027 昇格試験②
2036年7月1日 午後5時50分。
試験期間中は授業もないため、俺たち3人は情報共有をするべく食堂に集まっていた。
「お二人がしょうもない用事を済ませている間、わたくしも自分の部屋を探してみたのですけれど、なくなったものなんてありませんでしたわ。今のところ全くと言っていいほど手掛かりなしということですわね」
そう言って、彼女はカルボナーラパスタを優雅に口へ運ぶ。
「そっかぁ。伊砂君はともかく、鳳凰天さんならすぐに解決の糸口を掴めると思ったんだけどなぁ」
七種さんはそう言いながら野菜サラダをうさぎのようにもしゃもしゃと食べる。
「なぁ、お前ら俺の事なんだと思ってんの」
俺の大事なCDをしょうもない用事扱いしたり、俺にはどうせ解決できないだろうと踏んでいたり。失礼極まりないったらありゃしない。
俺は七種さんお手製の卵焼きを口へ運ぶ。うん、塩気が良い塩梅の出汁巻で、これはこれでうまい。
「それはそうでしょう。たった3回しかない回答権を勢いだけで1つ消費してしまうなんて、愚の骨頂ですわ」
「そうそう。先に私に相談してくれたらそれも使わなくてよかったのに~」
「あのなぁ」
俺があの時回答をすぐに行った意図が分かってない二人に、俺は頭を掻きながらどう説明したものかと首をひねる。
「うーん、二人ともさ、隠されたものが3人ともバラバラだって思ってないか?」
俺がそう尋ねると、二人は「何言ってんだこいつ」といった目で「何言ってんだこいつ」と言ってきた。正直でよろしい。
「それはそうでしょう。わたくしたち3人はこの4月に初めて出会ったばかり。三者三様の人生を歩んできたわたくしたちに共通する大切なものなんてありませんわ」
きちんと食べ物を飲み込んでからそう告げる鳳凰天星火に対し、野菜をもしゃもしゃと頬張ったまま「私も同意見」と手を上げる七種さん。とりあえず可愛いから問題なし。
「じゃあ聞くけど、そもそもこの試験内容はとある生徒から『グループ全員で合格できる試験にして欲しい』という懇願があって疾風が決めたはずだろ。全員がバラバラの答えだったとして、どうやってグループ全員で合格するんだ?」
俺がそう突っ込むと二人は目を丸くして「確かに」と頷いた。
「一理ありますけれど、それとあなたが勢い余ってバカみたいに回答したあの件とどう関係するんですの?」
「勢い余って回答したように見せた! な」
人があの短時間で頭をフル回転させ、こちらの有利になるように働いたファインプレーをバカみたいと一蹴されてはたまったもんじゃない。
「思い出して欲しいけど、あのⅳの注意事項には『一度確定したルール、期限、回答方法及び注意事項については例外なく変更を認めず』とある。これは一度確定さえしてしまえば、それまで未確定だった回答方法もまた変更を認めるわけにはいかなくなるってことだ」
そこまで俺が言うと、鳳凰天星火は顎に手を当てしばし考えた後、「そういうことですのね」と得心が言ったように頷いた。やっとお嬢様にもご理解いただけたか。
「え、どういうこと? ねぇ、どういうこと!?」
一人訳が分からないといった様子で狼狽えているところに向けて、答え合わせといったように鳳凰天星火が説明を始める。
「前提として、わたくしたちの大切なものが同一のものだと仮定した場合、彼の行動がとても意味のあるものになるんですのよ。なぜなら、天人が回答したあの場には、私とあなたも同席していたんですから」
鳳凰天星火はそこまで言って「後はもう分かったでしょう」と七種さんに尋ねたけれど、「分かんない(´・ω・`)」と言われて顔が引きつっていた。大丈夫後は俺が説明するから。
「そもそもあの回答方法には不備があってだな、回答後に回答内容を他の回答者へ共有することは禁止されていたけれど、回答を他の回答者がいる状態で行って良いかということは規定されていなかった。だから俺があの場でたった1つの回答権を消費することで、他の回答者がいる場で回答ができるという回答方法を確定させたんだ。俺の予想が正しくて、俺たちの『失せもの』とやらが同一のものである場合、このことで実質後半の禁止事項は意味の無いものに成り下がり、俺たちはグループとして6回の回答権を得たことになる」
鳳凰天星火と七種さんで2回ずつ、俺があと1回、そして全員が持つ最後の回答権の計6回だ。
ちなみに意味がなくなったという証拠に、俺たちは今自由に会話できる状態にある。
普通あんな禁止事項があるなら、監視として何かしらの自在創術の気配を感じるものだが、それもない。
恐らく疾風も無駄になったと感じ取って、後はご自由にどうぞということなのだろう。
まぁ、あいつのことだから、どうせ「そのくらいは別に構いませんけどねぇ」くらいに思ってるだろうけど。
と、そこまで説明して、七種さんは「ほえぇ~」と感心したような声を漏らした後、「でも」と首を傾げた。
「じゃあ漆原先生に、他の回答者がいる状態で回答しても良いですかって聞けばよかったんじゃない?」
「それはⅳの注意事項を鑑みるに愚策ですわね。『不備があった場合については、都度漆原疾風の裁量でルール等を追加するものとする』とありますから、そう質問した際に「じゃあ、それも禁止で」と言われてしまえばおしまいですもの。天人のとった行動が最善手ですわ。認めたくないですけれど」
鳳凰天星火の説明を聞きながら俺はうんうんと大きく頷く。
「やっと分かってくれたか。ったく、さっきはバカだのなんだのとさんざんなことをよくも言ってくれたな」
そしてここが反撃のタイミングとばかりに、俺は鳳凰天星火に向けて食って掛かったが、しかし――。
「せっかくわたくしが全面的に称賛しているのですから、そんな過去の事をぐちぐちと男を下げるようなことは為さらず、素直に受け取っておくのが紳士というものですわよ」
と、紅茶を飲みながら優雅にそう言い返された。
「あーはいはい。光栄の至りでごぜえますだよ!」
何だか結局負けたような気がして、悔し紛れに紳士とは程遠い謝辞を吐き捨てるように言ったところで、俺の袖をぐいぐいと引っ張る七種さんに気付いた。
「私も本当にすごいと思ったよ。伊砂君、強いだけじゃなくて頭も良かったんだね」
そう言って笑いかけてくる七種さん。
あぁ、主よ、俺の心の安らぎはここにありました。
この天使のような笑顔よ、永遠なれ。
「なんか顔が気持ち悪いですわ」
「うるせぇわい」




