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あの果てしない空の果て  作者: kai
綾取廻編
1/15

1.不協和

Tips:「クラス」

能力と能力者にはそれぞれ“クラス”が割り当てられる。

能力に付けられるクラスはA~Eの5つとS、Fを併せた7段階である。A~Eは能力の強さに応じて付けられ、Fは能力が無いということを示す。例外として、成長の余地や潜在的な危険度を加味した上で、非能力手段を用いた対処が不可能、または著しく困難であると判断された能力はSクラスに指定される。

一方、能力者に付けられるクラスはA~Eの5つとSを併せた6段階である。A~Eは強さに応じて付けられるが、例外であるSクラスの指定基準は“独力による国家の軍事制圧が可能であるかどうか”である。あえて“能力者に付けられる”と表現されているものの、実際は一定以上の実力を持つ無能力者、及び非能力者にも付けられるクラスであることは留意したい。

「よォ、(ひいらぎ)。」

有巣(ありす)くんか。久しいね。」

胃の底を撫でるような低音が、黒い金属製の口元から響く。

「御託は要らん。火力勝負といこう。」

有巣が提案し浮遊する。

「珍しいね。君が『火力勝負』だなんて。」

柊黒彦(ひいらぎくろひこ)も後を追い上昇する。

有巣が構える。同時に、柊も大技の構えをとる。

「『天照(アマテラス)』」

「『煉獄』!!」



ふとスマホの通知を見る。そこには、SNSの「おすすめ」の通知。

(ニュースか...しょうもないな。)

今は授業中である。退屈に耐えられずスマホを開いた有巣仁理(ありすひとり)は、期待を裏切られ残念がり、中身を見ずにスマホを閉じる。

「課題は来週の月曜日までに提出してください。最近特に提出忘れが多いので気を付けてくださいね。」

ちょうど授業が終わる。有巣は眼鏡を外し、舵原良也(かじはらりょうや)の方を見る。

「今日、人少なくね?」

「それ授業前にも聞いたよ。」

「でも気になるじゃん。」

有巣と舵原が同時に立ち上がる。

「時期が時期だからね。授業を飛ぶ人が多いんじゃないかな。」

「あー、そらしゃーないか。」


その後、特に何も話さずアジトの前まで来た有巣と舵原。舵原が鍵を回すが、「ん?」と声を漏らす。

「...開いてる。」

「え、ヤバいじゃん。」

恐る恐る扉を開ける2人。中を覗くと電気がついている。ソファに座っているのは、鬼型の女。

「天道か。」

「『天道か』とは何だ。美少女が部屋に居るんだぞ。喜べ。」

肩をすくめる有巣。一方、舵原は冷蔵庫からコーラを出し有巣に渡す。

「黒い方だよね。」

「あざ。」

ソファに座る2人を確認し、天道舞香(てんどうまいか)は口を開く。

「最近、出席者少なくない?」

天道が言及したのは、先程の有巣が言及したのと同じ、「大学の授業への出席人数」の件についてである。

「さっき有巣も言ってたね。」

「あれ確か『時期的に仕方ない』って結論だったっけ。」

「うん」と舵原は肯定する。しかし、天道は納得がいかない様子だ。

「にしては少なくない?全部の授業で半分に減るのはヤバいよ。」

有巣と舵原は顔を見合わせる。

「でもまぁ冬だし...」

「いーや、これは誰かが一枚噛んでるね。」

天道は腕を組み、異論を許さない様子である。

「陰謀論とか好きそうだね。」

「いや、ハルヒだな。」

「違う!バカ扱いするな!」

バカにしながらも、有巣は天道の主張に思うところがある様子。

「まぁ、何かしら理由がなきゃここまで人は減らねぇよな。」

有巣がそう言い、舵原も一度思慮を巡らせる。

「...どうせ柊だろうね。」

3人で口を揃えて大きく溜め息をつく。

柊黒彦。Sクラスに指定された能力者の一人で、逃亡中の国際指名手配犯である。なお、有巣はこれまでに3度ほど柊と交戦し無傷で生還するも、確保には至っていない。

「柊なぁ...今何してんだろ。」



「はぁ〜...やっと午前中が終わった...」

机に崩れ落ち、無堂瑞希(むどうみずき)は大きく息を吐く。その言葉を聞き、天道穂香(てんどうほのか)は諸行の無常を感じた。

「天道さん髪綺麗ですね〜...シャンプーは何を使ってるんですか?」

天道穂香にこだわりは特に無く、姉である天道舞香のシャンプーを使うよう勧められているため、自身のシャンプーが何であったかを覚えていない。故に、この質問には答えられない。

「...無情ですね。世界は。」

そんな天道とは対照的に、顔の傷跡を隠すため髪に気を使っている無堂は悲哀に嘆くしかないのである。

猫の鳴き声が聞こえる。

「...ん?」

無堂が身体を起こし窓の外を見る。しかし、そこには何もいない。

「...気のせいですかね。」

予鈴が鳴る。無堂はスマホを開くも、何をしようとしたか忘れたため直ぐに閉じた。

一方、天道穂香は(最近の少年漫画の導入みたいだな)と思ったが、結局口には出さなかった。



「...で、」

教室にて、肩を落とす有巣。

「誰も居ねぇのかよ...」

有巣は独り言が大きいタイプである。

「昨日の今日で...?先生すら居ねぇし。」

寧ろ大学の敷地内に居るのは有巣のみであるのだが、正門が開いていたことで「門を開けた誰かしらは居るだろう」と考えた有巣はその事実に気付けていない。

有巣はスマホを開く。舵原に送った連絡には既読すら付いていない。

「はぁ〜...めんどくさ...」



同じく、天道穂香は途方に暮れていた。

時計を見る。今は10時、通常なら2時限目である。

スマホを見る。今日は金曜日、通常なら授業日である。

思い返せば、家の中に人の気配が無かった。「音がしない」や「人影がない」など、理由は枚挙に(いとま)がないが、天道穂香はもっと潜在的に、そして直感的に「人がいない」と感じた。何故なら、普段から人を避けて生きているからである。

しかし、誰も居ないとそれはそれで寂しい。天道穂香はそんな難儀な人間である。孤独に耐え切れず、彼女は外へ出ることにした。



「...やっぱ昨日のは気のせいだったのかなぁ。」

授業が終わり、そう言う有巣に舵原は賛同する。

「そう思った方が良いよ。原因を考えすぎるのは人間の悪い癖だからね。」

納得がいかない有巣であるが、彼には思う所があるようだ。

「...まぁ、舵原が無事だし大丈夫か。」

「もしかして、俺の事センサーか何かだと思ってる...?」

有巣は自身の能力の効果により他者の能力の影響を受けないため、何かしらの異変があれば真っ先に舵原の様子を窺うようにしている。しかしその場合、舵原は影響に気付けない。

「ハハ。素直なヤツほど催眠には掛かりやすいからな。」

「それ、『詐欺』じゃなくて?」

「どっちも。」

軽口を叩きながら教室を後にする2人。雲ひとつない快晴に、舵原はやや上機嫌なのであった。



「ちょっと休憩しようぜ。」

ドーナツ屋を指さす有巣。天道穂香も同意し、2人で入店する。

電気はついている。しかし、客はおろか、店員すら居ない。

並んでいるドーナツを眺める天道に、有巣は「勝手に食べるなよ」と忠告する。

窓際の席に向かい合って座る2人。先に有巣が口を開く。

「後輩ちゃんは何食べたい?」

「...全部。」

ハハ、と笑う有巣。一方、天道はドーナツに釘付けのままである。

有巣も天道も普段、ドーナツはおろか外で食事を済ませることなどほとんどしない。街に全く人の影が無い今ならではの特権である。

「後輩ちゃん。」

有巣が呼び掛けると、天道はようやく有巣の方を向く。

「腹減った?」

大きめに頷く天道。その様子を見て、有巣は立ち上がる。

「このまま外に居ても埒が明かねぇし、昼は俺ん家で済ますか。取り敢えず何か食わないと始まらねぇし。」

有巣の料理が食べられると解釈した天道は、期待に胸を膨らませるのであった。



「ドーナツでも食おうぜ。」

ドーナツ屋を指さす有巣に、舵原は疑問を抱いた。

「珍しいね。」

「甘党だからな。」

有無を言わさず中に入る有巣に続く舵原。店内は思いの外空いている。

「全部食いてぇな。」

「気持ちはわかるよ。」

しっかりと吟味する有巣。有巣は少食であるため食べる物はちゃんと選ばなければならないことを舵原は知っている。

「コレだな。」

有巣が取ったのはフレンチクルーラーと抹茶ドーナツ。そこに、舵原は違和感を覚えた。

(有巣は抹茶が苦手なはずだ。それに、いくら少食とはいえ2つは少ない...いや、有巣がそれほど少食じゃないだけか?しかし理由はどうあれいつも有巣は3つ取ってるよな...)

「...それだけ?」

舵原の言葉に、有巣が僅かに身じろぐ。

「...お前、誰だ。」

Tips:有巣仁理のプロフィール

・168cm45kg。

・ストレートの黒髪で、髪型はショートボブ。この髪型は顔のせいでよく女性に間違われることに由来する。

・職業は大学生。舵原良也と天道舞香の同期である。

・能力名は『 』。発音が存在しないため便宜的に『空白』と呼ばれている。効果は“0にする”というものであり、他者の能力による影響を無効化できる。

・好物はポテトサラダ。

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