マルクスとエミリア
迎賓館に戻り、休憩するためにサロンに行くと、そこはただならぬ雰囲気となっていた。
ソファーに並んで座る、マルクスとエミリア。だが、何だか様子がおかしい…
「おかえり、2人とも。楽しめたかい?」
「え、ええ。美味しいものも食べられたし、楽しく過ごせたわ。それより…それどうしたの?ケンカ…じゃないわよね?」
マルクスは機嫌良く微笑んで座っているが、エミリアは顔を真っ赤にして目を潤ませていた。マルクスから目を逸らしているのようにも見える。
「ん?どうもしてないよ。ね、エミリア。僕たちも楽しかったよね?」
マルクスはそっとエミリアの髪に触れた。
「は、恥ずかしいですわ。やめて下さいませ!」
「ごめんね、つい。じゃあまた2人きりのときに、ね?」
ものすごーく怪しい笑みを浮かべたマルクス。
は!なによこれ、どうなっているの?
え、うそ、そういうこと?
エミリア、、陥落されたのね、、。
「ねぇ、メンシス。衛兵呼んできた方が良いかしら?あれ犯罪ではなくて?」
「いや、合意の上だと…いや、マルクスのことだから、裏があるかもしれない…」
「やっぱりそうよね…犯罪者を見過ごすわけにはいかないわ。」
コソコソと、ではなく、堂々と相談し始めた2人。エルザは本気で犯罪者扱いしようとしている。
「君たち、失礼だな…。僕たちは相思相愛なの。純愛だよ。どこかのおとぼけど天然カップルとは違って、真っ直ぐに勘違いなく思い合ってるの。だから変な言いがかりはやめてくれるー?」
マルクスは膨れっ面をした。
「いいわ。今日のところは見逃してあげる。」
「まだ疑うんだね…僕が何をしたって言うんだ…」
「悪いけど、ただのイメージよ。」
とんでもないことをビシッと言い放ったエルザに、メンシスは肩を揺らして笑っていた。
「エミリア、何かあればいつでも相談してね。何かなくても定期的に話聞かせてね。心配だもの。」
「エルザ様、ありがとうございます。お優しい言葉嬉しいです。エルザ様も何かあればご相談下さいませ!頼りないかもしれませんが、私はいつでも貴女の味方です。」
微笑んだ彼女はいつもよりも綺麗に見えた。マルクスは心配だけれど、こんなに愛らしい表情をさせるなんて、恋ってすごいなと、エルザは改めて感じていた。
ルシア様の時もだけど、みんな誰かを好きになって、恋っていう感情が一つ増えて、表情豊かになって大人になっていくのかな…
私にもそんな日は来るだろうか。
きっと、家族以外に大切に思う相手がいたらそれだけで幸せなんだろうなぁ。
その日の夜、マルクスは早速エミリアの家に婚約打診の手紙を送っていた。それを知ったメンシスは、あまりの速さに若干、、いやかなり引いていた。
そして、彼女の父親は、家格が上かつ次期公爵の側近という肩書きにかなり喜んでいたらしく、夏の間に行う予定だった見合いは全て白紙にしたとのこと。
マルクスは執念で全て思惑通りにしたのだった。