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あの果てしない空の果て  作者: kai
吟遊と安寧編
35/39

35.絶対強者(上)

今回の登場人物

・有巣仁理(Sクラス)

主人公。女性のような容姿の男子大学生。自分以外の全てを舐め腐っているので何がなんでも敬語は使わない。


・無堂瑞希(Sクラス)

左眼を欠損している女子高校生。自分が他人より何かしらで劣っているという前提で生きているため常に敬語を使っている。


・天道穂香(Sクラス)

身体が頑丈なコミュ障の女子高校生。無堂瑞希の友達で、有巣と無堂以外の人間との会話はほとんど成立しない。楽器が一通り演奏出来る。


・綾取廻(Sクラス)

容姿端麗な成人女性。大体なんでも出来る上に目的のためなら手段を選ばない狡猾さを持っているが、今となっては特にこれといった目的が無いためただの無口なお姉さんである。


・新城右玄(Sクラス)

“雷神”の異名を持つ男。常に気怠げであまり他人に干渉しないが、酒が好きなので飲み会には参加する。和装を好むくせにワインが好き。


酢漿菜々(かたばみなな)(Sクラス)

天真爛漫な女性。思考は回るがマルチタスクが絶望的に苦手。化粧が下手なので常にすっぴんで勝負。

苗字が読みづらいため、めちゃくちゃフリガナをふってある。


・井桁蒼太(Aクラス)

心優しき青年。今回唯一の良心だがアジトの排水管が中々治らないため出番はほとんど無い。猫探しを5秒で終えた実績がある。

アジトの屋上にてトレーニングに励む者が5人。

「そういえば、Sクラスでいちばん強いのって誰?」

突拍子もないことを言い始める、休憩中の酢漿菜々(かたばみなな)

「有巣くんかな。」

上空で組手を続ける有巣仁理と新城右玄を見ながら、同じく休憩中の綾取廻が即答する。

「じゃあ、その次は?新城さん?」

有巣の杖から放たれた雷撃を新城が吸収する。

「いや、天道ちゃんかな。」

2人の視線の先には、タオルで汗を拭く天道穂香が居る。

「天道ちゃんって...あの無口な子?」

新城が放った雷撃で有巣の右腕が大破し、杖を取り落とす。

「あの子、どれぐらい強いの?」

杖が空中で静止し、新城に向かって光線を放つ。

そして、新城は片手でそれを弾いた。

「有巣くん以外の4人でかかっても、余裕で負けるよ。」

「嘘でしょ?」

有巣と新城が着地する。

既に完治している有巣の腕を見て、新城は感心する。

「治癒が早ぇな。それも吸血鬼の能力か?」

「いや、魔法だよ。」

「俺にゃわかんねぇってことだけはわかった。」

その時、扉が勢いよく開かれる。

「有巣さん!!」

出て来たのは無堂瑞希。

「どうした。そんな切羽詰まって。」

「いや、たまには焦ってみようかなと。」

「アホか。」

「警察の人が来たんです。有巣さんを呼べ、と。」

有巣に視線が集まる。

「お前なんかしたのか?」

新城が言うが、有巣は首を横に振る。

「Sクラスは無罪放免か殺処分のどっちかだろ。」

「どう頑張っても殺せないから交渉しに来たのでは?」

酢漿(かたばみ)

「お前ら揃いも揃って俺を犯罪者にしようとするな。」

「もう手遅れですけどね。」

「うるさい。」

ふふ、と笑う綾取を殿(しんがり)に、一同は階段を降りるのだった。


綾取が湯呑みで茶を出す。

「どうも。」

男の名は霧島大輔(きりしまだいすけ)。警視庁異能犯罪対策課の刑事である。

「だいぶ増えたな。それに美男美女揃いだ。」

「喧嘩なら買うぞ。」

「どーどー新入りの兄ちゃん。やめてくれよ。俺は非能力者なんだ。」

霧島は茶を啜り、無精髭を撫でる。

「本題に入るぞ。」

テーブルを囲んでソファや椅子に座る6人のSクラス。

霧島は、全員が座ったのを確認してから、テーブルに捜査資料を置いた。

「今回お前らに頼む内容を簡潔に言えば、悪党の成敗だ。」

資料を一枚捲ると航空写真が見える。

「栃木県の山中に盗賊団のアジトが見つかった。礼状も出せるし、家宅捜索も出来るんだがな。一つ問題があるんだ。」

「問題?」

首を傾げる酢漿(かたばみ)

「あぁ。大問題だ。」

もう一枚捲ると、死体の写真があらわになる。

「うっわぁ...」

「ガサ入れに入った警察官が返り討ちにあった。」

不意に、有巣が立ち上がる。

「要はボコせば良いんだろ。」

次いで、無堂と新城が立ち上がる。

「話は早いですね。」

「俺らならすぐだ。昼飯には間に合う。」

霧島が両手を上げる。

「待て待てお前ら。話聞け。」

「過剰戦力だよね。」

綾取の言葉を霧島は首肯する。

「言うまでもなくな。Sクラスは6人も要らん。代わりに舵原を借りたい。」

「舵原さんは能力免許の更新で不在です。」

と無堂。

「じゃあ斑目。」

「その更新の手続きをするのが斑目。」

と有巣。

「ならパチンカス。」

「宮本ちゃんなら、白井ちゃんと舞香ちゃんを連れて京都観光中だね。」

と綾取。

「ならあの...アイツは。」

「井桁くん?なら...」

キッチンの方を見る酢漿(かたばみ)。視線の先には、排水管と格闘する井桁蒼太。

「悪い!まだ当分かかる!」

「らしいよ。」

はぁ...と大きな溜め息をつく霧島。

「バチクソデカ溜め息つくじゃん。」

「前に天道妹が山ごと吹っ飛ばしたの忘れてないからな。」

急に名前を出され目を丸くする天道。

一方で無堂は眉を(ひそ)める。

「じゃあ、天道さん以外から誰か1人ですか?」

「いや、敢えて3人にしよう。」

有巣が入れた横槍に霧島は苦い顔。

「お前なぁ...Sクラスを動かすことの重大さがわかってないのか?」

「どうでもいい。それより新城と酢漿(かたばみ)に実戦を踏ませたい。」

無堂が首を傾げる。

「さっきの組手で実力は充分見たのでは?」

しかし有巣は首を振る。

「防御力カンスト勢相手に試し撃ちしても火力はわからんだろ。」

「あぁ...それはそうですね...」

「仕方ないな。」

霧島が立ち上がる。

「車を出す。着いて来い。」



「Sクラスが此処に来る。」

「それは本当です?」

男は荒れた頬を搔く。

「変革の時だ。」



車内にて。

後部座席に座るのは有巣、酢漿(かたばみ)、新城の3名。あからさまに寄って来る酢漿に、有巣は不服そうな顔。

「狭い。」

「良いじゃんちょっとぐらい。いつ死ぬのかもわかんないんだし。」

押し黙る一同。次に沈黙を破ったのは新城。

「...そういや、有巣は何であのアジトに人を集めてんだ?」

んー、と外を見ながら生返事する有巣。

「集まったヤツらに訊いてくれ。」

「類友なのかなぁ。強い人の所に強い人が集まる...的な?幽波紋(スタンド)同士は惹かれ合う!...みたいな?」

酢漿が言うが、有巣の方は何処吹く風といった様子。

「要領を得んなぁ。それじゃ偶然としか言えん。」

「着いたぞ。降りろ。」



4人が出て行った。

有巣さんが居ないアジトはいつも静かだ。私たちの世界は、たぶん有巣さんを中心に回っている。

「じゃあ、私この後バイトなので失礼します。」

「私も出掛けて来ようかな。」

そう言って、瑞希ちゃんと綾取さんはアジトを後にした。

...あれ?そうなると...井桁さんと2人...かぁ......

(いや、気まずい!!)

「そこのスパナ取ってくれない?」

...え、私?...いや、私だよね...?

他に誰も居ないもんね!?

「ん?何かあった?」

「い、いえ!!な、なななんでもない......デス!!」

あぁ...やめて...そんな顔で見ないで......



「此処が盗賊団の拠点か...興奮してきたな。」

「サンドウィッチ食べたくなってくるね。」

先に歩き始める有巣。

「んじゃ後で合流ね。」

新城も歩き始める。

「ちょっと!3人で共闘じゃないの!?」


結局、解散して少しの時が経ち...

「...なぜプール?」

しかも水が張られている。

疑問が絶えない酢漿(かたばみ)。一方で、彼女に近寄る影が一つ。

「何で、って思うよな。」

話し掛けたのは、青いインナーカラーの男。鼻の頭がわずかに赤く、吐く息は白い。

「舵原くん...?」

男の顔が舵原に似ている気がして、酢漿の口を突いて言葉が出た。

「兄の知り合いか。なら話は早い。」

男は半透明なナイフを握る。

「死ね。」

駆け寄る男の背後から飛んで来る氷を、ギリギリで避ける酢漿。

(舵原くんの...弟!?)

腕を鰹節に変えてナイフを弾く酢漿。

(氷の能力...だけど、)

ナイフが酢漿の頭上を掠める。

(操作が杜撰(ずさん)!能力に慣れてないんだ!)

「素直に死んでよ!!」

巨大な氷柱が空を穿つ。

雲が巨大な氷塊に変わる。

「“大氷撃(だいひょうげき)”ッ!!」

酢漿は指を氷塊に向け、慎重に狙いを定める。

「“青海波(セイガイハ)”!!」

青白い魔力が真っ直ぐ飛び、そのまま氷塊を輪切りにする。

「な...ッ!!」

酢漿菜々の能力『才食権備(さいしょくけんび)』は、食べた物の形質を記憶し模倣する能力である。無堂瑞希の『模倣』と同じく、ストックは永続で、更に食べるのは対象の一部で良い。しかし、致命部位を一つ以上食さなければ形質の維持に制限時間がかかる。

ここで言う“致命部位”は脳と心臓。故に、心臓さえ無事ならば他を差し出せる有巣仁理と、身体の一部さえ残っていれば『超速再生』で全快出来る天道舞香と無堂瑞希、そして天道穂香の致命部位を酢漿は既に口にしている。

なんと、『才食権備』で模倣できる形質に、能力や常在能力、そして身体適格も含まれる。そして、先程の青白い魔力は元々有巣のものである。

「ごめんね。」

つまり、現在の酢漿は有巣と同じポテンシャルを持っている。

「や、やめろ...」

舵原弟の額に手をかざす酢漿。

しかし、その時、


「秀也!あーん!」

「姉さん...恥ずかしいよ...」

「遠慮すんなって〜!」


酢漿の脳裏を埋め尽くしたのは、


「姉さん!弁当忘れてるよ!」

「あぁ!ナイス秀也!」


無数の“有り得ない過去”、そして“存在しない記憶”。



バチッ、と音がして分身との接続が切れた。

「うわぁ、最悪。」

「どうしました?」

無堂が炬燵の向こう側から酢漿に話しかける。

「記憶が混線起こしたっぽい。」

「あー、オーバーフローしたか。」

有巣が酢漿の右でポテチを頬張っている。

「誰の記憶?」

「たぶん舵原くんかな。弟さんと戦ってたから。」

「舵原に弟なんて居たのか。」

うん、と頷く酢漿。3人ともそこまで驚いていない。恐らく、さほど興味がないのだろう。

「記憶の中だと私が舵原くんのポジションにいたよ。“姉さん”って呼ばれてた。」

「そんな夢女子みたいな感じなのか。」

「にしても、なんで記憶が混線するんですかね?」

「臓器に記憶が宿る、という話を聞いたことがあるか。」

「あぁ、ありますね。臓器移植された人がいきなりそれまでと違う趣味を始めた、とか。」

「ソレだ。それと同じ現象が能力でも起きるんじゃないか、と知り合いの医者は言ってたな。」

有巣は、ポテチの袋の空気を抜き、綺麗に畳む。

「じゃあ、舵原くんの能力をコピーしたから、酢漿さんは舵原さんの記憶の一部を見れるようになった...ってこと?」

無堂が立ち上がり部屋を出る。

「だな。」

「じゃあ、瑞希ちゃんの『模倣』でコピーしたときに同じことが起きないのはなんで?」

「能力のコピーを前提とする能力だからだろうな。俺の『呪手』でもそうだし。」

「そっか。能力をコピーしなきゃいけない能力なのに一々混線起こしてたらヤバいもんね。」

無堂が部屋に戻って来る。

「プリンありますよ。」

「じゃあ食べるか。」


3人のSクラスが談笑する一方、酢漿の分身体は機能を停止し硬直していた。

事情が呑み込めない舵原秀也。しかし、自身に迫った危機を脱したことだけは理解出来ていた。

「...ヤバい......!」

大慌てで走り出す舵原秀也。

雷鳴が響く。次の瞬間、酢漿の分身体に針のような指が迫っていた。



「面倒臭ぇなぁ。」

気怠げに立ち止まる新城。そして、ひらけた部屋でスポットライトに当たる女が一人。腕には赤子の人形を抱えている。

「あぁ...私の可愛い赤ちゃん。」

恍惚とした表情。焦点が合っていない。

「ねぇ、あなたは今どこにいるの?なんで私のところからいなくなっちゃったの?」

その異様な光景を、新城はただ茫然と眺めるより他に道はない。

「なんで、私は不幸なの?」

Tips:酢漿菜々(かたばみなな)のプロフィール

・165cm58kg

・うっすら桃色がかった白髪を短く揃えた髪型。スタイルが良い。

・能力:『才食権備』

食べたものの形質を模倣する能力。模倣した形質を発現させる時間は、食べた部位の重要度と体積に比例する。

作中で言及したとおり、本来は他人の能力を模倣するデザインではないため、記憶が混濁する場合がある。先日の“ベルゼブブ”の件は、酢漿がベルゼブブを完食したことでその記憶に精神を乗っ取られたため発生した。

・好物は果物。特に桃と林檎。

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