変化
「わぁ!すごい人ね!とても賑わっているわ。」
「勝手に行くな。ほら、手出せ。」
エルザが出した手をメンシスはしっかりと握りしめ、彼女が歩きやすいように自分の身体を盾にしながら半歩先を歩く。
それを見たマルクスが、ほら僕たちもと言ってちゃっかりエミリアと手を繋いでいた。
皇国2日目、エルザ達は建国祭に参加するため、城下町に来ていた。まだ早い時間だというのに、どこもかしこも賑わっている。
護衛は連れて来ていないため、帯剣したメンシス達がその代わりとして、それぞれエルザ達に付いている。エルザ達は目立たないように地味な色のシンプルなワンピースを着ている。
普段は馬車が通るこの道は、祭りの間、両脇を屋台で埋め尽くされる。食べ物や雑貨、衣服、土産物、武器などあらゆるものが並んでいた。
建国祭らしく、至る所に国旗が掲げられ、その隣には皇族の絵姿まで飾られている。
今回は日持ちするものしか持って帰れないため、エルザは食べ物以外のものを中心に見ていく。目に付いたものを片っ端から手に取り、気に入ったものを購入していく。
「ええと、、ごめんなさい。」
「これくらい問題ない。」
購入した品物達は当たり前のようにメンシスが持つ。こうなることを予想していた彼は、リュックを持参して来た。
申し訳ないけど、やっぱりお土産は欲しいから、荷物持ってもらって本当に助かるわ。
不敬罪に問わないって一筆書いてもらったからって、そこに甘えているワケじゃないけど、でも前よりも気兼ねなくお願い出来るのは事実かも、、。私ってば現金なヤツよね。
「宣誓書書いといて良かったな。」
「うっ…」
「はは、図星か。」
その後広場の方に向かって歩くと、楽器を奏でている音が聞こえて来た。
「あ、これって…」
「一緒に聴いたやつだな。」
広場で音楽隊が演奏をしていた。劇場で見た時よりも少人数だったが、圧巻の演奏だった。演者を囲むように人々が群がり、皆演奏に聞き入っている。
「せっかくだから、1曲聴いていくか?」
「ぜひ!」
「あ、メンシス!僕たちはちょっとあっちで休憩してるね。」
「分かった。」
「エミリア大丈夫かしら?」
「マルクスが付いているから大丈夫だろう。」
後ろから声を掛けてきたマルクスはエミリアを連れて人混みから抜け出して行った。
演奏は聞こえるけど、本当にすごい人だわ…。ぎゅうぎゅうで潰されそう…。うーん、、さすがに演奏してる姿は見えないわね。
「こっちから見えるぞ。」
「え…」
メンシスがエルザの腰を抱えてグッと自分の方に引き寄せつつ、少し屈み、彼女の目線に合わせて指を差した。
ちょ、、、ちょっと待って!!
か、顔が近い… 距離も違い… そして綺麗な横顔…
もうこんな至近距離で色気を出して来ないでー!!
「ん?どうした?」
あああああああああ!!!!
そのキョトン顔やめてー!!
色気があるのに可愛いとかなんなのよ。反則すぎるわ。人混みじゃなくてメンシスに当てられて酔いそうだわ。。
ん、なんか前よりもドキドキしてる気がする…
「な、何でもないわ!」
「そうは見えないが…」
よく考えたら…いやよく考えなくとも、メンシスってかなりの美青年なのよね。サラサラの銀髪に、ヘーゼルナッツ色の吸い込まれそうな瞳、見た目細いのにしっかりとした体躯…。
うわ、ちょっと待って、、なんでこのタイミングで唐突に意識してしまった自分!バカなの!?意識したらメンシスのこと直視出来なくなるじゃない!!
「何かあれば、すぐに言え。」
メンシスが心配そうにエルザの方を見てくる。
じゃ、今すぐその色気しまってくださーい!!
ってそんなの言えるわけないじゃない!
もう、こんなのって…
「わ、分かったから、少し離れてくれる?」
「ああ、悪い。」
いつもあんなに自信満々なのに、なんで私の些細なひと言で、そんなにしょぼくれた顔するのよ、まったく!!カッコよくて優しくて可愛いだなんて、、、敵わないわ。
エルザは落ち着かない気持ちのまま、視線を正面に固定し、必死に演奏に聴き入っているフリをしていた。
そんな彼女の横顔を盗み見ながら、メンシスはまた調子に乗ってしまったかも…と絶賛反省中であった。
ちなみに、その頃マルクスは・・・
思惑通り2人きりになれたことに歓喜し、休憩として入店したカフェで、エミリアのことを存分に口説いていたのだった。




