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赤王の残り香  作者: やう
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 バートンが指定した『はぐれ木の宴』は、王都から馬車で半刻ほど郊外へ出た場所にある。ここは、リュエーヌの実家であるカーネル男爵家の収める土地であった。

「わざわざリュエーヌの家の近くのワイナリーを指定してくれるなんて、いい人だね」

「ええ。でも、当然のことだわ。謝罪の気持ちがきちんとあるからこそ、うちの領地の発展に貢献してくださるんですもの。それに、あの場所は、秘密の話し合いにはぴったりなの」

 ヒオウは『はぐれ木の宴』という店は知らなかったのだが、王都に住むバートンが知っているのなら、有名なのだろう。

「ふふ、ヒオウ。あなた、不安そうな顔が表に出ているわよ」

「だって、貴族が集まる店なのかなと思ったら、緊張しちゃって」

 リュエーヌのような上質な布の服など持っていない。ましてやドレスなど、言うべきにもあらず、だ。

「大丈夫よ。個室があるから、そこを抑えてくださっている筈よ。でも、そうね。私たちは一度、うちに寄りましょうか」

「え、お屋敷に?今日はお土産持ってないよ」

「突然だもの。要らないわよ」

 2人はリュエーヌの実家、カーネル男爵家へ到着した。初めて見た時には、「お城?」と聞いてしまった。王城を見た後では規模が違うことにも気づいたが、それまではヒオウの中でのお城はリュエーヌの家であった。

 メイドに迎えられ恐縮しながら屋敷内に入る。リュエーヌは自室に着くなり、ヒオウに向かって手のひらを向けてきた。

「服、全部脱いで頂戴」

「え」

 にこやかな笑顔にヒオウは左足を半歩引いた。

「リュエーヌ、何?」

「いいから」

 有無を言わせない笑顔だ。こんなにリュエーヌの前から逃げ出したいと思ったことはないと、ヒオウは頬を引き攣らせた。


 ーー

 晴天の中、バートンとゼアンは馬車に揺られていた。

 件の2人へ謝罪のために、『はぐれ木の宴』へと向かっている。

「カーネル男爵令嬢は、しっかりした方でしたね」

 騎士の制服では目立つため、紋章だけを付けた私服姿の2人は、向かい合って座っている。ゼアンは時折窓の外を見るが、バートンは何かを考え込んだように床板の一点を見つめていた。

「ああ」

「先ほどの騎士、なぜあのような行動を起こしたのでしょう。例の招集については、まだ詳細は伝わっていませんが」

「ああ……」

 バートンはそれきり黙ったままで、ゼアンもそれ以上話しかけることはしなかった。

 窓の外に流れる景色に目を移して、思考に耽る。

(なぜ……、ヒオウだったんだ?)

『大罪人を捕らえよ』。その命令は唐突で、且つ不可解だった。未だ犯人が捕まっていない近頃の犯罪といえば、無作為に貴族の屋敷を狙った放火と、厩舎から馬を十頭ほど盗んだ窃盗だ。あとは、食い逃げ。

(食い逃げ班だとでも思ったのか…?)

 ゼアンはヒオウと出会った昼間の酒場を思い出していた。一欠片の飯も残すまいと食べていた姿を思い出して、目を閉じる。

 先ほど、ヒオウとカーネル男爵令嬢を留めた騎士にも事情は聞かねばなるまい。そちらは騎士の監査本部が、今頃問い詰めているだろう。

 ゼアンは目線を窓の外に戻すと、カーネル男爵領へと続く街の景色を眺めた。



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