26.無堂瑞希
Tips:エネルギー系統
殆どの人間は頑張っても魔力しか扱えないが、霊力の扱いを可能とするイレギュラーが一定数存在する。これが俗に言う“霊感”というものである、
ポニーテールにした白い髪、雪のように白い肌。そして、青い着物と袴。無堂瑞希の瞳に映るその姿は正しく、伝承上の『氷の剣士』と一致する。
思考の合間を縫って、無堂の懐に入る有巣仁理。
次の瞬間、無堂は空に投げ出されていた。
(氷の剣士は平安時代の能力者...吸血鬼病を患って不老の有巣さんなら同一人物だとしても説明がつく...!)
複数回の破裂音と共に無堂に追い付く有巣。
(空気を蹴って...!?)
蹴り落とされる無堂。すかさず追撃の構えをとる有巣。詠唱は無い。
巨大な氷が無堂を捉える。空中で身を捩り、なんとか凍結は足だけで済んだ。
(氷...!?いや...)
ここは地上の建物が豆粒よりも小さく見えるような上空。大気中の水分量はたかがしれている。これだけの氷を出せるリソースは無い。
すなわち、
(大気を凍らせた!?)
「ガラ空き。」
有巣の声は女性のそれになっている。そして、いつの間にか召喚されていた『紫陽花』が空を切る。
なんとか斬撃から逃れた無堂は対抗すべく刀を召喚する。
瞬間、
(...煙?)
(嵌ったな。)
言わずもがな、大気は常温で気体である。これはすなわち、大気の沸点が常温よりも下にあるということである。ということは、
(...まずい!)
冷却により固体化した大気は、外気温により沸騰・膨張するのだ。
加えて、有巣は手に黒炎を纏う。
空気が膨張する。爆風に晒され、無堂は思わず目を瞑ってしまう。
『紫陽花』が無堂の首筋を捉えたかに見えたその時、黒い塊が刃を阻んだ。
「良いね。」
有巣が弾かれる。その隙を逃さず、無堂は両手を翳す。
「おっと?」
有巣の前に白い十字架が現れる。陽杯教事件の際に有巣を拘束したあの十字架だ。
「全て見てきました...!貴方の能力の発動条件も!」
これは有巣にとって嬉しい誤算だ。
(おそらく無堂は俺の能力名を知らない...!能力名を知らないということは、能力の詳細な効果も知らない可能性が高い!!)
加えて、
「さっきの凍結は魔力の特性!貴方の能力自体は、自身にかかる影響か、自分が触れている物にしか効果を発揮出来ない!!」
無堂の後ろに、黒い槍が出現する。
(誤りだ。そもそも、)
瞬間、十字架と黒い槍が消滅する。
「なっ!?」
「そんなのブラフに決まってんだろ!!」
飛ばされた魔力が無堂を捉える。
(マズい!!)
有巣の魔力は、触れたものの温度を奪う特性を持っている。そして、魔力と逆の性質を持つ霊力は、発火する性質を持っている。加えて、有巣のエネルギーは常に斬撃を帯びているのだ。
魔力の合間を縫って有巣の首筋を斬りつける無堂。
しかし、
「悪いな。」
「なッ...!?」
有巣の肉体は、自身のエネルギーの特性に対応するため、斬撃に対して耐性を持っていた。
有巣に蹴飛ばされる無堂。
(忘れてた...!綾取さんとの戦闘の時、有巣さんは素手で薙刀を握ってたのに...!)
その時、下を見下ろした無堂はあることに気付いた。
(あれは...?)
人型の何かが複数体、黒い塊の上に居る。
よく見ると、手が寄り合わさった形をしている。
しかし、逡巡が仇となった。無堂の思考の隙に、有巣の『火威』が無堂を捉えたのだ。
(能力が起動しない...!?)
「“祈りの御手”!!」
有巣が手を合わせる。しかし、首に『呪手』は装着していない。
無堂は嫌な気配を察知する。しかし、先程の『火威』の効果で能力は起動しないままである。
(...マズい!!)
空を蹴って飛び上がる有巣。瞬間、上空に大量の巨大な拳が出現する。
「剛拳!!」
やっとのことで蒼炎が消える。
「『止まれ』!!!」
拳は止まらず、無堂ごと黒い塊を捉える。
しかし、無情にも拳はすり抜け、なんとか地上スレスレで止まる。
それを予期していたかのように叩き落とされた無堂の目の前まで移動していた有巣。
「天式!!」
既に『紫陽花』は納刀している。白い光を帯びた拳が、無堂の脇腹を捉えた。
「『天音』!!!」
再度、遥か上空まで放り出される無堂。
(わかった...!マーゴだ!!マーゴで式神と自分を接続して能力を使えるようにしているんだ!!)
神器を装備した際、装備者は当該の神器が持つ能力を使用可能な“状態”になる。そして、マーゴの能力『想ひ紡ぐ連星』は、能力等によるバフ効果を共有出来る。前者の“状態”が、『想ひ紡ぐ連星』の“共有”に引っかかり、有巣本体が式神が装備している神器の能力を使用可能な状態になったのだ。
そして、無堂の予測はもう一つ。
(普通、能力の2個同時使用は出来ない!つまり、有巣さん本人の能力と『呪手』を同時に使ってる有巣さんは、式神に負担を押し付けている!)
能力が2個以上同時に使用出来ないという原則は、脳にかかる負担によるものである。そして、この“負担”は、『想ひ紡ぐ連星』の裁定において“損傷・摩耗”に分類される。すなわち、現在の有巣は式神の数だけ能力の使用可能数が増えた状態なのである。
(それなら!)
「オーバードライブ!!」
魔力が膨張する。思考が鮮明になる。第二層に突入した無堂は、複製能力『核融合』を起動する。
無堂の眼前まで迫る有巣。しかし、僅かに遅かった。
「『天照』!!」
雲が蒸発する。
周囲の全てを巻き込んで天道穂香の能力を使用し、無堂は爆発した。
黒い塊の上に着地し、息を整える無堂。
「流石に...これなら...タダでは済まないでしょう...」
「あぁ、当たればな。」
背後に立つのは有巣仁理。姿も変わらず、汗ひとつ流していない。
「『天...」
『動くな』
能力を発動しようとした無堂が硬直する。
(何...が...!?)
その時、無堂は思い当たる。
自信が複製した『支配』の特性に。
「綾取の『支配』の発動条件は、対象が綾取の姿を視認すること、もしくは綾取の声を聞くこと。そして、一度発動すれば何度でも、何処に居ても『支配』を掛けられる。お前の分身体に掛かったカウントは俺の能力で消したが...」
有巣は変身を解き、無堂の頭に手を当てる。
「分身体越しに綾取を視認したお前はダメだったらしいな。」
有巣は、無堂の左眼の黒い影を引き抜いた。
「あの子なんか変!」
「こら!見ちゃダメ!」
昔から、いつもそう。
「何その目。気持ち悪い。」
「こわーい。呪われてんじゃないの?」
「うっわ、肌汚ぇー。」
いつしか、人と会うのが怖くなった。
私に白馬の王子様は居ない。
欲しいものは、自分で手に入れるだけ。
「瑞希!早く降りて来なさい!」
幸い、母の能力は『分身』だった。
「...はーい。」
そんな時、
「あ、悪い。手元が狂って...あれ?もしもーし?」
「...助けてくれてありがとうございます。」
「え?あぁ...そうか。うん!どいたま!」
「あの...お名前を伺っても?」
「有巣仁理。」
有巣さんは、どうやら能力を消せるらしくて。
ただ、能力の効果はよくわからなかった。というか、わかったところで複製出来ないだろう。なんせ、処理が重すぎるらしい。
けど、有巣さんなら、
有巣さんなら、助けてくれるかもしれない。
「...美人じゃねぇか。」
異物を除去されて拒絶反応が無くなったため、無堂の身体からは発疹と皮膚炎が引いている。おそらく左眼は元から無いのだろう、左瞼は凹んでいる。
綾取の元へ行っていたマーゴが戻って来る。
「瑞希さん、強かったですね...。」
「あぁ。そうだな。」
有巣の瞳に映るのは、分身体と変わらない、可愛らしい寝顔だった。
Tips:無堂瑞希の左眼
無堂瑞希の左眼を覆っていた黒い影は、陽杯教編で有巣が討伐した霊体型神格基盤、“空亡”と同質のものである。




