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第9話 気まぐれの再訪

 森の中をまっすぐに進んでいたタローとリナ。だが、ある地点を過ぎたあたりから、タローの歩き方が急に変わった。それまで一直線に進んでいた彼が、急に左右に曲がりながら不規則なルートを選び出したのだ。時折、木々の間に目を向け、まるで何かを探すように森の奥へと踏み込んでいく。


 リナは不思議そうに眉をひそめ、タローに問いかけた。


「タロー、この森に何かあると感じたりしたの? さっき出口が見えてたのに、急に方向変えたりして……」


 タローは足を止めることなく、鼻歌まじりにのんびりとした口調で応える。


「んー、たまにはゆっくり森林浴でもしようかなーって思っただけですよー。それにですねー、この辺りに以前お世話になった人が住んでた気がしたので、ちょっと寄ってみたくなったんです。」


 まるで道を熟知しているかのような動きにリナが戸惑いながらも後をついていくと、木々の間からふいに陽が差し込んだ。視界が開け、風通しの良い小さな谷に出た。そこにはいくつもの木造の住居が並んでおり、穏やかな空気が漂っていた。


 その光景を見て、リナは目を丸くする。


「ここ……エルフの集落じゃない? こんな場所に人の気配がないなんて……タロー、まさか前から知ってたの?」


 「まあ、はい。以前この世界を旅してたときにちょっと立ち寄ったんですよー。」


 タローは悪びれもせずに笑いながらそう答えた。エルフの集落は通常、人里から離れ、結界や魔法によって隠されていることが多い。それだけに、タローの言葉はリナにとって驚きだった。


 するとそのとき、少し離れたところにいた一人の青年がタローの姿に気づき、駆け寄ってきた。すらりとした長身、艶のある金髪、鋭い眼差しを持ったその青年——エルフの青年は、どこか懐かしそうな笑みを浮かべていた。


「タロー……? やっぱりタローじゃないか。久しいな。あの時は世話になった。森に潜んでいた盗賊を退治してたら、いきなり現れて一瞬で片付けてしまって……おかげで俺の見せ場、全部持っていかれたからな。」


 「おやおや、ファツィオさん。お久しぶりですねー。あの時はタイミングが悪かったというか、つい反射的にやっちゃったというか……いやー、見せ場奪ってすみませんでしたねー。」


 タローは苦笑しながら、頭をぽりぽりと掻いた。


 そのやり取りを横で見ていたリナは、ますますタローという存在に対して興味を深めていく。彼はまるでどこの世界でも顔を持っているかのように、自然体で様々な場所に馴染んでしまう。それが驚くほど当たり前のように見えるのだ。


「タロー、本当にいろんなところで人を助けてるのね。しかも、エルフとこうして普通に話してるなんて……」


 「いやー、あれはただの偶然ですよー。たまたま盗賊たちを見かけて、止めに入ったらそのまま仲良くなったって感じですねー。」


 「ほんと、あなたって“たまたま”が多いのね……」


 そんな会話に、ファツィオが穏やかな口調で割り込んだ。


「彼女は新しい仲間か? ずいぶん頼もしそうだな。」


 「ええ、私はリナ。最近タローに助けられて、それから一緒に旅してるの。あなたも、タローに助けられたの?」


 「そうだ。俺たちエルフの集落は、しつこく現れる盗賊に苦しんでいた。退治しても、すぐまた現れる……そんな中、いきなりこの妙な旅人が現れてな。おまけに、盗賊たちを驚くほどの力で一掃してくれた。」


 「森の中で私が魔法を使うと木々が大量にぶっ飛んじゃうんで、普段通りの魔法はちょっと使いにくかったんですよー。だからその時は、体術と棍で対応したんですよねー。たとえば……」


 そう言ってタローが手をかざすと、淡い光とともに禍々しい装飾が施された棍が出現した。黒と赤の混じる装飾が施され、ただの武器には見えない雰囲気を放っていた。


「うわ……それ、見た目からしてすごく強そうね。っていうか、本当に何でもできるのね……」


 リナは少し呆れつつも、心の底から感心していた。


「でも……盗賊たちが、どうしてこの森に執着したの? 普通なら、エルフの森に手を出そうなんて思わないと思うけど。」


 ファツィオはリナの問いに、少し表情を曇らせた。


「それには理由がある。……この森には、古代の遺物が眠っているんだ。遥か昔、エルフの守護神が残したものらしい。その遺物が放つ魔力を感じ取った盗賊たちが、手に入れようと何度もこの森を荒らした。」


 「なるほどですねー。私が来たときも、彼らはその遺物を目指していたみたいでしたよ。でも、盗賊たちにはそれが“財宝”にしか見えなかったんでしょうねー。」


 リナはしばらく黙った後、ふと視線をタローに向けた。


「その遺物、今もこの森にあるの?」


 「ええ。でも、私とこの森の巫女さんとで強力な結界を張りましたからねー。触れようとしても、中に入ることはできません。さらに、エルフの皆さんがしっかりと管理してくれていますし、安心ですよー。」


 ファツィオも力強く頷いた。


「そうだ。遺物は集落全体で守っている。もう、盗賊たちが入り込む余地はない。この森は、タローのおかげで平和を取り戻したんだ。」


 「いやいやー。私の力なんて大したものじゃありませんって。皆さんの意志と団結があってこそですよー。」


 そう言いながら、タローは照れたように笑った。


 その後、タローとリナはファツィオに誘われて集落の奥へと向かい、長老の屋敷へ案内されることになった。年老いたエルフの長老は二人の訪問を心から歓迎し、昔話に花を咲かせながら、今夜はぜひ泊まっていくようにと勧めた。


 こうして、思いがけず訪れた森の奥の集落で、タローとリナは束の間の安らぎの時を過ごすこととなった。

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