36.絶対強者(中)
Tips:能力の仕様
基本的に、一人の人間が通常の能力を2つ以上同時に使用することは出来ない。理由は、脳のメモリ不足とエネルギーが不足することである。
しかし、以下のような例外は存在する。
・能力の模倣や奪取を前提とする能力の一部(例:無堂瑞希の『複製』など)
・まじかる☆マーゴの能力『想ひ紡ぐ連星』により接続された能力効果
・『呪手』や『才食権備』による特性の奪取
なお、常在能力についてはその限りではない。理由は、『恵体』や『超速再生』をはじめとする常在能力は脳のメモリを使用せず、また生来の肉体に備わった機能であるためと考えられている。
アジトにて、排水管の修理が終わった井桁。
冷蔵庫を開け卵を取り出し、白米の上で割る。
「お、双子卵だ。ラッキー。」
高密度のビームが新城の頬を掠める。回避行動が間に合ったため新城にダメージは無い。
「どうして!!私ばっかり!!!」
人形を抱いた女を中心として魔法陣が展開する。
「取り上げられるの!!!」
無数の光の柱が、飛び上がった新城に集束する。
雷撃と共に新城が移動する。しかしその先に魔法陣。
「許せない!!」
新城が弾いた火の柱が屋根を破壊する。
「この世の全て!!」
懐に入った新城。しかし、女の魔法陣が間に合う。
それを見た新城は舌打ちし、落下中の瓦礫を足場にして上空へ飛び上がる。
女は人形を前に突き出し大量の魔力を込める。
「“破滅の光”!!」
一方、新城の上空に濃い雲が集まる。
「“成霹靂”!」
女の術式による攻撃と新城の雷撃が衝突する。
しかし、雷撃が押し負け、行き場を失ったビームが雲を穿つ。
(雷撃は基本、一撃に全てを懸ける単発攻撃。だがあの女の魔術攻撃は魔法陣が消えるまで継続するらしいな。)
当然、同じ威力の遠距離攻撃なら単発の方が不利である。新城は有巣のように多才ではない上に、攻撃手段は雷と徒手空拳しか存在しない。故に、魔術によりそもそも敵を寄せ付けない女の戦い方は、新城と戦う上でこの上なく有利に働く。
(相性不利か。)
しかし、その逆境が、
「上々だ。」
新城右玄の闘争心に火をつけた。
女の周囲の空中に魔法陣が展開される。
「!?」
しかし、次の瞬間には女の背後に新城が迫っていた。
(速い...!!全開の思考加速ありきでも身体が着いて来ない!!)
ドン、と鈍い音。女の腹を雷が貫いた。
「ぐ...っふ...!!」
意識を失い膝をつく女。取り落とした人形が小さく音を立てる。
しかし次の瞬間、
「神器解放」
聞いたことのない高い声。
(新手か...?...いや、違うな。)
「『ひとつかみの奇跡』」
人形による詠唱。新城の思考が纏まるよりわずかに早く、人形を中心とした結界が構築された。
(魔術か、それとも人形の能力か。後者なら話は早いが前者なら...)
何にせよ、神器が展開した結界に巻き込まれたことに変わりはない。
「何者だ。」
新城が話し掛けると、人形が浮遊し新城と目を合わせる。
「天使。」
「随分と俗な姿の天使だな。」
瞬間、焼け焦げた女の身体がわずかに震えた。
「ボクの能力は奇跡を起こす。奇跡の大きさは、受けた愛の大きさに依存する。」
大量の魔力が溢れ出す。しかし新城は微動だにしない。
数秒後、結界が破れ人形は地面に落下。同時に、女が立ち上がる。
「あぁ...ごめんね...私の天使......」
「終わりか?」
冷たく言い放った新城を女は鋭い視線で睨む。
「人体の蘇生にかかるコストは大きい......きっと私の愛が足りなかったのよ。」
「馬鹿馬鹿しいな。」
「実際に蘇生してるんだからバカには出来ないでしょう。」
女の口調が先ほどまでとはまるで変わっていることに気付いた新城は、興味ありげに自分の顎を撫でる。
「お前そんなインテリ系だったか?」
「ごめんなさい。統合失調症を患っていて......寛解したものと思っていたのですが。」
「へぇ。」
項垂れる女。
その時、廊下から重そうな足音が聞こえてきた。
「体調はどうですか、恵美さん。」
落ち着いた声の主は、黒いフルフェイスマスクと裾の長い上着、そして大きなリュックを背負った男。
男は、左肩に酢漿の分身体を抱えている。
「新城右玄さんですね。」
「何で俺の名前知ってんだ?」
「会長からお話を伺ったので。不快に思われたのならすみません。」
丁寧な口調。その胡散臭さに新城の緊張が高まる。
(“会長”か...こいつらの上司ならめちゃくちゃ強い奴なんだろう。)
「私はリヴェイン。そしてこちらの女性は花宮恵美さんです。共に“三星会”本部の評議会に所属しています。」
“三星会”という語に反応し、咄嗟に新城が2人から距離を取る。
「おや、そんなに怖がらなくても良いですよ。」
「そうですよ。別に取って食ったりはしないので。」
2人のゆったりとした口調も、その強さ故のものなのだろう、と新城は確信した。
「三星会はマフィアだのヤクザだのを潰しまくってるやべぇ組織だろ。その本部のヤツがなんで此処にいる?」
先程、新城と戦った際の花宮は正気を失っていた。にもかかわらず、新城にギリギリ劣る程度の実力を持っていたのだ。
そして、リヴェインが抱えている酢漿の身体がコントロールを失った分身体であるという事実を、新城は知らない。
「そんで、お前はなんで酢漿に勝てた?」
「ひとつずつ、順に答えましょう。」
リヴェインは酢漿の身体を置くと、胸に開けられた穴から少しだけ血が噴き出す。
「我々が此処に居る理由は2つ。1つは、此処を拠点とする盗賊団の調査。もう1つは会長との合流です。しかし、あるイレギュラーが発生しました。」
「イレギュラー?」
「第三勢力の介入です。我々が此処に到着したとき、既に盗賊団の構成員らしき者は討伐された後でした。勿論、あなた方が到着するよりも前です。」
「......先に誰かが倒したのか?」
「恐らく。そして、酢漿菜々さん...正確には酢漿菜々さんの分身体をこの状態にしたのもその第三勢力でしょう。」
「...は?それ、分身体なのか?」
「はい。体内に胃袋以外の循環器が存在していた痕跡が見受けられないので、知識が無い者が作成した粗悪な複製か、或いは能力の特性を理解した上で敢えて粗悪にしているものと思われます。」
依然として血が流れ出し続けている酢漿の分身体を見て、新城は眉をひそめる。
「じゃあ、お前らは俺らの敵じゃねぇんだな?」
「はい。我々は貴方の味方です。」
すると、花宮が空を見上げて口を開く。
「そろそろ、撤退した方が良さそうです。」
「おや、会長が本気になりましたか。」
「ええ。恐らく。」
その後、近くに2枚の鏡が出現した。
片方の鏡にはアジトの屋上が映っている。
「右玄さんは左の鏡を通ってください。」
「待て。」
鏡に向かって歩く2人を新城が呼び止める。
「酢漿の分身をどうすんだよ。」
「解剖します。複製とはいえSクラスの身体は貴重ですから。」
「...気色悪ぃな。」
3人が通った数秒後、鏡は音もなく消滅した。
遠くで雷の音がする。
(新城の雷か...どんだけ広いんだこの敷地。)
壁に開けられた均一な大きさの穴。そして地面に転がっているのはズタズタにされた死体群。それを背に、有巣の分身が立っている。
(やっぱ難しいな。プリン食いながら戦うのは。)
有巣はマルチタスクが絶望的に苦手である。そのため、『呪手』を使ったマニュアル操作の分身では『 』も魔術も使えず、魔力の放出のみで敵を倒したのだ。
幸い、有巣の魔力は冷気と斬撃を帯びているため、ある程度浴びせるだけで簡単に致死量を超える。
しかし、こんな回りくどい方法を取るよりも本体で殴った方が早いので、有巣は二度と分身を使わないことを心に決めながら分身体を消した。
「...あ。」
(間違えてスプーン持って来ちゃった。)
その時、有巣に近寄る男が一人。
「有巣仁理だね?」
振袖の男はどうやら有巣に用があるらしい。
(あの格好はおそらく“道術”を使う道師だな。)
道術とは、有巣らが“魔力”と呼ぶ余剰分の生命エネルギーを“気”と解釈する流派である。魔術とは違い近接戦と支援に特化しており、炎藤乾太が用いた回復や、酢漿菜々の身体を乗っ取った際にベルゼブブが用いた“発勁”などが道術に該当する。
また、魔術において自身の肉体を再生させる手段は術式を介した治癒魔法しか存在しないため、有巣も回復の際は道術を使用している。
「君の目的を教えてもらっても良いかな。」
道師の喋り方が胡散臭い。
「目的次第では...残念ながら、君と戦うことになる。」
構える道師。
「目的か。そんな大それた物じゃないがな。」
有巣は中空から杖を呼び出し、静かに唇を舐めた。
「鏖殺だ。」
Tips:新城右玄のプロフィール
・173cm70kg
・ニート。しかも人の家で酒盛りを始めるタイプの厄介なニート。働くのは嫌いだが戦うのは好きなので魔獣への対応で日銭を稼いでいる。
・能力『雷』
自力での発電が可能。電気の操作に加えて、天候を操作して雷を落とすことも可能。しかし雨を降らせることは出来ない。
・常在能力『蓄電』
電気を身体に貯める、及び貯めた電気による回復・強化が可能。しかし代わりに魔力が生成出来ない。
・好物はワインと煎餅。
備考:Sクラスに指定されたのは出雲と新宿に神格実体が出現した事件の数日後。新城はそれまで正確な能力検査を行っておらず、目撃情報と魔獣の討伐実績のみでAクラスの認定を得ていた。
なお、出雲に出現した神格実体の核になっていた明確な理由は不明。本人の陳述と有巣の意見を元に立てられた推察では、新城が酔い潰れて街中で倒れていた所を有巣から逃げた後の神格実体に取り込まれたものと思われる。




