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赤王の残り香  作者: やう
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4

「バートン卿………」

「え」

 ヒオウは驚いて、後ろの男性を振り返った。

 赤い短髪に、吸い込まれそうな、美しく黒い瞳。落ち着いた雰囲気が滲み出ているが、その顔立ちは思ったより随分若く、ヒオウたちの年齢とそう変わらないように見える。

 騎士の制服でなかったためヒオウは気づかなかったが、リュエーヌには、それが誰であるか遠目からでもわかっていたようだ。

「夢……?」

 憧れの人の偶然の来店に驚いて、リュエーヌは腰を抜かしたのだと、ヒオウもようやく事態を飲み込んだ。

(じゃあ、こっちの黒髪は、オ……、誰だっけ)

 名前が思い出せないが、よく見れば黒髪男性のほうも、先ほど見たような顔だ。

(こんなことしてる場合じゃない。リュエーヌを助けないと)

 憧れのひとに地べたに座ったままの姿を見せては、リュエーヌは後から悲しくなるに違いない。それにバートンも、声をかけても返事のないリュエーヌを、心配そうに見つめている。

「よければ、お手をどうぞ」

 その声に意識を取り戻したリュエーヌは、赤い顔を青くさせてしまった。自分の体勢を、客観的に悟ってしまったに違いない。

 ヒオウの方へ助けを訴える表情は、泣いてしまいそうだった。

「そんな顔、しないで。大丈夫だよ」

 ヒオウは、リュエーヌの手を取ると、バートンが差し出した手にリュエーヌのその手を重ねた。

 それにびっくりして固まるリュエーヌを、背後から支えて立ち上がらせようとする。バートン卿も、リュエーヌの白くて華奢な手をしっかり握って、引っ張ってくれた。

 リュエーヌを無事立ち上がらせると、ヒオウは、黒髪の騎士に向かって頭を下げた。

「ありがとうございました。目立ってしまったので、失礼します。リュエーヌ、歩ける?」

「え、ええ……。大変お見苦しいところをお見せいたしまして、申し訳ありません。ありがとう、ございました」

 リュエーヌは騎士2人に消え入りそうな声でそういって、バートンに握られている手を、離そうとした。

「体調は、大丈夫か?」

 しかしバートンに話しかけられて、リュエーヌの動きが止まる。

「は、はい。身体は問題ございません。お心遣い、ありがうございます」

 綺麗な言葉で話すリュエーヌに、ヒオウは感心した。こんな時に、普段の言動と為人が、出るのだろう。

「あの。良かったら、少しの間だけ彼女をお願いできませんか?私はここの片付けと、支払いを済ませてくるので」

「でも、ヒオウ。私も」

「ああ。承った。歩けるか?」

 ヒオウが騎士2人に向かってそういうと、リュエーヌは遠慮しようとしたが、バートンがリュエーヌの手を引いて外に連れ出してくれた。

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