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赤王の残り香  作者: やう
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「ビオナ薬師長。頼まれていたワーズの臓器と、パラゴンナ草です」

 王都に戻ってきたゼアンは、翌2日かけてワーズを狩り、ヒオウに手渡されたパラゴンナ草と共に依頼主のビオナに渡す。

「ああ、ありがとう。まさかパラゴンナ草まで取ってきてくれるとは。さすがオクスネルさん……。なんだか多くないですか?」

 ビオナは濃い紫色の瞳を広げて、まじまじとパラゴンナ草を観察している。

「群生地を発見しまして」

「そうですか。昨日、民間依頼していたパラゴンナ草の方も依頼数を上回る数が提供されました。生息域でも変わったのかしら……」

 おそらくヒオウだ。山盛りのパラゴンナ草を抱えていたからどれほど必要なのかと思ったが、必要数以上に採っていたのか。

(あの身のこなしなら、崖に生えようが、問題にならないな)

 ゼアンが思い出して苦笑していると、ビオナが怪訝そうに見上げてきた。

「なにか、思い当たる節でも?」

「いえ、特に。私の方は生息域の変化は確認できませんでした。崖際に生えていましたよ」

 愛想笑いを貼り付けて、ビオナに答える。

「薬師長。差し支えなければ、聞いても?それは、何に使うのでしょう」

「痺れ薬、と言ったら聞こえが悪いですね。麻酔に使う、と言っておきましょうか。あとは、他の用途も少し……。後ほど、騎士団にも詳細が伝えられると思います」

「騎士団に?そうですか。では私はこれで」

「パラゴンナ草の方は、給与に反映させるよう、お伝えしておきますね」

「お気になさらず」

 ゼアンは踵を返すと、石の床を歩いて王城から騎士団本部へと戻った。


 騎士団本部は、城と続きの廊下で繋がっている。

 城の中庭に面した通路を歩く。カツ、カツ、と向かいから聞こえるヒールの音に、ゼアンは目線をチラリと向けると、その場にひざまづいた。

「あら、誰かと思えばオクスネルじゃない。久しぶりね。顔を上げて良いわよ」

「は。王女殿下においても、ご機嫌麗しく」

 ゼアンが顔を上げた先には、黄色の爽やかなドレスに身を包んだ美しい女性が立っていた。

 上品なウエーブのかかった髪は、湯を注いだ瞬間の紅茶のようで、色も去ることながら匂い立つような気品が溢れている。

 薄金色の瞳を優しげに細め、ゼアンを見つめる王女は国の第一王女、シリーナベル・ロム二・コンフォーレだ。穏やかな性格とその美しさから、貴族からも民衆からも、支持されている。

「ふふ、そんなに賢まらなくて良いわと、いつも言っているでしょう?あなたは、騎士団に向かうところかしら?いつもありがとう」

 白い頬にはほんのりと頬紅がのり、ふわりと微笑む様は天女のようだ。

「もったいないお言葉です。王女殿下のためにも、一層精進して参ります」

「ええ。よろしくね。ところでゼアン、あなたいつもと様子が違うわね。どうしたの?」

 そこでゼアンはにっこりと笑みを浮かべた。

「……王女殿下の美しさとお心遣いを、噛み締めていたところですよ」

「まあ、上手ね。そうだわ、あの話、お父様も前向きに検討なさっているようよ」

「本当に?」

「ええ。では、またね」

「は」

 王女とその事情が通り過ぎるのを頭を下げて待つ。

(……婚約者、か)

 ゼアンは立ち上がって、目についた中庭に咲く鮮やかな黄色の花を見やった。

(そういえば、ヒオウもあんな色の瞳を持っていたな。王族よりも濃い色素だが、茶髪に金眼が揃うとは、珍しい……)

 この国には、多種多様な色を持った人がいる。赤髪に、金髪、瞳の色はもっと千差万別だ。その中でも王族では、先ほどのシリーナベルのような色を持って生まれると、生まれの早さに関わらず、継承権の順位が上がる。逆にいえば、王族の色を持たずして生まれた子は、生まれた直後に、継承権剥奪、貴族に養子に出される場合もあった。

 町の人間まで含めると、王族と似たような色が被ることはあるだろう。ゼアンはそう納得して、中庭を後にした。


 本部に戻ると、何やら騒がしく、団員たちが慌てている声が聞こえる。

「あ、オクスネル隊長」

「どうしたんですか?」

 ゼアンに気づいた若い騎士の1人が、駆け寄ってくる。

「それが、『前王の血筋を捉えろ』との命令が」

「前王?200年も前に絶えた王家ですか?」

「はい。しかし、詳細が不明で」

 前王とは、200年前までこのコンフォーレ王国を総べていた、王族のことだ。

 ひどい悪性を敷いて民と国を弱らせ、現王の祖先である人物が革命を起こし、その血は絶やされたと聞いている。

 今尚、200年前から続く風習なのか、「悪の血筋を絶やせ」との風習が、国や騎士団にも残ってはいる。が、絶やされたはずの王族を、どうやって再び絶やせと言うのか。

「団長はいらっしゃいますか?」

「いえ、今は外出なさっていて……」

「そうですか。では、この話はまとまり次第、私、もしくはバートン副団長から詳細を指示します。それまでは、行動に移さぬように」

 ゼアンは団員たちにそう言い置いて、訓練場へと入っていった。

追加登場人物

ヒオウと同室 :ホルクス・ノーグ

第一王女 :シリーナベル・ロムニ・コンフォーレ

薬師長:ビオナ・サンファル



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