3.熱を帯びる
Tips:能力を持った道具
能力者が道具を長期間にわたり使用し続けることで能力が転写されることがある。その場合、道具が持つ能力は長期間にわたり使用し続けることで擦り切れ使用不可になっていく。
一方、能力を植え付けられた状態で制作されるものもあり、その中でも特に格式の高いものを『神器』と呼ぶ。神器は耐久性に優れており、古典によると完全消滅には五劫の歳月を要するといわれている(諸説あり)。
なお、有巣仁理が指を鳴らすだけで粉微塵に出来る。
閑静な住宅街に響く轟音。ひしゃげたトラックの上で立つ人影。
「一人なんだね。連れの人はどうしたのかな。」
視界がトラックから飛び降りる女を捉えた刹那、衝撃が無堂瑞希の身体を穿つ。
「チッ」
間一髪、身体を捻って被害を左腕のみに抑えた無堂は即座に回復。『解析』の起動と同時に、刀を召喚し応戦する。
(斑目詩織。187cm95kgの獣人型。能力は...無し!?)
斑目は薙刀を振り回し無堂を後退させる。リーチ的に刀が入る余地は無い。
(速い!多分、有巣さんの次に!)
無能力者。非能力者とは別の区分で、能力を持たない代わりに特別な“才能”を持つ者。斑目の場合は『恵体』と呼ばれる筋力の増加に加え、獣人型特有のパワーとタフネスも合わせた最高練度のフィジカルを持つ。
斑目が大きく飛び退く。
「一緒にいた綾取廻は何処に行った?」
「...知りませんね。」
実際、綾取の行方は無堂も知らないためそう答えるしかない。その答えを聞き、斑目は大きく溜め息をつく。
「...夢の中とはいえ、有無を言わせず殺すだけか。」
すると斑目は先ほど潰したトラックに薙刀を刺し、軽々と持ち上げる。
「どんなパワーしてるんですか!!!」
飛んで来たトラックを間一髪で避け民家の壁に張り付く無堂。無堂が顔を上げるより僅かに早く、薙刀が無堂の腹を貫く。
「ぐッ...!!」
投げ飛ばされコンクリートに凹みを作った無堂。
「タフだね。耐久上昇系の能力でもコピったのかな?」
「クッソ...」
確かに、無堂は耐久上昇能力を山ほど積んでいる。しかしそれ以上に、耐久上昇を貫通するほどに斑目、ひいては斑目の持つ薙刀の攻撃力が高いため、無堂は一度致命傷を負ってからの再生を余儀なくされている。
その時、斑目が薙刀を投げた。
「いぃッ!?」
とんでもない音を発しながら薙刀が無堂の眼前を通り過ぎた刹那、無堂の背後で斑目が薙刀をキャッチし大きく横に振る。
「あぁっ!!」
情けない声を出しながら回避する無堂。しかし斑目の攻撃は止まない。
(追い付けない...!これじゃ防戦一方...!)
分身する無堂。斑目が偽物を攻撃する僅かな隙を逃さず、無堂は刀を握り直す。
「オーバードライブ!!」
『能力過運転状態』。能力を司る部位に規定量を超えるエネルギーを注ぎ、一時的に『第二層』を引き出す技術である。
しかしその時、無堂の視界が大きく歪んだ。
「うぅ...」
倒れる無堂。心配して駆け寄る斑目を尻目に、無堂の意識は暗闇に沈んでいった。
「弱ったな...」
一方で、有巣仁理は苦戦を強いられていた。
相対するのは斑目詩織。数珠の付いた薙刀を振り回す彼女に、最早意思など存在しない。
有巣の記憶が正しければ、斑目が保有する薙刀は『草薙剣』と呼ばれるオブジェクト群の内の一つである。“剣”なのに薙刀なのはさておき、別名『天叢雲剣』と呼ばれるそれらは、因果を乱し能力を無効化するとのいわれがある神器である。
「『神器』が何か知っているか?」
斑目からの返答は無い。
「『神器』とは、能力を宿す“器”のうち、特に格式の高い...要はめっちゃ強い物を指す。」
大仰な動作で手をかざす有巣。
「神器召喚『呪手』」
有巣の掌の上に現れたのはなんと黒いチョーカー。ショートボブの髪を掻き分けながら首に『呪手』を装着した有巣は、袖を捲り両手を広げる。
「待っていてくれるとは、優しいな。」
白々しい演技である。それもそのはずで、有巣は説明している内に自身の血液を操作し斑目の足首を地面に括り付けていたのだ。
斑目を解放するつもりはない。尤も、操られている相手とマトモに戦おうとするほど馬鹿な男ではない。
「“祈りの御手”、“召喚”」
有巣の背後に5体ほど、手が組み合わさって出来た式神が召喚される。それぞれの四肢のうち、人間でいう腕にあたる部分には縫合跡が存在している。
式神が拍手を始める。同時に、有巣は音もなく斑目の懐に潜り込んだ。
「鳴式『轟』」
血を吐き白目をむく斑目。
「...マジか。」
有巣の全力の一撃を受けてなお、斑目は仁王立ちのままである。
「...まさか、ここまでとは。」
数秒後、斑目が血を吐き倒れる。その様子を確認し、胸を撫で下ろす有巣であった。
大きなステンドグラスからカラフルな光が差し込んでいる。身体の左側面を照らされる天道穂香は、やや鬱陶しい光を手で遮る。
視線の先には人影。天道はその足下に、ちょうど持っていた人の頭を投げる。
「...誰?」
白髪混じりの長い髪と、不揃いな無精髭。腰にある刀は柄の布がほつれており、かなり年季が入っていることが窺える。
「...誰でも良いだろう。」
男が刀に手を掛けようとするも、失敗に終わる。違和感を感じ、男はゆっくりと自身の右手に視線を向ける。
無い。男の肘から先の部分が消えており、傷口からは煙が上がっている。
「...誰。」
天道の冷たい声が背筋を撫でる。肉の焦げる匂いが鼻を突く。天道の立ち位置は変わっていない。
僅かな間。刹那、天道の姿が消えた。
血溜まりの上を歩いた靴が足跡を作る。嗅ぎ慣れない血の匂いにも動揺することなく、天道穂香は一際大きな扉の前で足を止めた。
天道穂香。日本に数人しか存在しないSクラスの能力者の内の一人で、全能力者中最高火力を誇る現代の異能。有する能力は『核融合』。太陽と同質のエネルギーを際限なく生み出すその能力は、能力をも貫通して全てを灼き尽くす程の密度と質量を持つ。
天道は人差し指を扉に向け、指先で円を描く。
丁寧に調整した円の上に掌を翳す。掌は轟音を発し、扉を内側に吹き飛ばした。粉微塵になった扉を見て、やはり火力を抑えるのは難しい、と天道は内省する。
かなりの音が響いたにもかかわらず、室内の人々は反応しない。全員が壇上の女を見て手を合わせている。
天道が足を進める。一つにまとめた黒髪ロングと不敵な笑みは事前に有巣から聞いた綾取廻の特徴と合致するが、壇上の女が綾取廻ではないことは想像に難くない。本物だろうが偽物だろうがすることは同じであり、天道に躊躇は無い。
空振る。どうやら壇上の女は幻影であったようだ。
手を合わせていた人々から一斉に敵意が向くのを、天道は背中で感じた。
「お前ええええ!!!!!」
血飛沫。慟哭。瞬く間に死体が5つほど出来上がる。
「ああああ!!!」
炎が血溜まりを焦がす。空気が熱を帯びる前に、天道の拳が胸腔を穿つ。
四方から飛ぶ矢が天道の頭蓋を見据えている。天道は一瞥もせず、人差し指で全ての矢を押し返し砕く。
返り血が蒸発する。刀身が溶解する。熱気を帯び滞留する空気とは裏腹に、最後の男は寒気を感じていた。
「なんで...僕らの拠り所を奪うんだ...!」
穿たれた腹部から、切断された両足から、焦げた頬から、大量の血を流しながら、男は眼前の冷たき太陽に問う。
「あのまま幻想に抱かれていれば幸せだったんだ...!僕らは誰にも迷惑なんか掛けちゃいない...ただ夢を見ていただけなのに!!」
能力を使うまでもない、放置すればいずれ失血か酸欠により死亡する。
「このまま死ぬくらいなら...最期くらいは...“神様”に感謝を伝えたかった...!!」
太陽は照らす相手を選ばない。天道は、自身の持ちうる最高温度で、男を灰塵と為した。
数分後、炎は延焼を起こすことなく鎮火した。飽和した熱気は、存在しない死体に餞を寄越すかのように、焦げた室内を抱いていた。
Tips:無堂瑞希のプロフィール
・159cm42kg。
・黒髪のストレート。特徴的なのは前髪で左目を隠す髪型。気合いを入れる時は髪を結ぶ。なお不器用なので中央で結べない。
・職業は高校生。天道穂香と同じクラスである。
・能力は『模倣』。他者の能力を模倣しストックする能力である。基本的にどんな系統の能力も模倣できるが、その能力に合った肉体に変化出来るわけではないため注意が必要。
・好物は豚骨ラーメン。特に二郎系。




