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あの果てしない空の果て  作者: kai
魔法少女☆有巣仁理編
20/40

20.愛も憎も吐き出して

Tips:有巣仁理の趣味

有巣仁理の趣味は、自身の能力の研究。特に、アニメやゲームの技を真似するのが好き。

無堂瑞希と知り合ったキッカケは『穿血』の試し撃ちである。公園で試していたら暴発し、コントロールを失って、無堂を連れ去ろうとしている男に直撃したのだ。

なお、男は死んでいないが、半身不随になったらしい。

「ちょっと!?」

ビチャビチャと吐き出されたのは、うっすら白い粘り気のある液体。

白井響香の呼吸が乱れる。背中を(さす)りながら、無堂瑞希は吐瀉物を凝視する。

(何...これ...臭い...)

鼻をつくような刺激臭。それとは別の、不快な匂い。

(......イカ...?)

再度の嘔吐。今度は同じ液体と共に、黒い塊が吐き出される。

(霊力結晶!?まずい!!)

「ごめんなさい!白井さん!!」

咄嗟に白井の腹を締めるように腕を回して持ち上げる無堂。圧迫感に耐えきれず、白井は三度目の嘔吐。吐瀉物にはまた黒い塊。

吐瀉物から離して白井を降ろし、背中を擦る無堂。

「落ち着いてください。ゆっくりで良いですから。深呼吸。」

霊力結晶。密度の高い霊力が処理しきれなかった際に生まれる塊。

霊力。人が負の感情を抱いた際、生命エネルギーが変質して生まれる負のエネルギー。

以上の情報を有巣から叩き込まれた無堂は、白井を何とか落ち着けようと考える。

しかし、

「...うぅ...瑞希...ちゃん......」

「白井さん!無理しないで!!」

白井が無堂の目を見る。

「......逃げ...」

音が消える。


瓦礫がどかされ、何とか立ち上がる無堂。

「大丈夫!?」

手を差し伸べたのは斑目詩織。

「...何が......」

「ピカ!って!めっちゃ光って!!爆発で!!」

斑目は土や砂で汚れている。

『超速再生』を起動し、無堂は打撲痕や裂傷痕を治す。

「多分、魔獣化したんです。白井さん。」

「魔獣化?」

巨大な黒い塊が白い煙を上げながら移動している。

そして、無堂と斑目が後を追うように走り出す。

「さっき、白井さんは霊力結晶を吐き出しました。」

「霊力結晶?」

倒れている木を飛び越える2人。

「はい。負の感情から生まれる“霊力”が結晶化したものです。」

「魔力とは別?」

「別どころか!」

倒れてくる木を殴って砕く斑目。

「真逆の性質を持ってるんですよ!」

「霊力が減って均衡が乱れたから魔力が暴走して魔獣化したってこと!?」

「違います!!」

「じゃあどういうこと!?」

轟音。辺りの魔獣が活性化しているようだ。無堂と斑目はそれらを蹴散らしながら進む。

「霊力を吐き出しても感情が吐き出される訳じゃありません!溢れ続ける霊力が暴走して魔獣化したんですよ!!」

「霊力から生まれたのなら魔獣じゃないのでは!?」

一瞬、無堂は考える。

「確かに!!!」

「とにかく止めないと!!」

白井の前に躍り出た2人。

「白井さーん!!」

返答は無い。それに、白井の姿は見えない。

(『透視』!!)

間違いなく、塊の中に白井の姿がある。どうやら肉体が変質した訳ではないようだ。

「斑目さん!」

「もう連絡した!」

「流石!!」

2人の声に反応し、魔獣が集まる。

「面倒ですね...」


「うっひょ〜!」

カツ丼を前にハモる1人と1匹。

「うまい!うまい!」

「おいしい!」

その時、有巣仁理のスマホに通知が来る。

「ひとり!通知が来てるよ!」

「んー?」

『街がやばい はやくきて』

「んー、斑目なら大丈夫だろ。飯終わってからでも。」


「早よ来いやあああああ!!!!」

既に魔獣の死骸が山ほど積み重なっている。

「よりによって何で面制圧が得意な人たちが居ないんですか...?」


一方、天道穂香は。

「んぁ〜...もう一杯...」

爆睡中である。


「舞香ちゃんは!?」

『ごめん!今京都にいるの!許してちょ!』

「なんでだよおおおおお!!!」

怒りに任せて巨大な蛇型魔獣の死骸を投げる斑目。一気に大量の魔獣が殲滅されるが、建物も大量に壊れてしまう。

一方で、無堂は白井を起こそうと躍起になっていた。

「白井さん!起きて!!」

黒い塊の中央、半透明な結晶の中に埋まっている白井。入り込めるような隙間がない。

(マズい...このままじゃ酸欠に...!)

大量の魔獣が無堂の背後に近付く。

一瞬、反応が遅れた無堂。後ろを振り返るが、もう魔獣は目の前である。

その時、

「いっけええええ!!!」

魔獣の後ろに現れた黒い影。

「『死ね』」

破裂音が響く。

大量の血飛沫と共に、綾取廻が無堂の横に着地した。

「この子は?助けるの?」

「同級生です。」

「じゃあ助けなきゃだね。『出て来て』。」

反応は無い。

「そんな...」

「例え出る手段が無くても聞こえてたら反応はする筈だから、多分聞こえてないね。」

その時、黒い塊が大きな触手を四方に出す。

「凄い量...!」

斑目の視線の先、倒壊した瓦礫の影に、隠れている子どもがいる。今まさに、触手に踏み潰されようとしていた。

一方、空中を伸びる触手は、民家を破壊し1人の男を引きずり出した。

「マズい...!」

「斑目さん!!」

無堂の声。瞬間、大量の触手が斑目を襲う。

「ぐゥ...ッ!!」

質量に押し潰されそうになる斑目。

「ヤバい...!」

「待って!」

反射的に降りようとした無堂を綾取が制止する。

刹那、黄色の閃光が戦場を駆けた。

「私の参上!!」

「双葉ちゃん!」

「宮本さん!」

子どもと斑目を抱えているのは、眼が青く光っている宮本。

そして次の瞬間、空を穿つ巨大な氷の棘。

氷は触手を両断し、男を叩き落とす。

「斑目!!」

「了解!!」

建物の間を縫って男を助けに行く斑目。

何とか地面スレスレで男をキャッチする。

「うわクッサ!!」

反射的に男を落としてしまった。

一方、氷を出したのは空中で浮遊している有巣仁理。髪は白く染まり、瞳は宮本と同じ青色に光っている。

そして、上が白、下が赤の巫女装束を身にまとっており、隣にはまじかる☆マーゴが浮いている。

「...巫女?なんで?」

状況が呑み込めず困惑する無堂。綾取は、有巣がこちらを指さしていることに気付いた。

「避けよう。無堂ちゃん。」

有巣仁理の式神、まじかる☆マーゴ。その能力は『想ひ紡ぐ連星(ミラキュラステラ)』。

想ひ紡ぐ連星(ミラキュラステラ)』は、能力者を「観測者」、任意の2つ以上の物体を「(ステラ)」とし、ルールを強制する代わりに特殊効果を付与するというもの。

ルールは「(ステラ)同士は互いに近付けない」「(ステラ)同士は互いに干渉出来ない」「観測者はいずれかの(ステラ)に随行し、好きなタイミングで星間を移動できる」というもの。代わりに付与する特殊効果は「能力効果を共有する」「損傷・摩耗を共有する」「魔力量を底上げする」というものである。

現在の有巣は、マーゴの『想ひ紡ぐ連星(ミラキュラステラ)』の効果によって宮本の『会心(クリティカル)』のバフ効果を共有し、更に魔力量が底上げされた状態である。なお、巫女服に意味は無い。

白井に向けた左手の指が緑の光を帯びる。

光式(こうしき)

光が増幅し、周囲が一瞬だけ、僅かに暗くなる。

魔力が高まる。

「『螺鈿(らでん)』」

緑色の閃光が駆け抜ける。

穿たれた霊力結晶は大量の霊力を放ち、白井を解放する。

「白井さん!」

多量の液体が零れる中、無堂が白井を受け止める。

霊力に耐えかねて服が破け落ちてしまっている。移動してきた綾取が上着を羽織らせる。

数秒後、白井は意識を取り戻し、大きく咳き込んだ。同時に、先ほど零れたのと同じ液体を吐き出す。

「これは...?」

「羊水。」

移動してきた有巣が言う。

もう髪も目も黒に戻っている。

「羊水...!?」

男を抱えて同じく移動してきた斑目は、男を雑に下ろしながら言う。

「タオルあるよ!」

「それ、民家から盗んだの...?」

いつの間にかタオルを持って来ている宮本に呆れる斑目。

「いや...落ちてたし...はは。」

その時、白井が口を開いた。

「ごめんなさい...」

「無理しないでください。謝罪なら後で聞きます。」

白井の背中を撫でながら、無堂は言う。

「俺が出張る事態になるとは...なぁ。」

有巣は、ちょうど意識を取り戻した男の方を見て言う。

「おおおお前!お前男かよおお!!女みたいな格好しやがって!!」

「お前...」

明らかに不機嫌そうな顔の斑目を有巣が手で制止する。

「落ち着け。時間なら」

「なんでこんな女ばっかなんだよ!!響香か!?響香が呼んだのか!?!?」

「ちがう!違うの!!信じて!!」

「信用ならない!!お前は!!」

その時、無堂が男の頬を叩いた。

「おおおお前!!おまっ、殴ったなあああ!!」

男が唾を撒き散らしながら無堂の胸ぐらを掴む。

「おまっ」

「離せ!!!」

凄まじい声量に、思わず声の方を見る一同。

皆の予想に反して、有巣の表情は冷静そのものである。

「二度は無いぞ。」

思わず手を離す男。

「お、お前...何様なんだよ!」

指をさされるが、有巣は何も言わない。

「...有巣さん。」

無堂の意図をおおよそ察し、有巣は大きな溜め息をつく。

次に、有巣は白井を顎でさす。

「首筋。腹。脚。」

有巣が言った部位には痣がある。特に、腹の物は一際大きい。

「虐待痕だな。」

少しの間。

「ちが」

「違うかどうか訊いてるんじゃない。殴らねぇとこの痕は付かねぇって言ってんだ。」

男が恨めしい視線を有巣に向ける。

「殴るか?この期に及んで殴って解決すると思ってんのか?懲りねぇなぁ。バカに付ける薬なんて無いってのが良くわかる。死にかけても治らねぇんだもんな。」

矢継ぎ早に捲し立てる有巣。

「いいかよく聞け。お前が白井(そいつ)を殴ったせいでSクラスが3人とAクラスが2人出張ったんだぞ。町も半壊、魔獣も増えた。大変だなぁ。」

「いやでも...それは」

白井(そいつ)がやった事、とか言うのか?言えんのか?お前に。」

主張を遮られ、男は押し黙る。

「跡を見るに、真っ直ぐ進んで来たんだろう。山の上から真っ直ぐにだぞ?よっぽど恨みがあるんだなぁ。」

「そもそも!」

男が拳を握る。

「そもそも!!お前らが!!早く倒さないから!!町が壊れたんだろ!!」

絶望的に滑舌が悪い。有巣はギリギリ聞き取れず、眉間に皺を寄せる。

「悪い。人間の言葉で喋ってくれ。」

「お前ぇ!!!」

男が有巣の胸ぐらを掴む。

臭い息と痘痕面に不快感を抱きながら、有巣は口を開く。

「殴れよ。」

男が有巣の頬を殴る。身体の軽い有巣は、いとも容易く後ろに倒れる。

馬乗りになる男。反射的に出ようとする宮本と綾取を、それぞれ斑目と無堂が止める。

「おかしいと思ったんだ!お前弱いだろ!!」

男が有巣の顔を何度も殴る。段々と腫れていく有巣の顔を見ていられず、白井は顔を背ける。そして、今すぐにでも叫びたい気持ちをぐっと堪えるマーゴ。

「お前が!!早く!!止めないせいで!!!」

有巣の顔は腫れ上がり、最早原型を留めていない。

男が、肩で息をしながら、有巣に唾を吐きかける。

「俺が死にかけたんだぞ。」

流石にダメだ、と思い無堂が止めようとしたその時、ようやく有巣が口を開く。

「気が済んだか。」

痛がる様子すら見せない有巣に、男の顔が歪む。

「なんでそんな平然としてんだよ!!」

有巣は答えない。

「ははは、俺よりブサイクだな...女みてーな顔しやがって...」

「...もう、良いでしょう。」

「良くねぇ!!」

見かねた無堂に怒鳴り散らす男。

「良くねぇ!コイツだけいい思いしやがって!俺は!俺は!!」

その時、男が涙を流した。その様子に、有巣を除いた一同は困惑する。

「俺は...」

「...わかるぞ。」

「わかってたまるかよ!!誰も!俺の...気持ちなんか...」

「わかる。」

男が避け、有巣も立ち上がる。

魔力を顔に流し、腫れを治す。

「俺の場合は性格だけどな。昔から自分自分で、相手の話を聞こうとしなかったから煙たがられてたんだ。」

男は、目を丸くして有巣を見る。

「顔の良い者が有利なのは否定しない。俺も多分、顔で許されてる。」

「そんなこと」

「ただな。」

有巣は、口を挟もうとした無堂を遮る。

「ただ、それは女を殴って良い理由にはならない。他人を恨んでも、社会を恨んでも、目の前の女を殴ったら終わりだ。いよいよ俺らは人間じゃなくなる。」

有巣は自分の拳を見て、再び男に視線を戻す。

「...もうその女に関わるな。」

膝から崩れ落ちる男。行こう、と一同に呼びかける有巣。

日が落ちようとしていた。

Tips:まじかる☆マーゴのプロフィール

・40cm8kg

・白いモフモフの精霊。お昼寝とごはんがダイスキ!

・能力:『想ひ紡ぐ連星(ミラキュラステラ)

発動条件:「(ステラ)」2つ以上の設定

自身を「観測者」とし、2つの異なる物体を「(ステラ)」に設定出来る。

「観測者」と「(ステラ)」に以下のルールを強制する。

(ステラ)同士は互いに近付けない

(ステラ)同士は互いに干渉できない

→例:連絡が取れない、声が届かない、能力効果の対象に取れない など

③観測者はいずれかの(ステラ)に随行する

→随行する(ステラ)は選択可能

その代わり、以下の効果を付与する

(ステラ)の能力等によるバフ効果の共有

→例:『会心(クリティカル)』のゾーン状態、『恵体』、『 』の速度0バリアや能力無効化バリア など

②損傷・摩耗を共有する

→新たに受けたダメージが等分される

③魔力量の底上げ

(特殊)マーゴの持つ魔力は有巣と同一であるため、『 』による能力無効化の対象にならない(正確には、有巣が対象から弾きやすい)。

・好物は丼物。特にロコモコ丼とカツ丼。

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