翻弄
「ねぇ、あれワザとだと思う?」
「意図的だとは思いますが、目的は違ったように見えますね。」
「そうだよねぇ。あれを狙ってやっていたら、とんでもない悪女だよね。エルザ嬢らしくないし。」
「本当に…。殿下があれを目にしなくて心底ホッとしてますよ。」
「何の話をしている…?」
殿下を置いてけぼりにしたまま、マルクスとアイザックの2人で話をしていた。エルザとトマスの会話を聞いてなかった殿下は2人の会話についていけない。
「うーん、、でもやっぱり変だよね。あんなの、彼女自身で思い付くと思う??これまであんなに翻弄されてたのに。」
「そうですね、、。誰かの入れ知恵、でしょうか。」
「そうだよねぇ。でも誰が何のためにそんなことをする?」
「目的は読めないですね、、」
「だから、何の話だ。私にも教えろ。」
久しぶりの1人きりのランチ、エルザは晴れやかな気持ちで満喫していた。今日は外で食べるため、サンドイッチをテイクアウトしてきた。風は少し強いが、春の日差しが暖かで心地良い。
ふふふ、念願の1人ランチ!!
メンシスが教えてくれたパワーワードは本当に効果覿面だったわ。
あんなに自信満々な人でも、嫌われると思うと言動を控えるようになるのね。
騙したような気がしなくもないけど、、私も散々彼に揶揄われたのだから、この1回くらい見逃して欲しいわね。次からは、もう少し対等に話が出来るといいな。
悪い人では無いと思うんだよね。
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「ねぇ、メンシス。トマス皇子の件、エルザちゃんに変なこと吹き込んでたりしないよね?」
「…。」
「なんか言ったの?」
同日夜、公爵邸のメンシスの執務室で、彼はマルクスから取り調べを受けていた。
「変なことは言っていない。皇子の言動で困ることがあったら、『嫌いになりますよ』って脅せば良いとアドバイスしただけだ。」
「なるほどねぇ、、それにあのアレンジかぁ。。予想以上の効果だったね。」
「何の話だ?」
マルクスから、昼休みの出来事を聞いたメンシスは、やはりそうなってしまったか…と頭を抱えていた。
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あの時、自分で分かった。
どうやら僕は彼女に絆されてしまったらしい。
でもあいつには敵わないから、彼女を手に入れることは無理だって頭ではそう思ってる。
あの時は、自分のおもちゃを横取りしに来たただの犬だと思ったが、今の僕にとってあいつは、彼女を掻っ攫っていく唯一の男だ。
彼女だって、あいつが現れただけで、あんなに嬉しそうにして声色まで変わって、、今改めて思い返すと、本当に愛らしかったと感じる。
はぁ、、ムカつく。
人に翻弄される自分なんてらしくないってそう思うけど、思い通りにならないこの感情が恋というものなのだろうか。
僕にはわからない。
だから、一度ちゃんと彼女と話そうかな。
自分の気持ちを知るために。