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あの果てしない空の果て  作者: kai
綾取廻編
10/17

10.綾取廻

Tips:能力『平行世界の移動』

有巣仁理が過去、『呪手』によって奪った能力。文字通り、任意の平行世界に移動することが出来る。しかし、「ミミズが人間のような進化をしている世界」など、あまりにも座標が離れている世界には移動出来ない。(いくつか中継点を経由すれば可能)

有巣はこの能力を使って『時間操作』などの周辺能力を揃え、別の世界線を実験台にして様々なことを試していたことがある。理由は特になく、完全に彼の興味本位である。

なお、現在は喪失している。これは外的な要因ではなく、有巣自身の手によってである。本人曰く、「最強装備は面白いがチートは面白くない。」とのこと。彼の基準では『 』はチートではないらしい。

「どうか、話を聞いていただけませんか。」

土下座をする綾取廻。有巣仁理は、冷淡に綾取を見下ろしている。

「一撃分ぐらいは聞いてやろうか。」

一撃も入れられてねぇけど、と有巣は心の中で呟く。面白ければ整合性は取れていなくても良いのだ。

弾かれたように顔を上げる綾取。

「一撃も入ってないのに...?」

「お前なぁ...無粋だとは思わないのか...?」


数分後、椅子を用意し居住まいを正して向かい合う両者。既に綾取の顔に笑みは無いものの、一貫して冷静なままである。

「私の目的は“全人類の能力の抹消”です。」

「どうやって?」

「貴方の能力です。」

有巣は頬杖をつく。

「不可能だ。」

「...何故?」

眉をひそめる綾取に、有巣は溜め息をつく。

「そもそも、俺の能力による能力消去は対症療法だ。例え能力を消したとしても、遺伝情報までは消えない。故に次の世代は能力を持って生まれてくる。つまり、遺伝情報から改造しないと無理だ。」

「なら」

「いや、それも無理。」

口を開きかけた綾取を、有巣が遮る。

「確かに、遺伝情報の中から該当部を抹消することは出来る。ただ、それでも能力者は生まれてくるだろう。」

「...突然変異...ですか。」

「いや、違う。」

有巣は首を横に振る。

「再進化だ。これまでの人の歴史の中で能力者が増えた理屈と同じく、全世界で同時多発的に能力者が生まれる。」

綾取の表情が明らかに強張り始める。

「そんなの、やってみなきゃ」

「やってみたから判ったんだ。別の世界線を実験台にした。そして、何度やっても結果は同じだった。」

綾取が絶句する。

沈黙。数秒の思考の後、有巣が口を開く。

「...動機は。」

反応しない綾取。

「その目的とやらを掲げるに至った理由は何なんだよ。」

ぶっきらぼうな有巣の問いかけに、綾取は一呼吸置いて話し始めた。

「私の能力は、『支配』です。」


能力が判ったのは5歳の夏、幼稚園で友達とおもちゃを取り合った時です。

初めは当惑しました。まだ遊んでいる途中の友達に私が「貸して」と言った時、友達は何も言わず、すんなり私におもちゃを渡しましたから。

その様子を不審に思った先生が検査を勧めてくれて、私は父と病院で検査をしました。

検査結果は陽性、能力に付けられたクラスはAです。『支配』の名を付けたのは高校一年の春で、それまでは父の能力と同じ『洗脳』という名を使っていました。

小学生の頃は特に問題なく過ごせました。そもそも常時発動型ではありませんから、日常生活で能力を使う機会なんてほぼありませんし、みんな良い子たちでしたから。

問題は中学に上がってからです。恐らく、能力名が『洗脳』であることが災いしたのでしょう。みんな、私に近付くのを怖がっていました。

いつか犯罪に加担させられるのではないか、いつか加害者にさせられるのではないか、そんな疑惑を持たせてしまう『洗脳』という名の能力は、私がいじめられる理由としては十分でした。

靴も隠されましたし、教科書も燃やされました。陰湿ですよね。本人に直接会うのが怖いから、間接的な被害で苦しめていくんです。

もちろん、親や先生に相談しました。しかし、みんな口を揃えてこう言うんです。「強い能力を持ってるんだから自分で解決しなよ」と。

結局、耐えかねた私は自分で解決することにしました。能力を使って適当な生徒にいじめの主犯格を吐かせ、能力を使ってその主犯格を自殺させたんです。

それでもいじめは無くなりませんでした。しかし、一度人を殺してしまった以上後戻りは出来ませんから、次々と加害者を殺していったんです。

20人ほど殺した所で、ようやく異変に気付いた父が警察に通報しました。しかし、私は警察官に能力を使いその場で自決させました。

ここで、私の能力は父のものと全く別物であることが判明しました。父の能力はある程度時間を掛けて思考の傾向を根本から変えるもので、私の能力は一度姿を見せるか声を聞かせるだけで記憶や思考回路、感覚、果ては行動まで全て操作出来ます。

中学での能力を使った自殺教唆は、関係者全員の記憶を消去することで無かったことにしました。しかし、高校でも私はいじめられました。全く同じ方法、全く同じ理由で。

もちろん、全く同じ方法で解決しました。結局、原因は解決出来ず、場当たり的な対処だけで高校生活を終えてしまったんです。

今思えば、能力を使って私の能力を誤認させるとか、私への興味を無くさせるとか、解決法はいくらかあったように思います。しかし、それが出来るのは私だけ。能力が原因でいじめられている他の人は、かつて私が取った手段のように、殺人に手を染めるしかない。


「それなら、原因を取り除いた方が良いと考えました。能力そのものが無くなれば、能力が原因で不利益を(こうむ)る人も居なくなる。」

間。数秒の沈黙の後、有巣が口を開く。

「辛そうだな。」

綾取に初めて掛けられた言葉だった。目を伏せたまま、綾取は唇を噛む。

「......私は、」

数秒の沈黙の後、綾取は深く息を吸う。

「.........まさか、同情されるなんて...」

胸に引っかかるわだかまりを砕こうと息を吐く。有巣は、綾取の唇が震えていることに気付いた。

「大義は人を摩耗させる。どれだけ能力が強かろうが人間は人間。無理をすれば、心労で狂っても仕方ない。」

綾取は押し黙っている。

「ただの気休めだ、と感じたか?」

綾取の反応は無い。

静かに、有巣は続ける。

「ただの気休めでも、実感を伴わない綺麗事でも、何でも良いだろ。お前がすっきりするんなら、それで。」

再度の沈黙。綾取は目尻に溜まった涙を拭う。

「...やり直せるのかな。」

「...それは“人を殺したから”ってことか?」

間。2人の間にドロっとしたモノが流れる。

「......似た者同士だな、俺ら。」

様々な意味を孕み、色々な感情を飲み込んだ有巣の言葉。そして綾取の口から嗚咽が漏れる。

「ごめんなさい......ごめんなさい...」

絞り出すような声で泣く綾取。有巣は、ただその様子を眺めるのみだった。

Tips:有巣仁理のプロフィール②

有巣仁理は至って平凡な日本人である。しかし彼に見られた異変は、「能力を2つ持って生まれたこと」と「亜音速で動けること」である。

有巣は出生時、『 』と『呪手』の2つを持って生まれた。処理が複雑な2つのSクラス能力に対して脳の容量が大幅に不足していたため能力の発現が大幅に遅れ、能力検査は10歳のときに実施。その後、彼は『 』によって『呪手』を一時的に無力化することによって『 』の性能を100%引き出せるようになる。

転機は、彼が高校に上がる15歳の年。Sクラスに指定され4年が経過し、幾度かの戦闘を経たことで『 』の応用力を高めた彼は、二物間の連続性を0にすることで分離する技術を身に付けた。この技を利用し『呪手』を松果体の該当部位ごと自身から分離。吸血鬼病の持つ『再生』を利用して松果体を『 』に適応させ、依代を探す『呪手』を天道舞香から貰ったチョーカーに擦り付けた。

亜音速で動ける理由は、彼の脚部の筋肉が発達しており、かなりの密度を持つことである。しかし、脚部の筋肉が発達している理由はわかっていない。

また、彼の持つ身体適格は「脳機能の向上」と「腕部にかかる強化幅の増加」である。

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