15.画竜戴天③
Tips:舵原良也の現状
舵原は右脚の脛を骨折し入院中。
有巣「おっすー。」
舵原「有巣!来てくれたの?」
有巣「そして今日のゲスト〜。」
無堂「失礼しま〜す。」
天道「...こっ、ここ...」
綾取「よろしくね。」
舵原「!?!?!?」
この後、なんとか天道のコミュ障を突破して自己紹介させ、なんとか綾取と和解しました。
無堂「『水操作』ゲットです!」
舵原「お役に立てたのなら何よりです...」
「......考えたって仕方ないね。」
脳裏にまとわりつく思考を振り払うかのように頭を振る舵原良也。
理由はただ一つ、先刻の警報である。
(有巣は大丈夫だろう。けど、無堂さんや穂香ちゃんは苦戦するかもしれない。...綾取さんは正直どうでも良い。)
窓の外を見る舵原。病室の外では、冷たい風が空を撫でていた。
エモい雰囲気になったのも束の間、再びスマホから警報音が鳴る。
内容を確認し、続いてニュース画像を確認する。
「これは...?」
「神格実体“S-05”...」
白装束の女の視線の先には、白い巨大な実体。
キリンのように細長く、先が尖った4本足と長い首。そして、首の先にある頭らしき部位は、両側面と上面に合計3つの目のみが付いている。
体表は骨のような白い甲殻で覆われている。明らかに四足獣型魔獣の見た目であるにもかかわらず、尻尾や角、さらには耳や口まで、およそ生命維持に必要と思われる器官が見られない。
「...それが、まさか、」
その時、女の胸部に大きな穴が空く。衝撃が無かったためかろうじて立ったままの姿勢を維持出来ている女は、口を動かし何かを言おうとしたが、肺が破壊されたため声が出ない。
次の瞬間には頭部が消滅した。女の身体がコントロールを失って倒れたことを確認し、S-05はのっそりと向きを変えその場を後にするのであった。
「...有巣さんって何処に行きました?」
有巣仁理なら何とかしてくれるだろう、という推定を誰もが持っていた。無論、Sクラスの3人でさえも。
「...いや、今はとにかく私たちで何とかしないと。」
無堂瑞希は首を横に振り、思考を整理する。
佐藤ヒロシから聞き出した情報によれば、空に浮かぶ黒いモノは、白装束の間で“空亡”と呼ばれる物らしい。
また、佐藤ヒロシは白装束の正体についても語った。
「太陽を信仰する『陽杯教』...彼らの目的は“偽物”の排除...」
そこまで言った綾取廻が、天道穂香の方を見る。
「...心当たりは?」
当然、何も知らない天道は首を横に振る。
「天道ちゃんの能力は太陽と同じ原理でエネルギーを獲得するもの。つまり、言わば“偽物の太陽”。」
「...要するに、陽杯教の目的が天道さんである...と?」
「...おそらく。」
無堂の質問に、綾取が頷く。
「それなら、あの“空亡”は...」
「...大方、天道ちゃんの能力のメタとして用意された物だろうね。」
にしても有巣が突然消えたのが腑に落ちない、と無堂は首を傾げる。その表情で悟ったのか、綾取はスマホを取りだし有巣の番号に掛ける。
「......出ないね。」
「どういう...」
その時。
「縺ェ縋※※孲摹」
3人の背筋を恐怖がなぞる。
これまで彼女らが記憶した何者のものでもないその声が、とんでもなく低い周波数の重低音を帯びていることを、無堂は感覚で掴んだ。
(......ふ...ふふ振り返ることが出来ない...な、何です...?この感じ...)
綾取の手が震えている。何とか歯を食いしばり耐える無堂に対し、天道は自分の腿を温かいものが伝うのを感じていた。
ノイズ音。景色にもノイズが混ざる。
何かが軋むような音。そして3度、関節が鳴る音。
3人の眼前に、細い円錐状の物体が降りてくる。
その物体はゆっくりと回転し、3つの赤い目で3人それぞれを視認した。
円錐からは、ぐ、ぐ、と何かが籠っているような音。
「......あ...あぁ...」
言いようのない感覚。喩えるなら、“SAN値が削れる”と表するのが正しいだろうか。無堂の恐怖のボルテージが弾け、腰が抜けてその場に座る。
「......っあ....あー...あーあーあー」
突如、聞こえたのは、聞き馴染みのある声。
「......はぇ?」
「いやぁすまん。チューニングに時間が掛かって。」
「...え...有巣くん!?」
気付いた3人は安堵の息を漏らす。同時に、3人それぞれ、別の物が漏れていることに気付く。
「ひゃあ〜可哀想。」
「だっ、誰のせいだと!?」
顔を真っ赤にする無堂。流石の綾取も、口元を隠し顔を背けた。
一方、天道は生まれて初めて感じた生命の危機から未だ抜け出せずにいた。
「まぁ、汚いし戻しとこう。」
いつの間にか衣服のシミが消えている。突如起きた謎の事象に、無堂は混乱する。
「は?え?今何しました?」
一方、スマホを取り出し、数分前の警報の内容を確認する綾取。
「S-05...神格実体だね。でも何故有巣くんが?」
「切り替え早いですね...」
有巣は一度円錐の頭を回転させ、“空亡”を確認する。
「時間が無い...と言ってみたいとこだったけど。この姿になっちゃもう余裕だらけだねぇ。」
再び3人に視線を戻す有巣。
「まず、何処から話そうか。...そう、“神格実体”から話さないといけないのか。」
「...?」
「この世界には、明確に“神”と呼ばれるモノが存在する。まぁぶっちゃけ、人が勝手に付けた名前だからマジもんの神じゃない。だから“神格実体”...神に等しい格を持った実体、と称すわけだ。」
「とんでもない話が出てきましたね...」
有巣の話に少し懐疑的な無堂。
「無理もない。本当は諸々の事情を教えた上で知るべきことだ。“トランプ”を知らないのに“大富豪”を教えられるようなもんだからな。今はとりあえずめっちゃ強いヤツぐらいに思っとけ。」
天道が置いてけぼりを食らっているが、有巣は気にしていない様子。
「おい!気にはしてるよ!大丈夫後で説明し直すから...ね?」
どうやら減らず口が治らないようだ。
「はぁ...とにかく、その神格実体というやつに俺がなったわけだ。ただ、これは偶発的なものじゃない。ちゃんと意図してやってるから安心しな。」
有巣の言葉を聞き、綾取が不安そうな顔。
「元には...戻れる...?」
「どうだろう...戻れないかもねぇ...」
綾取の表情が目に見えて悲しそうになる。
「ハハハ、冗談だよ〜。今まで2回やって2回とも戻れてるし大丈夫!」
「...の割に、喋るコツは掴めてないんですね。」
有巣は無堂の顔を覗き込む。単純に体格差が大きいためか、無堂は僅かに後ずさる。
「お前らが初めてこの姿を見た...ってのが答えだ。普通のヤツなら第一声の超低周波音で泡吹いて気絶してるからな。」
超低周波音。人の可聴域を遥かに下回る周波数の音波である。音として人が認識することは出来ないが、超低周波音に曝露されると不安感や体調不良が引き起こされることがわかっている。
「何でそんな物をぶつけたんですか!?」
「耐えられると信じたー。それだけだよー。」
「棒読みやめろ!!」
その時、空から音がする。
「タスクは早めに終わらすか。」
有巣が首を持ち上げ、円錐の先端を“空亡”に向けた刹那、極太のビームが“空亡”を包む。
次の瞬間、“空亡”は大量の黒い煙となって霧散し、跡形も無くなった。
「さ、アジトに帰ろうか。アレの正体も話そう。」
次の瞬間、有巣の姿は消えており、街はいつもの平和な姿を取り戻していた。
神格実体S-05の証言
「いやぁ、まぁ大丈夫だと思ったよ?うん。それにまぁ、大丈夫じゃなくても...後で治せば良いかなって。」




