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赤王の残り香  作者: やう
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10

 

(悪いことしたよ)

 ヒオウは横穴から出て崖を登りながら、ゼアンのことを考えていた。

 泳ぎが苦手な人に、なんてことをしてしまったのだと、心の中で反省する。

「いつもだったら、もう少し落ち着いた対応できるんだけどな。なんだかな〜。ゼアンには、容赦がなくなるな」

 崖を登りきり、放っておいたブーツを探して履く。

 ヒオウは薪を求めて森を歩き、そうして郊外の街へと戻っていった。


 薪とパラゴンナ草を依頼主に渡したヒオウは、浮ついた足取りで帰路についていた。

(まさかパラゴンナ草を一本50バルで引き取ってくれるなんて!30本で1500バル。うははは、儲けたぜ!)

 いつもならパラゴンナ草10本で100バルだ。

「依頼主、相当いい人だったんだな〜。それに薪も5バル100ロンで売れたし。これが普通だよね」

 ヒオウは常に金が無い『貧乏暇無し』状態だったが、あるところにはあるし、出す人は出すものだなあなどと、世の無情について適当に考えたのだった。


 自室に戻ると、ホルクスが起きて何やら机に向かって書き物をしていた。

「ただいま」

「ああ。ヒオウ。朝早かったんだね」

「まあね。それとこれ、今日買ったチーズと酒。良かったら一緒にどう?」

 ヒオウは依頼料で暖まった懐で、晩酌をする予定だ。ホルクスも誘うと、彼は驚いた顔をしてヒオウを見つめた。

「ヒオウがそんなに稼ぐなんて!」

「パラゴンナ草に礼を言ってよ」

 するとホルクスは途端に不安そうな表情になって、ヒオウの手を取った。

「またあの草を採ったのかい?手は大丈夫?」

「もう素手で触ったりしないって。大丈夫だよ」

 ヒオウがはじめてパラゴンナ草を採ったのは、2年ほど前のことだ。その時から同室だったホルクスは、パラゴンナ草に触れて両掌と両腕を真っ赤に腫らして帰ってきたヒオウを知っている。あのときはヒオウもホルクスも途方に暮れたものだ。心配されるのも無理はないが、このホルクスという男は、いつもヒオウのことを母親のように心配してくる。

(まあ、母なんて、知らないけど)

「それに、なんだか髪も服も濡れているね。何があったの?」

「ああ、川で水浴び」

 ホルクスはまたしても眉を下げて、「もう肌寒いのに、どうして……」などと口を出す。

「心配してくれてありがとう。でも私ももう大人だし、本当に大丈夫だから」

「成人はまだでしょ?」

「そんなの、私たち庶民にはあってないようなものだよね」

 貴族は22歳で成人と認められ、社交界への正式なデビューも行うと、リュエーヌが言っていた。しかし平民は22歳になったら、などと悠長なことは言っていられない。仕事を請けるのも、酒を飲むのも、暗黙に見過ごされている。

 なんでも、今代のコンフォーレ国の王は、「成人年齢が高い国ほど豊か」との思想のもと、隣国が16、18歳で成人するところを、国内は22歳まで引き上げたそうだ。

(見栄ってこわいな)

 その所為で、まともな職になかなかありつけないヒオウのような半端な『こども』が生まれるのだ。

 因みにホルクスは今年23歳のため、立派な『おとな』だ。ヒオウのような日変わりの依頼も請けているが、正式な職として宿屋の従業員も掛け持っている。

 その後困った顔で過剰に心配してくるホルクスを宥め、ヒオウは彼と共にチーズと久々の酒を飲み、就寝した。

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