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あの果てしない空の果て  作者: kai
陽杯教編
16/16

16.ベルフェゴール

Tips:空亡

数十年に一度の厄災である『百鬼夜行』の殿(しんがり)を務める非実体で、Sクラスの怪異(霊力存在)。基本的には京都に出現するため、現在は陰陽省が秘匿および対処にあたっている。

大元の伝承は平安時代の文書、陰陽省に保管され民間には秘匿されている『懐疑抄(かいぎしょう)』である。元は「太陽の正体が怪異であったら」という主旨の創作であったが、後に鎌倉時代の僧である蓮杖(れんじょう)が触れ回った結果、人の畏れが形を成し空亡が生まれたとされている。

また、民間人に公開されているのはかなり最近の文書であり、古来の伝承などではなく、たまたま別の者が同じ物を創作した偶発的な事象と考えられている。逆に、明瞭な文書が存在しないため、リテラシー意識が高く霊的存在も信じられていない現在では寧ろ弱体化している。

人語を理解せず、目的も不明。好戦的ではなく、空亡自体に比較的害は無い。しかし、空亡が保有する無尽蔵のエネルギーが霊や妖を生み出し、その巨体と威圧感が他の霊力存在を追い立てて百鬼夜行を引き起こすため、早急な討伐が推奨されている。

自我が無く、魂に外殻が存在しないため、一定量の魔力をぶつけるだけで比較的容易に討伐出来る。しかし、生物の悪感情から生まれる霊力が一定量集まることで再生成されるため、空亡の生成と数十年に一度の百鬼夜行を防ぐ試みは未だ成功していない。

また、神格実体になることはない。何故なら、空亡が魂の外殻を持たないからだ。神格実体になるための条件は「莫大な量のエネルギー」と「魂の外殻」の両方であるため、完全なエネルギー体である空亡は何者かの魂の介入が無い限り、そのものが神格となることはない。

直近の出現は二年前。昨今の弱体化に反して過去最大規模といわれており、一時は未曾有の大災害が懸念されたが、初参戦の有巣仁理の活躍によりあっさり解決。しかし、当該存在は祓除されておらず、現在は有巣が管理しているらしい。

警報が解除されたため、宮本双葉は店の外へ出る。

街に別段変わった様子は見られない。先程までに連続して2つの警報が出たことを鑑みると不自然である。

その時、宮本に近付く人影があった。

「すみません。」

振り向くとそこには、かなり背の高い獣人型の女性。

人の耳の部分にはピアスを付けており、化粧はしていないものの顔立ちが整っているため誰がどう見ても美人である。しかし、無地のパーカーにジーンズを着用し、首から下にアクセサリー類は無しと、ファッションが少し雑である。

「美人の4人組を見ませんでした?」

ハツラツな表情から“美人”という単語が飛び出したことに宮本は驚いた。しかし偏見は良くない、と思考を戻し、宮本は首を横に振る。

「あちゃ〜、遅かったかぁ。」

女性が首をかく。宮本の怪訝な表情を見て、女性は宮本に微笑みかける。

「私は斑目詩織。あなたは?」

「宮本双葉です!」

「宮本さんですね。よろしくお願いします。」

その時、2人の頭上を何かが横切る。

斑目の獣耳が反応する。すぐさま、斑目が向いた方に宮本も向き直る。

「Excuse me?」

白髪で、白いローブを纏った細身の男。

「素晴らしいとは思わないか。日本には“クラス”と呼ばれる階級制度があるそうじゃないか。」

「クラスは階級制度じゃない。「コイツが暴れたらどれぐらい被害があるかな」っていう警戒レベルだ。」

斑目の言葉に、男は残念そうな顔をする。

「それじゃあつまらない。力以外の序列なんて。」

刹那、踏み込んだ男の突きを斑目は片手で止める。

(速い!斑目さんもなんで反応できるの!?)

チッ、と斑目が舌打ちする。武具を携帯していないため素手で戦うしかないのだ。

腹を殴られた男は数メートルほど後ろに飛ぶ。斑目の拳に手応えはあるが、男にダメージはない。

「嫌な感覚だね。HPが果てしなく多いみたいな。」

「これ警察に連絡した方が良いですか!?」

宮本の質問に、斑目は眉を顰める。

「あの速度の相手を前に携帯が出せるとは思えないなぁ...」

その時、宮本の眼前に拳が出現する。

「危ない!!」

刹那、白い衝撃が走る。

放たれたのは宮本の拳、先程まで打っていたパチンコの確率上昇を引き継いだ、必中の会心(クリティカル)

この時、宮本が反応できたのは、単に当てずっぽうなタイミングで殴ったためである。

拳を振り始めてから振り抜くまでにかかるのはコンマ数秒ほど。その一瞬に、たまたま男が殴りかかってくるという豪運。

しかし、これは宮本の『会心(クリティカル)』による影響ではない。この能力の影響は事象の改変や因果律の操作ではなく、あくまで「確率の固定」に留まるためである。

故に、宮本双葉は、マグレで男を殴ったのだ。

「大丈夫!?」

宮本から反応は無い。徒手の構えをとった宮本は、目を見開いて男を凝視している。

(応答が無い...凄い集中力...!)

その時、男が立ち上がり髪をかきあげる。

「ハハハ!面白い!クリティカルか!だが...!」

男は口を開き、汚い嗚咽音と共に黒い塊を吐き出す。

(アレは...何だ...?)

黒い塊が蠢き、徐々に高さを増していく。

男と同じ背丈になった所で、塊は凹凸を作り始めた。

「マズい!宮本さん!!」

塊が完全に人型になった後、2つに分かれて動き始めた。片方は斑目に殴り掛かり、もう片方は腕を刃に変えて宮本に斬り掛かる。対する宮本は、身を翻して軽快に躱し、塊の懐に潜り込む。

「ぶっ飛べ!!!」

衝撃。黒い塊が爆散した直後に破裂音。

現在の会心カウントは75。確率の壁を超えゾーンに入った宮本の拳の威力はかなり増している。

一方で、斑目も黒い塊を蹴り殺す。

(打撃で倒せる敵で良かった...けど、式神?だとしたらさっき感じた異常な耐久は?)

宮本が黒煙を突っ切り男に殴りかかろうとする瞬間、

「ハハハ!!かかったな!!」

視界が揺らぐ。

瞬間、上下が反転し、2人は空に投げ出された。



アジトで集まり、ソファに座る4人。そして、床がピカピカになっている。

「はぁ〜...大変だった。」

「...まさか、自決用の毒を仕込んでいたとは。」

先程捕まえた白装束の男は、情報を吐かないよう自決用に致死性の毒を自身の奥歯とすり替えて所持していたのだ。4人が帰って来るまでは眠らせていたが、起こしてすぐ奥歯を砕いて毒を飲み込もうとした。

飲み込む前に綾取廻の『支配』で嚥下を阻止したためなんとか情報を吐き出させたものの、嘔吐の後始末が大変だったのだ。

「まぁ、事件の全容は判ったな。まず白装束の目的からだ、無堂。」

「はい。白装束...陽杯教(ようはいきょう)の目的は、“天道さんの排除”で間違いありませんでしたね。」

不服そうな顔をする天道穂香を見て、有巣は笑う。

「陽杯教が信仰するものは太陽が持つ“神性”。いわば、届かない位置にあるめっちゃデカいモノだから信仰してるらしいな。」

有巣の言葉に、綾取が頷く。

「だから、人の形をとっていてかつ太陽と同質の能力を持つ天道ちゃんが排除対象になった訳だ。」

「で、あの“空亡”は結局何なんです?」

無堂の質問に、有巣は「いい質問だ。」と指を鳴らす。

「“空亡”は正式名称ではない...というか、アレは空亡じゃない。空亡は本来、霊力由来の怪異だ。」

「霊力?怪異?って何です?」

「じゃあそこから...」

有巣が手を開くと、そこに透明なモヤがかかる。

「コレは能力を使うために必要なエネルギー。ここまではわかるな?」

全員が頷く。

「コレは意識的に操れるもんじゃない。そもそも、人間、ひいては多細胞生物の生命活動に使った余剰分のエネルギーが全部能力活動に回されるだけ。心臓の動きを制御出来ないのと同じで、意識的には使えない。」

いや使えてるじゃないですか、というツッコミを飲み込む無堂。今は野暮なことを言うターンではない。

次に有巣の手は、青白いモヤを帯びる。

「コレは魔力と呼ばれるエネルギーの変異体。コレを使って『能力過運転状態』...“オーバードライブ”を引き起こせるし、魔法の使用や身体強化、果ては回復も出来る優れもの。理由は色んなものに変化しやすいことと、生命エネルギーに性質が近いから。言わば正のエネルギー。」

天道は炎藤乾太の肉体再生を思い出していた。

次に、有巣の右手は青黒いモヤを帯びる。

「そしてコレが“霊力”。魔力と対称にある負のエネルギー。コレをぶち込めば変質する能力もある。魔力との共通点は、生命エネルギーを元にしているという点。違う点はたくさん。」

その時、有巣の霊力が高まり、黒い炎を帯びる。

「魔力は魔法、魔術や占星術。対して霊力は、呪術や妖術に使う。魔力は正の感情で生まれ、霊力は負の感情で生まれる。魔力は魔獣や精霊、悪魔や天使の元になり、霊力は霊や(あやかし)、怪異の元になるそして、」

息をつく暇もなく言い切り、有巣は拳を握りこんで炎を消す。

「どちらも、密度が上がれば神格実体の元になる。」

緊張が走る。

「...つまり、“空亡”...もどきは。」

「恐らく、神格実体を生むための舞台装置。いわゆる(サナギ)の状態だろうな。教徒とSクラスでぶつかって、警報も併せて手当たり次第にエネルギーと負の感情を集め、それを吸収し糧とするんだろう。」

綾取が首を傾げる。

「容赦なく壊してたけど、大丈夫なのかな。エネルギーが暴走したりとか。サブプランとか。」

腕を組み唸る有巣

「恐らく、佐藤ヒロシだ。」

全員の頭上にハテナが浮かぶ。

「佐藤ヒロシの能力、俺にも干渉してただろ。」

「あぁ、そういえば名前出てましたね。」

「アレが俺の為のカードで、俺が接敵した2人が無堂の為のカードで、炎藤の死体を乗っ取ってたのが綾取の為のカードだったんだろ。んで、街の被害に気を配りながら雑魚処理で手一杯の天道を、神格実体で倒すつもりだったと。」

「しかし、対戦カードがぐちゃぐちゃになった上、有巣さんがギャグ漫画の知識を持っていたせいで、羽化する前の状態で別の神格実体にやられた...ということですか。」

なぁんだ、と無堂はソファにもたれかかり大きく息をついた。

「じゃあ、当面は心配ないんですかね?」

「さぁ...頭を潰してねぇからわからん。」

その時、有巣の携帯に通知が来る。通知内容には、位置情報と誰が発したかの情報。位置は近所のパチンコ店の前で、発信者は斑目詩織。

「お、早速活用してくれたか。ちょっと出て来る。」

玄関から出ようとする有巣。

「あぁ、おやつ買ってきてくれませんか。チョコレート系でお願いします」

「私も同じで。」

「ポテチお願いします!」

「おけーい。」



何が起きたのか認識するより早く、斑目と宮本は地面に着地していた。

「随分と趣味が良いじゃねぇか。」

そう言ったのは有巣。逆さの姿勢で滞空しているのを見て、宮本は驚愕する。

(なにあれ!?人が浮いてる!?)

「せっかく女の子と遊んでるのにジャマしないでくれるかなぁ!!」

有巣が地面に不時着する。

「え!?大丈夫ですか!?」

ベタっと地面に伸びている有巣。それを見て苦笑する斑目。

(スライムのおもちゃみたいだなぁ...)

「受け身は取らない主義でね。」

有巣は、どこからともなく手に持った刀を構える。

(刀...?)

「相変わらず、いけ好かない顔してんな。ヒトリ。」

「いけ好かねぇのはお前の方だよ処女厨。」

「黙れ!童貞!!」

またもや黒い塊を吐き出し直剣の形にする男。

有巣に斬り掛かるも、剣は呆気なく両断されてしまった。

「チィッ!!」

男は必死に攻撃するが、有巣に反撃する様子は無い。それどころか、刀身で攻撃を受けることすらしてない。

「なんで!いっつも!オマエは!!」

そこまで言って、男は歯ぎしりする。

有巣が刀に魔力を込めたのだ。

「お前は確かHPが多いんだったな。なら効果的なのはコレだろ。」

「そっか...有巣くんの能力は割合攻撃なのか...!」

「違う!ボクが恐れているのはソレじゃない!」

男が建物を背にするように有巣と距離を取る。背後の建物はファミリーレストラン。クリスマスイブだからだろうか、駐車場にはそこそこの数の車が停まっている。

有巣が刀を振るうのを躊躇している。斑目は、彼がやられることが無いだろうと信じているが、決定打が無いのであれば千日手だと考えた。

「有巣くん!このままじゃ千日手だよ!」

しかし、有巣は反応しない。刀を下ろしたまま構えもせず仁王立ちしている。

「おーい、ガールフレンドが話し掛けてんだぞ〜。反応してやれよ。」

男がニヒルに笑う。有巣が手を出せないと断定したようだ。

実際、斑目と男の推定は間違っていない。有巣目線では、男とレストランの客を天秤にかけ、レストランの客の方が僅かに傾いていたのだ。

そして、理由はもう一つ。男はめちゃくちゃ知り合いヅラしているし、会ったことがあるだろうこともわかっている。しかし、有巣は男の名前を思い出せないのである。故に、殺して良い相手かどうかがわからないのだ。

有巣の能力『 』はあらゆるものを0にする効果を持つ。しかし、効果にグラデーションが存在しない上に、変化が不可逆であるため場当たり的な対処には不向きである。既に発動している能力に対しては「効果の無効化」というベクトルでの運用が可能だが、継続的に強化をかけ続ける能力やそもそも効果の詳細が不明な能力は根本から消すしかない。

しかし、男が明確な被害を出しているかどうかがわからない以上、万が一男が重要人物であったりする場合は有巣を匿っている国の存続が危うくなり、ひいては有巣VS世界の戦争に発展する恐れすらある。Sクラスとは、そういう立場なのだ。

「どうした?怖気付いたか?それとも...」

男の顔が真剣になる。

「...ボクのこと、舐めてるのか?」

瞬間、男の右腕が落ちる。

「...は?」

有巣は刀を振り抜いていない。

「...何!?」

「え!?」

斑目と宮本は何が起きたかわからない様子。

(速すぎて見えなかった...?いや、そんなことはある訳ない!猫型獣人と『恵体』なら振り抜く瞬間は見えなくても元の姿勢に戻る時に気付くハズ...!!)

「どうした。」

有巣は、切先を男に向ける。

「怖気付いたか?」

Tips:進化人類仮説

人間の能力が世代を経るごとに進化しているのではないかという仮説。有巣の推定では、実際は戦争が激減したことで能力者同士の殺し合いが極端に減り能力者の現存数が大幅に増えたことによる影響ではないかとしている。

実際、能力者の割合は総人口の約五割から変わっていない。これは、能力を維持するために必要なリソースが多く未熟児で生まれれば高確率で生後一年以内に死亡する点や、生殖が難しい能力を持った能力者や能力はあるものの発現しない非能力者が一定の割合で存在している点に起因する。

また、Sクラス相当の能力者は数十人にも満たないとされているが真偽は不明である。

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