間、校長先生の後ろにあるモニターが点灯する。
そのモニターには沢山の名前が羅列している。
モニターに映し出されたたくさんの名前の中に、「トモリ・アーレント」という文字を見つけた。
第七班
1年A組
ダリア・フローレンス
トモリ・アーレント
ルーカス・アゼリア
ノア・ベネディクト
なんとなく、最初のクラス表で見たような名前だ。でも、顔と名前が全くと言っていいほど結びつかない。どんな人達なんだろう。
それからも話は続き、考えもしないような展開を繰り広げた入学式は幕を閉じた。
結構緊張するけど、これから3年間仲良くして行かなきゃ行けない仲間たちに会ってみたい、と私は思った。
私は今、1年A組の教室にいる。全員1年A組だから、この中の3人が私のグループのメンバーだ。
でも、話しかける勇気が出ない。もし違う人に声掛けちゃったら結構気まずいし……。
「トモリ・アーレント……?」
不意に後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、黄色い瞳の少女がいた。長く伸びた赤髪をポニーテールで綺麗にまとめている。
「第七班の女の子だったりする?私、ダリア・フローレンスなんだけど」
この子だ。私のグループのメンバーの1人が、目の前に立っていた。
「そう、ですけどなんで分かったんですか?」
どんな風に喋ればいいのか分からず、変なところでつっかえてしまう。初対面の人と話すのは苦手だ。
「ううん、わかってたわけじゃないよ。ただ何となく、一番席が近かったから話しかけてみただけ。」
ほら、私あなたの斜め前の席だし、と言いながら自分の机に軽く触れた。
「男女二人ずつだよね。なんて名前だっけ」
「ルーカス?さんとノアさんみたいな名前の人だった気がします」
確証が無かったので濁った発言になってしまう。珍しい名前だから。
「あ、もしかしてお前ら第七班か?」
また新しい声が響く。彼はちょうどダリアさんの背後に現れた。そして長身だ。私が平均身長より小さいのもあるかもしれないがそれでも大きい気がする。
「俺、ルーカス・アゼリア。まあ、よろしく」
彼は軽く挨拶を済ませた。
サラリと長い髪が肩から落ちた。ダリアさんに負けず劣らずの長髪だ。違う点と言えば、髪色が黒なのと、キッチリ綺麗にまとめているダリアさんと違って荒々しくザックリとまとめられているところだ。
「ルーカスか。よろしくね」
ダリアさんはそう言ってニコリと微笑む。
「あと一人、ノアなんとかって人知ってる?」
ダリアさんは最後のグループメンバーの情報を尋ねた。
「知らねえ。これ、メンバー探すのまじで苦労するよな」
「僕のことかい?」
緑色の瞳が私たちを覗いた。金髪の余裕そうな表情を浮かべた人だった。
パチリと一度、まばたきをする。
「あなたがノアなんとかって人?」
ダリアさんがそう質問する。
「ノア・ベネディクト。これからよろしくね」
そう言って少し微笑む。ベネディクトとはなんとも珍しい名前だ。
「じゃあ、これで全員だね」
ダリアさんはそういうと楽しそうに手を合わせる。
「やっぱり、まずは何事もお互いを知ることからだよね。教室だと騒がしいし屋上とかに移動しない?」
「一応自己紹介しよっか。私はダリア・フローレンス。三年間付き合っていく仲なんだし、仲良くしようね」
ダリアさんはサラリと自己紹介を済ませた。
次、誰が自己紹介するの?
屋上には、初対面特有の空気が漂っていた。
「これ、俺が言った方がいい感じか?」
片手を軽くあげながらそう言ったのは
「俺、ルーカス・アゼリア。まあ、よろしく」
そしてルーカスさんは初めて会った時と一言一句違わない自己紹介をした。
「はいはーい、よろしく。どんどん進めよ!次!」
ダリアさんはパチパチと手を叩き、テンポよく自己紹介を進めるように促す。
「じゃあ、僕、ノア・ベネディクト。よろしくね」
「あ、私トモリ・アーレントです。よろしくお願いします」
勢いに任せて自己紹介を終わらせてしまった。でも、変に緊張した状態でやるよりはサクサクと話すことができた気がする。
「で、こんなにパパっと自己紹介を終わらせたのには理由があるんだろ?」
ルーカスさんは足に肘をつき、ダリアさんに視線を送る。
「そりゃそうでしょ。これからが本題だよ」
「ああ、そういうことか」
ノアさんが納得したように声を上げる。
そうか、この自己紹介は前座だ。本当にしたかった話は───────
「『権理』の話ですか?」
「ご名答だよ。トモリ」
ダリアさんがそう言って口角を上げた。
世界の理に触れる力を持つ私たちの物語は、まだ始まったばかりだ。
第一話を読んでくださり、ありがとうございました。
第二話もよろしくお願いします。




