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026 昇格試験①

 2036年7月1日 午前9時45分。


「それでは、昇格試験の内容を発表します」


 6組クラス内の教壇に立つ漆原疾風は、教室内の俺、鳳凰天星火、そして七種なずなの3人に向けて、言い放った。


「その内容は、『失せもの探し』です!」


「「「『失せもの探し』?」」」


 3人が口を揃えて、オウム返しをする。


「先生、昇格試験は自在創術士としての実力を測るため、例えば上位組の生徒と模擬戦をするとか、魔洞で指定の魔物を討伐してくるとか、そういった戦闘面での試験が多いと聞きましたが……」


 鳳凰天星火は立ち上がり、疾風にそう尋ねる。

 まぁ、その『失せもの探し』という内容を聞いていないから何とも言えないものの、語感的には戦闘的な側面は一切感じることはできない。


「確かに試験の多くはそうかもしれません。しかしながら、昇格試験の内容はその時点での組内担任が自由に決めてもいいこととなっていましてねぇ。最初は僕も例に漏れずそうしようと思っていたんですが、とある生徒から『グループ全員で合格できる試験にして欲しい』と、そうお願いされたので、今回の試験内容にしたんですよ」


 俺はそれを聞いて、俺の左の席に座っている七種さんを見るけれど、首を横に振った。

 鳳凰天星火の方へ目を向けると、俺の方を見ていたので、俺ではないと言う意思で首を横に振る。

 当然試験内容に意見した鳳凰天星火も除外だ。


「あなた達3人の誰かではないですよ。とりあえず試験の内容を説明しますねぇ」


 そう言って、疾風は電子黒板へ板書を始めた。


【失せ者探し】

 ⅰ.ルール

 3人の大切なものを今から隠すので、伊砂天人、七種なずな、鳳凰天星火の3名は、それを期限内までに見つけること。


 ⅱ.期限

 7月4日17時


 ⅲ.回答方法

 各自隠された大切なものが何か分かった時点で漆原疾風へ回答を行うこととする。

 ただし回答権は1人3回までで、全ての回答権を使い切った者は失格。

 回答に当たっては、そのものが特定できないような曖昧な回答は不可とし、固有名詞が存在する場合は、固有名詞で回答するものとする。

 なお、回答内容については、回答後に他の回答者への共有を禁止とする。


 ⅳ.注意事項

 一度確定したルール、期限、回答方法及び注意事項については例外なく変更を認めず、不備があった場合については、都度漆原疾風の裁量でルール等を追加するものとする。







「というのが試験の内容となりますが、質問はありますか?」


 疾風からそう問われ、鳳凰天星火が手を上げる。


「ⅲの回答方法ですが、例えば隠されたものがわたくしのこの創術具だった場合、固有名詞は存在しないですがどのように回答すればよろしいでしょうか」


「その場合は、例えば『ずっと身に着けていたイヤリング型の第三世代型創術具』であるとか、『○月○日に購入した△△で購入したイヤリング型の第三世代型創術具』とか、そのものが特定できれば構いません。またはその創術具に名前を付けているのなら、それが固有名詞になりますからそれが答えでしょうか」


 なるほどと俺は頷く。

 ⅲのその記述については確かにどういう風に回答すればいいか俺も良く分からなかったのだけれど、今ので何となくのルールは分かった。

 他に質問が無いことを確認した疾風は、「最後に」と咳ばらいを一つ挟んで続ける。


「自在創術士とは単に戦闘面だけでなく、時には何物にも惑わされない頭脳も必要となってくると言うのが僕の見解です。3人の戦闘面の実力に関してはデュラハンとの対峙の結果を見れば明らか。ですから僕は、あなたたちの知力を試させていただきます」


 知力、頭脳試験。

 それが今回の昇格試験の内容。

 ちくしょうと睨む俺に対し、疾風は笑顔を返してくる。

 これは、戦闘試験の場合、俺が楽勝でパスすることを見越しての試験内容だと瞬時に理解できた。

 簡単に昇格はさせないと言う疾風の意思が手に取るように分かる。

 なーにが伊砂さんならすぐに達成できますよ、だ。舐めやがって。


「いいぜ、受けてやるよ。早く俺たちの大切なものとやらを隠してみろ」


 俺の中で疾風への闘志が湧き上がり、心の中で炎がメラメラと燃え上がるのが分かった。

 そんな俺を見て、疾風は笑顔を崩さず「分かりました」と一言答えた。


「では、こちらの杖をご覧ください」


 疾風はそう言うと、ポケットから手のひらサイズの木の棒を取り出した。

 先端に自在石のようなものが取り付けられた簡易の杖だが、それがどうしたというのだろうか。


「ほいっ」


 疾風は掛け声とともに、それを一振りする。

 しかし教室内は静寂に包まれたまま、火が出るでも雷が奔るでもなく、何も起こらない。


「はい、今あなたたちの大切なものを隠しました」


「「「えっ」」」


 3人が3人とも素っ頓狂な声を上げて疾風を見た。

 えっ、今何か隠したのか? 全く分からなかったけど。


「いやいや、冗談だろ?」


 だって、隠したも何もこの教室の状況は変わってない。

 俺と、七種さん、そして鳳凰天星火に疾風。

 今、教室内に居るこの4人に何も変わったことなんて起こってないじゃないか。


「冗談ではないですよ。今、確かにあなた達3人の大切なものを隠しました。それでは試験スタートとしますので、もう答えが分かったのなら回答してもいいですよ」


 ニッコニコの疾風に若干イラっとしながらも、どうやら嘘や冗談を言っている素振りはない。

 とすれば既に俺の大切なものが隠されたことになるが――。

 いや、待てよ。

 いくら疾風と言っても、たった今の瞬間に3人の目を盗んでそんなことができるはずがない。

 ということは、俺たちが気付かれないよう、疾風は大切なものを事前に隠していたのではないかと言う推測が生まれる。

 そう考えると、少し前から俺の手元から無くなったとあるレアものが思い出される。

 そうか、今隠したと言うのは完全なブラフ。

 他の2人には悪いが、俺は先に昇格試験をパスさせてもらうぜ!


「疾風、答えは、疾風から手渡されたアオイたその幻のアルバム『勝手に刈ってね』のCDだ!」


「残念、違います。伊砂さんの回答権はあと2回ですねぇ」


「ちくしょー!」


 俺は机をドンと叩きながら、まぁそうだろうなと心の中で思った。

それよりも俺のCDは一体どこへ消えたんだろうか。血眼になって……までは探してないけど、めちゃくちゃレアなお宝なんだけどな。


「全く。あなたはバカなんですの?」


 鳳凰天星火はそんな俺の姿を見てため息を吐くが、こいつは今の俺の回答を聞いていて何も感じなかったのだろうか。全く、感謝されこそすれ、ため息を吐かれる謂れなどないはずだ。ぷんぷん。


「それなら私心当たりがあるよ」


「えっ」


 俺が鳳凰天星火にぷんぷんしていると、七種さんが、くりくりとした視線をこちらに向けながら笑顔でそう告げてくる。


「どこにあるんだ!?」


 俺は立ち上がり七種さんの両肩を掴むと、懇願するように顔を近づけて訪ねた。


「あ、うん。そんなに近いと、恥ずかしいよ……」


 七種さんは、顔を赤らめながら横に視線を逃がす。

 俺は、はっと我に返り「悪い」と一言謝った。


「皆さんの共通の弱点。それを乗り越えて回答に辿り着くことを切に願います」


 俺たちがわちゃわちゃとやっている横で、疾風がそう小さく呟く。

 その一言が聞こえていないと思ったのか、軽い笑みで教室を立ち去る疾風に、俺は心の中でそっと舌打ちをした。


 ◇


 2036年7月1日 午後5時半。


「お、俺の幻のアルバム~」


 七種さんは寮のマスタキーを疾風から借りてくれ、俺と七種さんの丁度間にある部屋、202号室に案内してくれた。ちなみに俺が201号室で、七種さんが203号室だ。

 女子生徒の部屋と思われるその部屋の机の上に、俺が探し求めていたCDがちょこんと置かれており、何でこんなところにと思ったけれど、とりあえず現物が見つかって良かったと安堵する。


「前、漆原先生が寮の部屋を周っているときに、この部屋で見かけたって言ってたの覚えてたんだ」


 俺としては初耳の情報。

 よくよく聞くと、つい先日、デュラハン事件の際、亡くなった生徒の部屋を含めて全員の部屋を巡回するといったことがあった。

 そう言えばその時に俺の部屋にも疾風がやってきて、ずいぶんと空きがでたので、今後の部屋割りをどうするかを考えているとか言っていたが、そういうことか。

 順番に部屋を周っていたのだとすると、202号室の次が七種さんの203号室だろうし、俺に手渡したCDが202号室に置かれているのか不自然に思った疾風が、俺と仲が良い七種さんにそれを伝えていたとしても不思議ではない。


 それよりも――と、俺は誰の部屋かも分からない202号室を見渡す。

 あまり物がない整理整頓された部屋。

 ベッドに置かれた大きな熊のぬいぐるみで女子生徒の部屋だと俺は結論付けたわけだけれど、一体ここは誰の部屋だったのだろうか。

 それとなく七種さんに尋ねてみるものの、「私も知らないの」と首を横に振った。

 疾風情報では今時点では空き室になっていると言うことなので、恐らくは俺のクラスメイトだった誰かの部屋であることには違いないのだろうけど――。

 そこまで考えて俺はブンブンと首を振る。

 せっかく七種さんが前を向いて歩き始めたところなんだ。

 あの事件を思い出させるような話題を振るべきではないなと思い、俺と七種さんは鳳凰天星火の待つ食堂へ足を運んだ。


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