お出迎え
「やぁ、みんな。長旅お疲れ様。よく来てくれたね。」
「は?」
皇城に無事に到着し、馬車から降りてすぐの場所で出迎えてくれたのはトマス皇子だった。艶やかな長い黒髪をひとつに結び、豪奢な皇族の衣装を纏い、手を広げた状態でにこにこ微笑んでいる。
え、、なんでこんなところに1人で皇子が?
って、皆動揺してないし…
また私だけ間抜け声を出してしまったよ、、
あれ、なんで両手を広げてるんだろう?
ん…お土産待ってるのかな、、??
「ねぇ、エルザ。早くしてくれない?」
「え… あ!お土産、ですね。少しお待ちくださいませ…」
「そんなわけないでしょ。じゃあ僕から…」
その時、メンシスがスッとエルザの前に出た。
「挨拶のハグなら俺がしましょうか?」
「うぇ。そんなの要らない。」
「冗談ですよ。それと、彼困っていますよ?」
メンシスの視線を向けた先から、執事服を着た若い男性がこちらにかけ足で近づいて来るのが見える。
「トマス皇子、勝手に抜け出さないでください!皆さんお待ちです。さ、早く行って下さい。ああ、彼らのことは責任を持って私が世話役を努めますので、ご安心を。こうなるって分かっていたのに、仕事を放置してたあなた様が悪いんですよ。さあ、行ってください!」
執事服姿の彼の勢いに圧倒されたトマスは、迎えに来たと思われる護衛に連れ去られていった。
ああ、それで、あんな正装を着てたのね。
みんなを振り回すのが彼の本質か…
私に対してだけじゃないって少し安心したわ。
「お見苦しいところをお見せしました。私は、セドリック・ラスタと申します。どうぞセドリックとお呼びください。トマス皇子の側近及びお目付け役として従事しております。皆様がご滞在中の間、私が側についておりますので、何か困りごとがあればご相談ください。ああ、トマス皇子のことでも気軽に仰ってくださいね。こちらできちんと対処しますので。」
何だろうこの人… アイザックに似てるわ。
きっと苦労してるのね…
でも、対処ってあなた皇子相手に何する気よ…
他の3人もエルザと同じことを考えていた。
セドリックへの自己紹介を終えた4人は、各々客室へと案内してもらった。
荷物を置いて少しゆっくりした後、改めてサロンに集まり、みんなでお茶を頂いた。
セドリックがお茶を淹れてくれた。
「なんですのこれ、美味しいですわ。」
あまり自己主張をしないエミリアが思わず口にした。それを見たマルクスは、あの茶葉を大量に買って帰ろうと心に決めた。
「お気に召したようで何よりです。紅茶と同じ茶葉なのですよ。元の葉っぱは同じですが、こちらは発酵度合いが少ないため、紅茶とは違う香りになります。」
確かに美味しい。中国茶みたいなかんじかな。
並べられているお菓子も見掛けないものが多いわね…
あれはなんだろう、お饅頭かな?
「はい、これ。」
お饅頭の乗ったお皿が目の前に飛び込んできた。
「え?」
「これ見てたから食べたいのかと、、違ったか。」
「そ、そんなに物欲しそうに見てたかしら…」
食べたかったエルザは、そう言いつつもしっかりと受け取って頂いた。
こ、これは、、あんこだ!!!
「んーーーー!!美味しい!」
「お前、本当に美味そうに食べるよな。」
メンシスは呆れながらも、エルザのためにせっせとお菓子をお皿に取り分けていく。甲斐甲斐しく世話する姿を見たマルクスは呆れていた。
「で、明日からの予定はどうしようか。最終日は夜会の準備で忙しいから、実質明日と明後日だけかな。あ、でも、僕とメンシスは明後日の日中は商談が入っているから、一緒には過ごせないや。2人ともごめんね。」
「では、明日は4人で建国祭に行きましょう。明後日はどうしようかしらね。エミリアどこか行きたいところある?」
「いや、さすがにエルザ達だけで出掛けるのは…」
「もちろん護衛の方は借りるわよ。私は大丈夫だけれど、エミリアに何かあったら大変だし。」
「お前は自分の心配もしろ。」
「でもねぇ、せっかくここまで来たのだから、外を見に行きたいわよね。ねぇ、エミリア?」
「そうですわね、、。」
「では、護衛に加えて、私もご同行しましょう。自分も剣を扱えますし、街の案内も出来ます。これで安心でしょう?」
悩むエルザ達を見て、セドリックが提案してくれた。
確かに、案内してくれる人がいると嬉しいわね。
連れがいた方が絡まれにくくなるし。
忙しい時に悪いけど、本人が提案してくれてるのだから、お言葉に甘えようかな。
「セドリックが行くなら、僕も行く。」
「はい!?」
サロンの入り口に、いつの間にかトマスが立っていた。
「ねぇ、セドリックばかりズルくない?僕だけ仕事して、どうしてお前はエルザ達と遊ぶの?おかしくない?」
「トマス皇子の仕事は私には出来ませんからね。あなたは象徴として微笑むのが仕事です。こんな時期に外を出歩くなど言語道断です。それに、私が明日やることも、護衛兼案内役という立派な仕事です。」
「せっかくエルザ達が来てくれてるのにぃ。」
トマスの突然の登場にも臣下イビリにも動じないセドリックは堂々と言い放った。トマスは膨れっ面でぶつぶつと文句を言っている。
「あ、良いこと思い付いた!」
トマスの顔がパッと輝いた。
それを見たエルザ以外の全員が、嫌そうな顔をした。
「ねぇ、エルザ?夜までに公務を終わらせるからさ、夕飯後君の部屋でカードゲームして遊ぼうよ。一緒にお出掛け出来ないのだから、少しくらい良いでしょ?」
カードゲーム…?
皇子もそんな遊びするんだ、、
チェスとかの方が似合う気もするけど。。まぁ、チェスやろうって言われても即負けしそうで嫌だけど。
でも、なんかみんなで部屋に集まって夜遅くにゲームとか、学生にしか出来ないことで楽しそうね。皇子も思い出作りたいのかな…
「いい…むッ!」
「却下で!」
エルザが了承することを察したメンシスは、彼女の口を押さえ、代わりに全力で拒否した。
エルザは、勝手に何するのよ!と不服そうな顔でメンシスを見上げていた。
結局、2日目の午前中はセドリックの案内でお土産を買いに、午後は、離宮の庭園でトマス皇子とルシア様とお茶をすることでトマス皇子は納得してくれた。
ルシア様と会えるの楽しみだなぁ。それに、トマス皇子が、皇国の美味しい茶菓子をたくさん用意してくれると言っていたからそれもとても楽しみ!
その後、夕飯を終えた私たちは、今日はもう休もうとそれぞれの部屋に向かった。
「エルザ、誰が訪ねて来ても、夜間は絶対に部屋のドアを開けるな。珍しいお菓子があるって言われてもダメだ。お菓子を渡すだけだからって言われてもだぞ。何かあれば俺を呼べ。」
「…。分かったわよ。」
メンシスにものすごく心配されながら、エルザは自分の部屋に入っていった。