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あの果てしない空の果て  作者: kai
妖魔黎明編
32/40

32.神をも喰らう者

Tips:用語と詠唱

魔力や霊力に関する用語に明確な指定は無い。これは、魔力や霊力を操る者が少数であり、その殆どが技術を秘匿しているためである。

ちなみに、第二層に至る際の詠唱も同じ理由で能力者ごとに異なる。効果が異なることや第二層に至る技術が体系化されていないことが理由となり、第二層に到達した能力者はごく少数である。「二層解放」や「異能解放」、果ては「領域展開」などを使う者も居るらしい。

神格実体出現の警報発令と同刻、有巣仁理は東京都新宿区に居た。

「俺、参上!」

静寂が耳を突く。どうやら、住民の避難は終わっているらしい。

(毎度どうやって避難誘導してんだろうな...)

その時、有巣は足下に嫌な感触を覚えた。

どうやら、血溜まりを踏んだようだ。

「あらら。」

血の主は井桁蒼太の住むアパートの大家。既に息は無い。

(アパートからここまで結構離れてるよな...?)

次に、有巣は地面に散っている巨大な花びらに気付いた。

「えぇ〜、もう討伐されてんの。」

大家の死体に視線を戻す。先程は気付かなかったが、頬に僅かながら根のような構造が見える。

(基礎はコイツだな...あとは討伐したヤツだが。)

視線を上げると、倒壊した建物がいくつか見える。

(探すのは難しくなさそうだな。)


血の匂いが鼻を突く。

折り重なった屍の上に、死肉を貪る全裸の女が一人。

直後、有巣と目が合う。

「誰だ、貴様。」

一瞬の逡巡。有巣の口が開かれる前に、女の顔が明るくなる。

「ベルフェゴール!」

「違ぇよ阿婆擦れ。」

「違うの!?」

(ベルフェゴール...七つの大罪のうち「怠惰」を象徴する悪魔だな。どこの伝承だったかは覚えてないが。)

有巣は空中から杖を取り出し、女に向ける。

「その“ベルフェゴール”とかいうヤツと俺の顔が似てんだろ。」

「そう!ドッペルゲンガーなのかな!?」

「随分と俗世に染まってんな。」

「まぁね!ミーハーだもん!」

とてつもない魔力量に、有巣は思わず顔を顰める。

しかし女は意に介さず、屍の山を降り有巣に近寄る。

「なんでベルフェゴールと似てるの?ってかベルフェゴールは今何してるんだろう?」

知らん、と言いかけた口を一度噤む有巣。彼には心当たりがあるようだ。

「...知らん。」

「嘘つき!知ってるんでしょ!」

より顔を近付ける女。魔力のなんとも言えない不快感に、思わず有巣は顔を背ける。

「離れろ。(けむ)い。」

「ねぇ教えて!」

女は有巣の肩を掴もうとする。しかし、伸ばした手は有巣の目の前で止まった。

「何これ!?バリア!?」

瞬間、有巣の右拳が女の腹を捉えた。

女は死体の山に強く背中を打ち付けた後、腹を抑えて地面に這いつくばる。

「ぐおぉ...せめて杖で殴れよぉ...」

「いや、近過ぎて振りかぶれねぇし...」

有巣は、女に敵意が無いことを疑問に思っていた。知人に顔が似ていたため気が緩んだのか、それとも敵意を持つ必要があるほど敗北経験が無いのか。どのみち有巣は、恐らく大量の死体を作った原因である彼女を無視する訳にはいかない。

(住民も、逃げた訳じゃなく、コイツに殺されて喰われたんだろうな...)

対するベルゼブブは違和感を感じていた。

(能力が使えない...きっとあいつが何かしたんだ...!)

「先に名前だけ訊いておこう。」

杖を向ける有巣。

女は上体を起こす。

「ベルゼブブ。そっちは?」

「有巣仁理。」

「ひとり!女の子みたいな名前だねぇ!」

立ち上がる女。魔力の漏出は先程より抑えられている。

(ベルゼブブ...七つの大罪のうち「暴食」を象徴する悪魔の名前か。)

「...で、ベルフェゴールをどうしたの?」

目の前に駆け寄ったベルゼブブを見て、速いと有巣は感じた。恐らく、今まで有巣が見た誰よりも速い。有巣自身を除いて。

「殺した。」

言い終わるや否や、ベルゼブブの拳が空を切る。

(ただの拳じゃない、“発勁”の型だな。)

空中に回避した有巣。次の瞬間、すぐ上にベルゼブブが現れる。

振り下ろされた踵に杖が衝突する。

刹那、有巣は魔力を炸裂させ、ベルゼブブを大きく弾き飛ばした。

(強いな。一撃が重い。流石は悪魔だな。)

(強い!本当に人間!?しかも私より速い!!)

空を蹴り上へ向かう有巣。

「させない!」

阻止するべく飛び上がったベルゼブブ。

しかし、

「甘いな。」

背後から声が聞こえた。

もうベルゼブブの目の前に有巣は居ない。

「な...っ!?」

「残像だ。」

杖の先から魔力が噴き出す。

有巣の魔力をもろに浴びたベルゼブブは、裂傷だらけの肉体での着地を余儀なくされた。

「いっった!!!」

グシャ、と着地の衝撃に耐えかねた脚が崩れる。ベルゼブブはすぐさま魔力を流し込んで治すが、完治より僅かに早く有巣が懐に入り込んだ。

(まずい!)

杖の先に黒いエネルギーが集まっている。

霊力と魔力がぶつかれば中和される。中和されたエネルギーは制御不可能な状態になる。つまり、魔力による身体強化は不可能となる。

能力も使えない、魔力での防御も不可能。ベルゼブブに残された手段は一つ。

「術式解放!!」

能力過運転状態(オーバードライブ)。規格外の魔力による強制的な第二層能力の起動である。

Tips:能力過運転状態(オーバードライブ)

そもそも「オーバードライブ」という言葉は大量の魔力もしくは霊力が肉体を変質させる現象を指すため、「能力過運転状態」と書いて「オーバードライブ」と読むものは誤用である。しかし、「能力過運転状態」は能力を司る松果体を変質させ無理やり出力を上げる、つまり脳を変質させるものであるため、一部界隈ではこの誤用が定着した。最早訂正することも面倒であるため有巣らはこれを放置している。

実は、「能力過運転状態」と「オーバードライブ」は神格実体と密接に関わる事象である。「能力過運転状態」は肉体にとてつもなく負荷がかかる上に変質した脳を元に戻す際にある程度の魔力を必要とする。しかし、脳を元に戻す工程が失敗した際にはエネルギーが暴走し、そのエネルギーが肉体を変質させ神格実体に作り変える。この、エネルギーの暴走により能力者が神格実体と化す現象が本来の意味での「オーバードライブ」である。つまり「オーバードライブ」とは、神格実体を生み出すイレギュラーであり、「能力過運転状態」はそれを引き起こす可能性を孕んだ危険な強化なのである。

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