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ふわふわの威力


演奏を見終えたからと言って、この人混みの中マルクス達と合流出来るはずもなく、メンシスとエルザは2人で屋台を見ながら歩いていた。


「結局はぐれてしまったわね…演奏に足を止めずにエミリアと一緒にいてあげたら良かったわ…」

「お前のせいじゃない。あれはマルクスが狙ってやったことだ。」

「どういうこと??」

「お前は知らない方がいい。」

「???」

「とにかく、俺たちは俺たちで祭りを楽しもう。」

「それもそうね。」



よしっ!普通に話せたわ。

大丈夫、このままいつも通り何も気にしなければいいのよ。こんな美青年に一々ドキドキしてたら身が持たないもの。


「あ、忘れてた。」

「え?」


エルザは、意味が分からず聞き返そうとして言葉を飲み込んだ。正確に言うと、声を出せなかった。メンシスがぎゅっと手を握って微笑み掛けてきたからだ。


「ちゃんと繋いでおかないと。お前は勝手にどこかに行こうするからな。」

「!!!」


どうした自分!!!

さっきは普通に手を繋いでいたのに、なんで今はこんなにも緊張してるのよ…!ああああ、もう!一気に心拍数が上がる… そして手汗が…

というか、メンシスが悪いのよ!

ちゃんと手を繋ぐって言いなさいよ、まったく。繋いでおくって言い方がやらしいわね。


「もう、メンシスが悪い。」

「俺が何かしたか?」

「私のこと揶揄ってくるからよ。」

「悪かった。俺がお前と手を繋ぎたかっただけなのに、お前を揶揄うような言い回しをしてしまった。」

「ちょ、ちょっとー!!そ、そういうことじゃないわよ!!お願いだから、そんなことサラリと言わないで。これ以上私を翻弄しないでちょうだい…」

「翻弄?全て本心だが…」

「!!!」


だ、ダメだ…死ぬ…

メンシスって、言葉数少ないけど、一言の破壊力が凄まじいのよね…良くも悪くも真っ直ぐ突き刺さる言葉。


「メンシス、一時休戦よ。」

耐えられなくなったエルザはため息を吐きながら、早々に白旗と両手を上げた。


「よく分からないが、昼休憩したいってことか?屋台もいいが、だいぶ気温が高くなって来たから、この辺りにある店にでも入るか。あ、向こうの通りに、皇国の郷土料理の店があったぞ。」


「相変わらず素晴らしい気遣いで、脱帽よ…。ぜひそのお店に行きましょう。」



メンシスは、昨日皇国の伝統菓子に大層喜んでいたエルザを見て、今日は郷土料理が食べられる店を目で探しながら歩いていた。彼女はきっと好むだろうと考えながら。

しかし、変なところで恥ずかしがる彼は、またしても偶然を装って提案したのだった。





「すごい!見たことのない料理ばかりね。わぁ、良い匂い。どれも食欲をそそるわ!」


前回同様、メンシスが片っ端から注文し、テーブルの上にはかなりの量の皿が並べられている。王国の料理とは全く異なる、大皿に盛り付けられた料理だ。どれも飾り付けは豪快である。


「これは何かしら…なんかふわふわしてて甘いけど、中にはとろっとした野菜餡が入ってる。ん…なにこれ、すごく美味しい!」


新鮮な見た目とその美味しさに、思わず1人で解説しながらどんどん食べ進めるエルザ。メンシスは相変わらずそれを嬉しそうに眺めている。彼は、彼女が好きなだけ食べてから、残りを食べるつもりらしい。


「ほら、温かいうちにメンシスもお食べ。」

「ああ。お前が食べられなくなった分を食べるから気にするな。」

「そんなお母さんみたいなこと言って。」

「おい…」

「ほら、美味しいわよ?」


エルザがメンシスの目の前に、さっきの白いふわふわを差し出した。

彼は、そのふわふわではなく、彼女の手を掴んで口元に引き寄せ、そのままかぶりついた。


「本当だ。初めて食べる味だが、美味いな。」

「!!!!!」


ああああああああああああ!!!

な、な、なにした!?

私に何をしてくれた!?


「ん?違ったか…?」


そんな冗談が通じるかあああああ!!!


その妖艶な微笑み、確信犯の顔よ。

イケメンだから許されるものの、他の人がやったらこんなの犯罪だわ!


エルザは真っ赤になった顔を隠すようにそっぽを向いて落ち着くまでひたすら耐えた。


恥ずかしくて死ぬわ…

エミリア戻ってきてー…




盛大に感情を揺さぶられたエルザだったが、気合いで食い意地を発揮し、食べたいものは全て食べ切った。

それでも半分以上残っていたが、メンシスはペロッと平らげた。


その途中、彼はさっきのお詫びにと、ふわふわを掴んでエルザの目の前に差し出して来た。


これを食べることがなんのお詫びになるのだろうかと本気で悩んでいるエルザを見て、残念と言ってメンシスはくすくす笑っていた。そこでようやく、エルザは彼に揶揄われていたことに気付いたのだった。




その後は、エルザが色々と疲れたということもあり、早々に迎賓館へと戻っていった。もちろん、2人の手はしっかりと繋がれていた。




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