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第7話 思い出のブレスレット

 静寂と風の音だけが残る遺跡を背にして、タローとリナは再び近くの集落へと戻ってきた。かつては不安と恐怖に覆われていたこの村にも、どこか安堵の色が広がりつつあった。空気が違う。魔物の気配が減っていることを、敏感な人々は本能的に感じ取っていた。


 集落の中心に集まった村人たちの前で、タローは事の顛末を簡潔に説明した。だが、詳細……つまり、封じられていた悪魔の存在については伏せておくことにした。混乱を招くだけでなく、無用な恐怖を与えてしまうのは本意ではなかったからだ。


「遺跡の呪いの原因はきれいさっぱり絶ちましたので、もう魔物が大量発生することはないと思いますよー。」


 タローはいつもの調子で、軽やかにそう告げた。しかしその口調の裏に、確かな自信と誠意が滲んでいるのを、村人たちは敏感に感じ取っていた。


 その言葉に、一同は歓声を上げた。安堵、喜び、感謝、さまざまな感情が混じった声の波が、集落の空に温かく響く。


「旅のお方……本当に何とお礼を申したらよいか……これは、ささやかではありますが、村人たちで集めた品々です。どうか受け取っていただけませんか?」


 年配の村人が、籠に入った保存食や手編みの布、装飾品などを手に差し出した。その手は震えていた。重ねた年月の分だけ、村を守りたいという気持ちが滲んでいる。


 しかしタローはその申し出をやんわりと制した。


「あー、お気持ちだけで十分ですよー。その品々は、これからの生活に役立ててくださいな。せっかく集めたんですし、皆さんのためにこそ使うべきですって。」


 優しく笑うタローに、村人たちは一瞬言葉を失った。その表情には、ただの親切心以上のもの——何か深い思慮と誠実さを感じさせるものがあった。


「……本当に、ありがとうございます。それでも何かお礼を……」


 何人かが再び申し出ようとしたが、タローは手を振って制した。


「いやいや、本当に気にしないでくださいなー。皆さんがこれから平穏に暮らしていけるなら、それが私にとって一番の報酬です。ねー、リナさん?」


 そう言って横を見ると、リナもまた微笑みながら頷いた。


「ええ、タローの言う通りです。私たち冒険者は、自分の旅の中で誰かと出会い、困難を共に越え、その手助けをする。それが務めであり、誇りでもあります。皆さんの未来のために使えるものなら、どうか大切にしてください。」


 言葉のひとつひとつが村人たちの心に染みわたる。その場にいた長老が、深々と頭を下げた。


「タローさん、リナさん……心から感謝いたします。あなた方のような方々に助けられたこと、村の者全員が忘れません。どうか、またこの村の近くを通ることがあれば、いつでもお立ち寄りください。」


 「ええ、気が向いたらふらっと寄らせてもらいますよー。次はお茶でも飲みながらのんびりしましょう。」


 タローは気さくに笑いながら、リナと共に村を後にしようとした。


 そのとき、村の外れから小さな足音が近づいてきた。タローが遺跡へ向かう前に助けた、あの少女だった。彼女は手に何かを握りしめていた。


「待って……!」


 少女は息を切らしながらタローの前に立ち、小さな両手で差し出したものは、色とりどりの糸で編まれた手作りのブレスレットだった。


「これ……あなたに着けてほしくて。私、下手だけど……精一杯、心を込めて作ったの。」


 その真っ直ぐな思いに、タローは柔らかく目を細める。


「おやおや……私のために、こんな素敵な贈り物をいただけるとは。うれしいですねー。」


 彼はブレスレットを受け取ると、そのまま右手首に丁寧に巻き付けた。そしてお返しとばかりに、魔力を帯びた白い光を手の中に生み出す。


「じゃあ私からも、お返しをひとつ。このブレスレットはお守りです。危ないことがあった時には、そっとあなたを守ってくれますからねー。」


 そう言って少女の手首に、淡く輝く白銀のブレスレットをはめると、少女は目を丸くして驚き、すぐに顔をほころばせた。


「ありがとう……! また、来てくれる?」


「ええ、もちろん。またこの村に来ることがあれば、真っ先にあなたに会いに行きますよー。」


 少女は手を振って見送った。村人たちも次々に頭を下げ、温かな言葉をかけてくる。その光景を背にしながら、タローとリナは再び歩き出した。


 少し離れたところで、リナがふと口を開く。


「……タロー、あなたって本当に不思議な人ね。あの状況で悪魔を説得して、魔法で城まで造ってしまうなんて……。なのに、いつも飄々としていて。」


 タローは肩をすくめ、空を見上げた。


「まあ、旅をしていると、いろんなことがありますからねー。シリアスになりすぎても疲れるんですよ。どんな世界でも、結局大事なのは“楽しむ”ってことですから。もちろん、楽しむにもバランスは大事ですけどねー。」


 リナは彼の言葉に思わず笑い、頷いた。


「あなたから学ぶことは、私が思っていたより多いみたい。」


「ふふん、それはどうも。ですが、次はリナさんが活躍する番かもしれませんよー。旅はまだまだ続きますからねー。」


 その言葉に、リナは小さく微笑んだ。二人の足取りは軽く、視線の先には広がる青空と、まだ見ぬ世界。


 彼らの旅路には、きっとこれからも多くの出会いと試練が待ち受けている。だが、どんな困難も、この二人ならきっと乗り越えていけるだろう。


 穏やかな風が吹き抜ける道の先で、新たな冒険が二人を待っていた。

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