2.虚構
Tips:「非能力者」と「無能力者」
「非能力者」は文字通り“能力者ではない者”を指すが、「無能力者」は違う。
「無能力者」とは、脳の中心部付近にある“松果体”が能力を司っていないものの、能力者と同等のポテンシャルを持つ者を指す。なお、作中では天道舞香と斑目詩織が該当する。
また、無堂瑞希は通常の能力に加え「無能力者」が持つポテンシャルも模倣することが可能である。
「はぁ〜...やっと午前が終わった...」
そう言い、今日も机に倒れ込む無堂瑞希。その様子を見る天道穂香は、どこか物憂げな表情をしている。
「...何ですか。」
無堂の視界を塞ぐように立つ女。ポニーテールにした綺麗な黒髪と皺ひとつないシャツは、彼女の几帳面さを表している。
無堂の記憶の中にこの女は居ない。しかし、無堂はこの女を知っている。
(...何故?)
存在しない点同士が線で繋がる。
「無堂さん。」
「...あぁ、綾取さんですか。」
無堂の中で、何かが切れる音がした。
刻まれた文字が消えることは無い。
「ふぅ、食った食った。」
カレーを平らげた有巣仁理と天道穂香。
食器を洗う有巣は、天道にある質問を投げかける。
「無堂と仲良いんだっけ。」
「はい。」
「ふぅん。普段どんな話するの。」
「...髪の話?」
「へぇ。女子高生っぽいな。」
そこで会話が途切れた。コミュ障の哀しき性である。
数分間の沈黙。それを破るかのようにインターホンが鳴る。
「...予知能力があれば楽なんだけどな。」
ドアを開けると、そこには白髪の男。
「良かった。まだ人が居た。」
ガサついた声。しかし表情は明るい。
「白々しいな。」
有巣が男の腹を力いっぱい蹴ると、男は柵を破って道路まで飛ばされる。
「酷いなぁ!有巣!」
「俺の名前知ってんのか。んじゃテメェも名乗れよ。フェアじゃない。」
有巣の言葉を聞き、男は気味の悪い笑みを浮かべる。
「柳壊龍樹!Aクラスの能力者だ。」
柵の破片を投げる柳壊。有巣が躱しながら地面に着地する一方、破片は天道の額にクリーンヒットした。
「あびゃっ」
攻めの姿勢を崩さないよう、体勢を整える有巣に殴り掛かる柳壊。対する有巣は柳壊の手首を掴み、大きく引っ張る。
「それ言う必要あんのか?」
有巣の右拳が柳壊の顔面にぶつかる。衝撃をもろに受けた柳壊はバク宙で体勢を立て直し、鼻血を拭う。
「あるよ!テメェは何クラスだ!」
近くに落ちていた石を拾い投げる柳壊。有巣は頭を傾けて躱す。真っ直ぐ飛んでいく石は、有巣の後方にちょうど着地した天道の顔面を捉えた。
「ぐぇっ」
「聞かされてねぇのか。」
有巣は左手を横に伸ばす。真っ赤な切り傷が付いている手首から大量の血液が吹き出し、細長い棒の形をとる。
「それがお前の能力か?」
「違う。」
『吸血鬼症候群』。主に赤血球と血漿に作用する疾患群の総称で、症状が西洋の伝承にある『吸血鬼』の特徴と酷似しているためにこの名が付けられている。血液の摂取により感染し、症状は①『太陽光下における活動及び能力行使の阻害』、②『銀製品に対する著しいアレルギー反応及び火傷・皮膚炎の誘発』、③『血液操作能力の獲得』、④『人間の血液摂取時の興奮状態・身体強化』、⑤『身体再生能力の獲得』などが主である。なお、有巣は鍛錬による免疫獲得により、①と②及び④のデメリットを克服している。
「さっき俺のクラスを訊いていたな。教えてやる。」
棒の形をとった血液が凝結し、刀の形になる。
「Sクラスだ。ついでにそこのトンチキジャージもな。」
自身のジャージの胸元にプリントされた『日陰者』の文字を見る天道。
一方柳壊は、目を見開き有巣を凝視する。
「...は?」
刹那、寒空に紅の花が咲いた。
強くなる雨足に追い立てられるように早歩きを続ける無堂。隣の綾取も、何食わぬ顔で随行している。
「随分と呑気ですね。綾取さん。」
有巣のアジトの前に居座っているのは、青い瞳と青メッシュの男、舵原良也である。
(うっわぁ...イケメンかぁ...)
「『呑気』とは何のことですか?」
舵原が立ち上がる。雨音はかなり強いが、舵原は一切濡れていない。
「とぼけないでください。」
舵原が右手をかざすと、雨水が集まり大きな球になる。
(水を操る能力でしょうか...?)
瞬間、無堂は腹部に熱を感じる。
傘を取り落とす。流れた血は拡散せず血溜まりを作る。どうやら舵原が操った水によって無堂の腹が貫かれたらしい。
「なん...で...!」
「すみません。貴女に恨みはありませんが、一度死んでもらいます。」
(『超速再生』...!)
無堂が天道舞香の能力を起動する。するとたちまち腹部を貫通した穴が消える。
「...なるほど。」
無堂が空中から刀を出現させ構える。
「再生するとはいえ痛いものは痛いんですよ...!」
ここで舵原はいつの間にか綾取が姿を消していることに気付いた。しかし時すでに遅し、無堂が臨戦態勢に入っている。
「...すみません、助けられなくて。」
舵原は無堂に勝てないと判断した。理由は、無堂が綾取の支配下にあり話が通じない可能性がある点と、無堂の能力を前に舵原は為す術が無い可能性がある点である。
回る視界の中、舵原の瞳は驚愕する無堂を捉えていた。
「...何日経った?」
「3日です。」
「3日かぁ...ヤバいな...」
人が飲まず食わずで生きられるのは最高でも5日程度である。『超速再生』やその写しを持っている天道舞香や無堂瑞希はともかく、舵原良也と斑目詩織はいよいよ危険になってくる。
(まぁ、病葉は病葉だし大丈夫か。)
その時、有巣のスマホが鳴る。
「はい。」
『舵原良也さんと天道舞香さんが見つかりました。』
「生きてるか?」
『それが...2人ともまだ意識が戻らず...』
「...そうか。引き続きよろしく。」
『承知しました。』
電話を切る。不安げな顔をする天道穂香に、有巣は微笑みかける。
「お姉さん、無事だってさ。」
今はそう言うしかない、と心の中で言い訳する有巣であった。
Tips:舵原良也のプロフィール
・170cm60kg。
・青い瞳と青メッシュがサラサラな黒髪に入っており、左目尻には泣き黒子がある。
・有巣と同じく大学生。
・能力は『水操作』。一定範囲内の水を操作する能力であり、運用にはかなりの集中力を要する。
・好物は羊羹。




