応酬
「メンシス!来てたのね。こちらどうぞ。」
「ああ今来た。」
ランチプレートとコーヒーが乗ったトレーを持ったメンシスはエルザの隣に座った。一緒に食べるつもりらしい。
「メンシス、君の同席を許可した覚えはないけど?」
「それは失礼致しました。が、俺もトマス皇子との同席を希望した覚えはありませんね。俺はエルザの隣が良かっただけです。向かい側の席は視界に入ってませんでしたから。」
メンシスは澄ました顔でコーヒーを啜った。ごく僅かだが、トマスの眉間に皺が寄る。
は!!さすがメンシス強いわ!!!
ありがたい、ありがたいけど、けどね、ちょっとヒヤヒヤが過ぎるから、もう少しお手柔らかに…というか、私の心臓が持たないから、出来れば見えないところでやって欲しいわ。
相当鬱憤が溜まっていたエルザは、止めるつもりは無いらしい。
「メンシス、君、僕に言いたいことがあるのならはっきり言ってくれるかな?」
「俺は、久しぶりの登校だったので、エルザに会いに来ただけですよ。」
「それで?僕とエルザの邪魔をしに来たってことかい?」
「邪魔をするつもりはありません。俺には関係のないことですから。あ、でもせっかくの機会ですので、一つだけ、」
「なんだ?」
「好きな子をいじめてばかりだと嫌われますよ。」
「…。」
わー!!私が言いたいことを代弁してくれた!
そして、あの皇子が黙ったわ…
メンシスは本当にすごいわね。
思わず拍手をしそうになったエルザだが、すぐにメンシスに目で止められ、未遂に終わった。
「あぁ、分かったよ。確かに揶揄い過ぎたね。エルザこめんね。君が可愛くてついやり過ぎてしまったよ。」
「トマス皇子、やり過ぎたのは皇子の責任であって、彼女にはなんの責も無いと思いますよ。」
「全く、君って奴は…」
口説き文句に対して、すかさず正論で返すメンシス。エルザが口を挟む隙はなかった。
なるほど、、私は照れるからダメなのね。
メンシスを見習って、今後は全て正論で返そう。うんうん、なんか勝てる気がしてきたわ。
「あぁ、分かったよ。今日は君に譲る。僕は君と違って、毎日エルザに会えるからね。エルザ、また午後の授業でね。」
捨て台詞を吐いたトマスは、他の席へと自ら移動していった。
「メンシス、ありがとう!本当に助かったわ。」
「お前、あんなのにずっと絡まれてるのか?」
「そうみたい。何の嫌がらせかしらね…」
「あれは、お前と相性最悪だから大変だろうな、、」
「そうなのよ、、ねぇ、あの皇子を黙らせられるパワーワードって何か無いかしら?自分じゃどうしても揶揄われて終わるのよね…」
「あぁ、それならこう言えば良い…」
不敬連発な会話のため、ものすごく小声で会話をしている2人。
メンシスから良いことを聞いたエルザは、早速明日から使ってみようと決意した。途端に、トマスの鬼絡みが待ち遠しくなったのであった。
「新学期始まってから初めての登校じゃない?」
「そうだな。最近立て込んでたからな。」
「少しは落ち着いたの?」
「あぁ、少しゴールが見えてきたところだ。」
メンシスとエルザは食べながら話した。お昼休みの残り時間が少ないので、いつもよりもハイペースで食べ進める。
「それは良い話を聞いたわ。毎日頑張っている成果ね。私もメンシスを見習って頑張るわ!」
「一応聞くが、何を?」
「皇子への反撃よ。やられっぱなしは性に合わないの。次は私が翻弄してやるんだから!」
「ほどほどに、な?」
メンシスはエルザの翻弄作戦をひどく不安に感じた。出来ることならやめてもらいたい。あの皇子ならエルザに絆されかねないと思ったからだ。でも今の自分に、彼女の行動に口を出す権利はない。
自分が彼女の側にいられないことがひどくもどかしい。一緒にいられれば今回のようにすぐに助けてやれるのに…
誰かに任せることは悔しいが、彼女の安全には代えられない。マルクスに頼むか。




