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第5話 分かれ道の選び方

 遺跡の奥へと続く石の通路を進むタローとリナ。その空気は次第に重く、冷たく、何か見えないものに監視されているような緊張感を帯びていた。


 そんな中、ふとリナが足を止めた。彼女の視線の先には、崩れた壁の傍で無惨に倒れている一体の人影があった。鎧のデザインとその顔を見た瞬間、リナは息を呑んだ。


「……ロシェ……」


 それは彼女の仲間だった。かつて共に調査隊としてここへ来た者の一人。だが今、その身体は動かず、硬直した四肢と割れた兜が、彼の最期が決して穏やかなものではなかったことを物語っていた。


 リナの顔からは血の気が引き、唇はきゅっと結ばれる。彼女はしゃがみ込み、かつての仲間に静かに手を合わせた。


「この近く……罠があったのかもしれないわ。足元、そして上にも注意を。慎重に行きましょう。」


「そうですねー。」


 タローは相槌を打ちながらも、特に取り乱す様子もなく、ロシェの亡骸に近づいていった。小さく指を鳴らすと、掌から淡く光る魔力が流れ出し、それが亡骸を包むように降り注ぐ。


「さてさて、生き返りましょうねー。っと……」


 数秒後、ロシェの胸が小さく上下し、薄く目を開いた。まるで深い眠りから覚めたような顔で、彼は周囲を見回す。


「……っ!? な、なんだここは……俺は……死んだはずじゃ……?」


 ロシェは混乱し、怯えたように自分の身体を確認した。傷は癒え、血も消えている。しかし確かに、自分は罠にかかり、死を迎えた記憶がある。


「やあやあ、落ち着いてくださいなー。少しお話を聞きたいだけですからー。」


 タローはにこにこと笑いながら、彼に問いかけた。


「この辺に何か罠があった感じですかー? 落ちてきた岩か何かで……?」


 ロシェはまだ信じられないような顔をしながらも、タローの言葉に応える。


「……あ、ああ。俺は……この先の床にあるスイッチを踏んでしまったんだ。すると、上から岩が落ちてきて……それで……。でも、思えば……その岩を避けた先にも何かがあった気がするんだ。確か、壁から矢が……」


「なるほどなるほどー。よく分かりましたー。」


 タローは軽く頷くと、再び手を掲げる。


「じゃあロシェさん、後は私たちに任せて、さくっと安全な場所へ行っててくださいなー。ありがとうございましたー。」


「え、ちょっ、まだ話が──」


 ロシェの抗議の声が響くより早く、タローの魔法が発動し、彼の身体は光と共にその場から消えた。転送魔法だ。おそらく、遺跡の外、もしくは安全な場所へと飛ばされたのだろう。


「……ほんと、あなたって……何者なの?」


 リナは呆れを含んだ視線でタローを見つめながらも、心のどこかでは感謝の念が芽生えていた。


「でも……彼が教えてくれたおかげで、罠の仕掛けが分かったわ。気を引き締めないと。」


 「ええ、ですねー。あの手のトラップは、1つ見つけるとだいたい周囲にもう2、3個ありますからねー。油断大敵ですよー。」


 タローは相変わらずの調子で微笑んだが、目の奥には冷静な光が宿っていた。


 それから二人は、今まで以上に慎重に歩を進めた。石床の継ぎ目、壁の不自然な凹凸、天井の隙間——すべてが罠のトリガーである可能性を考え、互いに確認し合いながら進む。


「こういう場所には、罠だけじゃなくて、隠された仕掛けもありそうですねー。何かの扉が隠れてるとか、隠し部屋があるとか。」


 タローの言葉に、リナも周囲を見回しながら応じた。


「可能性はあるわね。この遺跡自体、何かを守るような造りをしているもの。どこかに真実へ繋がる道があってもおかしくない。」


 その時、目の前の道が二手に分かれているのに気づいた。一方は薄暗く狭い通路、もう一方は開けた広間へと繋がっているようだ。


「さてさて、選択のお時間ですねー。狭い方は隠れられる分安全な気もしますが、快適とは言いがたいですし……広間は見通しが良い分、罠や敵が出やすそうですねー。」


 リナは少し考えた後、剣に手を添えながら答えた。


「広間を進みましょう。視界が広い方が、戦闘になった時に優位を取りやすい。罠があっても、回避の余地があるから。」


「了解ですー。では、広間へ参りましょうねー。」


 二人は広間へと歩みを進めた。そこは天井が高く、壁や天井にびっしりと古代の文字や模様が描かれていた。色褪せたとはいえ、その線の一つひとつには何らかの意味があるように思えた。


 タローはライトの明かりを天井に向けながら、ゆったりとした声で言った。


「おやおや、これはまた雰囲気のある場所ですねー。宗教的な意味なんかもありそうですし、封印やら契約なんかが関係してるかもしれませんよー。」


「ええ、見て。中央に石碑があるわ。あれ、明らかにこの部屋の中心として据えられてる。」


 リナが指差した先には、円形の台座の上に立つ重厚な石碑があった。表面には無数の古代文字が彫り込まれ、その下には掌の形を模した凹みが刻まれている。


「何かのヒントが書かれてるかもしれませんねー。あるいは、いわゆる試練の起動スイッチ……とか?」


 二人は慎重に石碑へと近づいていった。踏みしめる足音が、広間に静かに響き渡る。


 これまでの道程に比べても、この場所には特別な“意味”がある——二人はそれを肌で感じながら、緊張を強めて進み続けた。

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