大事なこと
あれだけ食べたと思ってたのに、食後に運ばれてきたデザートを見て、一気に目の輝きを取り戻すエルザ。
チーズケーキ、フルーツタルト、ロールケーキ、チーズスフレ、クリームパイの盛り合わせ。なんて素敵な眺めなのでしょう。
「俺は甘いのは得意じゃないから、全部任せたぞ。」
ほんとに食べる気はないらしい。キラキラした甘いものたちに目を向けることなく、コーヒーだけ啜っている。
ん…あれ??
「でも、薔薇ジャムあげた時、甘いの大丈夫って言ってなかったかしら??」
「お前そういう時だけ記憶力良いよな…」
「なによそれ。」
「気にしなくていい。お前からもらうものは特別だってだけだ。」
「え…その言い回しなんだか照れるわ。」
「それは僥倖。」
結局、エルザ1人でデザートを食べ進め、あっという間に半分が無くなった。
「メンシスはしばらく忙しいの?」
私は気になっていたけど、聞けなかったことを聞いた。今日こそは聞こうと思ってずっと機会を伺っていたのだ。
「そう、だな。しばらくは毎日学院に通うのは難しいだろう。」
「やっぱりそうなのね…。」
「なんだ、寂しいのか?」
「寂しい。」
彼の口調は冗談めいたものだったが、ずっと堪えていたエルザは、思わず本音を吐露した。
口にした瞬間、自分の耳に入って、その言葉の意味が頭の中に入ってくる。そうやって今初めて自分の気持ちを認識した。
ああ、私やっぱり寂しかったんだ…
「悪かった、何も伝えてなくて。」
メンシスは、エルザよりも辛そうな、何かに耐えるような顔をしていた。それは、いつもの余裕綽綽の彼が絶対に見せないであろう顔だった。
「い、いえ、なんでもないわ。変なこと言ってごめんなさい。」
「そんなこと言うな。無かったことにしなくて良いから。俺には、お前に何か言われるよりも、何も言ってくれないことの方が辛い。」
彼にあんな顔をさせたくなくて、いつもみたいに揶揄い合う雰囲気に戻って欲しくて、そうするために、自分の発言を無かったことにしようとしたエルザ。
だがそれをメンシスは拒絶した。構わず、言いたいことをちゃんと言え、無かったことにされる方が辛い、そうはっきり言われた。
考えたこともなかったわ…
雰囲気を悪くするなら、黙って笑う
他の子たちと意見が違えるなら、多数派に合わせる
怒らせるくらいなら、自分の発言は控える
そういう選択をすることが多かった。
特に、仲良くありたいと思う相手に対しては。
明らかな敵意を向けられると、勢いで強く言い返せるのだけど、関係を崩したくない時は、相手のことを最優先する癖があるのかも…
そんなんじゃ、相手と対等に仲良くなるなんて絶対に無理だ。
何で今まで気付かなかったのかな…
仲良くなりたい相手にこそ、きちんと自分の思っていることを伝えることが大切だったんだね。
「そうよね。私も想像してみたら、あなたの本音を聞けなくなるのは嫌だって思った。だからこれからはちゃんと自分の気持ちを言うように努力する。気付かせてくれてありがとう。」
「いや、今回のことは俺が悪かった。詳しくはまだ話せないんだが、今俺は、初めて自分で望んだことを実現させたいと思っていて、そのために今必死になって行動を起こしている。それを実現させたらエルザに一番に伝える。その時にまた話を聞いてくれるか?」
「そんな大事な話、私が一番でいいの?」
「ああ。お前じゃなきゃダメなんだ。」
「分かったわ。その時を楽しみに待ってる。だから、その、、ちゃんと待っているから、それまでの間、またこうして会う時間を取ってくれる?迷惑にならない程度で良いから…」
「…。」
メンシスから、本音を隠さなくて良いことを学んだエルザ。早速それを実行した。
が、その本音は彼に対しては攻撃力があり過ぎた。
メンシスは片手で顔を隠しつつ、エルザから顔を背けた状態で長いこと沈黙したままだった。本音を言え、隠すなと自分で言ったクセに。
その後、だいぶ経ってから、やっと、このままではまた彼女を不安にさせてしまうと気付いたメンシスが慌てて、全力で肯定したのだった。