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赤王の残り香  作者: やう
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「我々が話を聞こう」

 バートンの言葉に、騎士が振り返って驚く。

「副団長、第二隊隊長!?模擬試合は如何されたんですか?」

「もう終わりましたよ」

 ゼアンは苦笑して自分の膝を示す。土で汚れたそこは、バートンに敗れて膝をついたのだと物語っていた。

「あなたも持ち場へ戻って大丈夫ですよ。ご苦労でした」

 にこやかに告げられた言葉は、暗に『お前は邪魔だから持ち場へ戻れ』と言っている。何時もより、心なしか笑顔が冷ややかだ。

 騎士が去ったところで、ゼアンがヒオウとリュエーヌに向き直った。

「若輩が失礼いたしました」

 ゼアンとバートンが2人に向かって頭を下げる。

 そんな大層なことじゃないのに律儀だな、とヒオウが感心している横で、リュエーヌがヒールをカツン、と鳴らして一歩前へ出た。

「謝罪は受け入れます。ですが、あの方の振る舞いに対しての説明を求めます」

「えっ?リュエーヌ!?」

 ヒオウは驚いてグルンと首を勢いよく回し、リュエーヌをまじまじと見つめた。

 その横顔は凛としていて、いつもヒオウに笑いかけてくれる穏やかな顔とも、遅刻して怒っている時の顔とも違う。目が冷たい光を湛えている。

 恐らく、ヒオウのために怒ってくれているのだ。それに加えて、国民を守る騎士が明確な罪もない一般人をぞんざいに扱ったことへの、その在り方を問おうとしている。

 国から爵位を与えられている家に生まれ、国に仕える立場であるリュエーヌだからこそ、同じように国に雇われている騎士に対しての責任を問える。

(いまのリュエーヌ、最高にかっこいいな。でも、)

「私は大丈夫だよ。ありがとう」

 リュエーヌ自身が少しでも望まない行動は、しないでほしい。

 本来ならば国の責任の所在についての話題に、庶民のヒオウが口に出すことはできないだろう。だが、ヒオウは一歩前に出てリュエーヌのその瞳を覗き込んで、心から笑った。

 目の前にはバートンとゼアン。2人ともリュエーヌが大好きに思っている人だ。

「ごめんね」

 ヒオウのその言葉で、リュエーヌの瞳に温度が戻る。困ったように下がる目尻を見て、ヒオウはもとの立ち位置に戻った。ヒオウのために怒ってくれていた気持ちは、今ので薄まったはずだ。あとに残るのは、責任を負う者同士の対話。ヒオウに口を出す権利はないだろう。

「リュエーヌ嬢」

 バートン卿が神妙な顔でリュエーヌに声をかける。

(リュエーヌの名前、覚えてくれたんだ)

 ヒオウは心の中で喝采をあげる。今は態度に出せないリュエーヌの、心のうちの代弁者になった気分だ。

「貴殿の姿勢に敬意を。我らも同様に説明義務を負うと考えている。少々時間をいただけるだろうか」

「畏まりました。今からよろしいですか?」

「感謝する。本来ならば騎士団本部が話し合いには妥当だが、今回に限っては、『はぐれ木の宴』に来ていただけないだろうか」

「構いません。では、後ほど」

 ゼアンとバートンはもう一度頭を下げてから、去っていった。その背中を見送り、見えなくなった頃に、リュエーヌがヒオウの目を覗き込んできた。

「ヒオウ、大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃないかも」

「やっぱり肩が痛いの!?あの騎士、本当に無礼だったわ……。慰謝料でも貰うべきよね」

 リュエーヌは真剣に考え始める。それを見てヒオウは暖かい気持ちになり、思わず笑ってしまった。

「ふふっ、リュエーヌが可愛くて、カッコよくて、大丈夫じゃない」

 リュエーヌは一瞬だけポカンとした顔を見せてから、わなわなと握った拳を震わせ始めた。

「あなたねえ〜!」

 それからはリュエーヌの小言がこれでもかと飛んできた。

 騎士だろうが男の人に襲われたら対抗せずに油断させて、隙を見て逃げなさい。あなたも少しは怒りなさい。人のことばかり考えてないで自分を大事にしなさい。

(自分を大事に、かあ)

 リュエーヌだって、ヒオウのために行動するくせに。

 そう思える友人がいることが、ヒオウは心から嬉しかった。

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