メンシスからのお願い
「うわぁ!とっても可愛いわね。ここメンシスの行きつけのお店?」
エルザの目の前には、花をモチーフにした飾りや文房具、お菓子など見るからに可愛らしいものが陳列されていた。
「そんなわけないだろ…」
2人は食事を終えた後、まだ時間があるから雑貨屋でも見に行くか?というメンシスの提案でこの店に来たのだ。
最近オープンした、花屋に見えるほど花に溢れた外観をしている雑貨屋だ。花をモチーフにした商品しか取り扱っていない店で、女性からの人気が高い。
もちろんメンシスは、事前にこれらの情報を全て調べ上げた上で、彼女が好みそうだと判断して今日連れてきたのだ。そして、そんなことは照れ臭くて絶対に言えないので、エルザには、たまたま見つけたくらいにぼかして伝えたのだった。
「ひとつ、お願いがあるのだが…」
「え…メンシスからのお願いってハードルが高そうだわ…。無理難題言われたらどうしよ。。」
「俺のイメージは一体どうなってるんだ…」
エルザは楽しそうに片っ端から商品を手に取って眺めていた。彼女にとっては、どれもツボらしく、全ての商品に目移りしていく。
そんな彼女を微笑ましそうに眺めながら、メンシスは改めて言った。
「今日の記念に、なにか俺に贈らせて欲しい。だから、気に入ったものがあったら教えてくれないか?もちろん、この店でなくても構わない。」
「え?そんなのがお願いなの??」
「そんなのって言うな。俺にとっては大事なことだ。」
「その心遣いは嬉しいけども、私ばかり貰いすぎじゃない?」
「そんなことはない。これでも返し足りないくらいだ。」
「超人の感覚は理解できないわ…。あ、じゃあこうしましょう!私からも『お願い』よ。同じものをお互いにプレゼントってことでどうかしら??」
一方的に贈り物をしたかったメンシスは納得いかなかったが、嬉しそうに提案するエルザを見て、まいっかと、そのまま流された。
「これなんてどうかしら?」
エルザがメンシスに見せたのは、ガラス玉のキーホルダーだった。指で摘めるくらいの小さなガラス玉の中をよく見ると、小さな花と色付けした液体が入っている。光に当てると、キラキラと輝きとても美しい。
「綺麗だな。」
「じゃあ、これに決まりね!」
男性にはちょっと可愛すぎるかなと思ったが、彼から肯定的な感想が返ってきたため、エルザはホッとした。
色は何色が良いかしら…
メンシスの分はなるべくシンプルなものが良いよね。
ガラスはすべて無色透明、中の液体と花の色は数種類あった。メンシスが、自分の分も選んでくれと頼んできたので、エルザは真剣な顔で吟味し、かなり長い時間を掛けてようやく決めた。
「はい、メンシスのはこれ。私のはこっち。」
メンシスのガラス玉の中には、茶色とゴールドの中間のような色の花と透明な液体が入っており、シンプルだからこそ花の美しさが際立っていた。そして、その花は彼の瞳の色に似ていた。
自分用にとエルザが選んだガラス玉は、彼とのは真逆で、ピンクと白の小花に、黄色の液体が入っている、とても華やかなものだった。
「これどうかしら?シンプルだし、メンシスの瞳と似て綺麗だから素敵だなと思って選んだのだけど」
「選んでくれてありがとう。だが、もし出来たらそっちと交換して欲しい…。ダメか??」
彼が指差したのは、エルザが自分の分として選んだガラス玉だった。
「え…。あ、ごめんなさい!男性だからって勝手にシンプルなものを選んでいたわ。可愛い花が好きな男性だっているわよね。うん、こちらが気に入ったのなら、ぜひ交換しましょう。」
「…。」
エルザみたいに可愛らしい見た目だから、そっちが良いと思っただけなのに…。自分の色はエルザが身に付けてくれた方が嬉しいし…。それなのに…
ぶつぶつと小声で漏らした彼の本音は、エルザには届かなかった。
「それに、メンシスの瞳の色、いつも綺麗だなって思ってたから、私もこっちが自分のでもいいなって見てたのよね。」
「え… 嬉しい。」
「ふふ、よほどこっちの可愛らしいデザインが気に入ったのね。喜んでもらえて私も嬉しいわ。ちょっと家族へのお土産も見てくるわね。」
「…。」
エルザは盛大に勘違いしたまま、嬉しそうに他の売り場の方に歩いていった。
メンシスはなんとも言えない気持ちで彼女を見送った後、どさくさに紛れて彼女の手から取ったガラス玉2つを持ち、店員を呼んだ。
彼女に支払いをさせずに済んだことをひとりホッとし、息を吐いていた。
買い物を終えると、もう戻らないといけない時間になっていた。
1秒でも遅れるとあの2人に何を言われるか分からないため、メンシスは、「揺れない程度に急いで」と御者に無理難題を突きつけ、なんとか無事にエルザを送り届けたのだった。




