美味しいってしあわせ
「ありがとう。とっても素敵な演奏だったわ。はぁ…心から感動した…。」
「喜んでもらえたようで何よりだ。」
「そういえば、今日は2人にとってのお疲れ様会だったのに、なんだか私ばかり優遇されてしまったわね、、」
「いや、これは迷惑料だから。」
「それ以上の価値だったと思うけど、、、そう言うならありがたく受け取っておくわ。本当にありがとう。」
「ああ、そうしてくれ。この後なんだが、昼時を過ぎてしまったが、昼ご飯でいいか?」
「たしかに、お腹が空いたわね。そうしましょう。」
「どちらもここから近いが、ひとつは、チーズ料理が有名な丘の上の店、ふたつめは、香草を使った肉料理が有名な川のそばの店なんだが、どちらがいい?」
「え…それってどちらも超人気のお店じゃない?」
「席は押さえてあるから、安心しろ。」
「それは、ありがとうって、2軒とも予約したの!?さすがは公爵家、、え、でもそれ、行かなかったお店にかなり失礼じゃない?」
「お前が選ばなかった店にはマルクスが行くことになっているから問題ない。」
「は…。なにそれ、、さすがに人使いが荒過ぎるんじゃ…?」
「いや、あいつから言い出したことだ。この方がエミリア嬢を誘いやすいと喜んでいたぞ。」
は?マルクスが?エミリアを?
あ…
急にメンシスが行けなくなって、予約しちゃってるから一緒に来てくれないか?的なやつ!?
うわ、マルクスならやりそうだわ…
エミリアは優しいから渋々付き合ってあげるんだろうなぁ。
「なかなかに上手くいきそうな作戦ね。」
「だから気にせず選べ。」
メンシスが御者に行き先を伝えて、馬車が動き出した。向かうのはチーズ料理のお店だ。
お店の近くに馬車を止め、お店の前までは歩いて行った。
さすがは人気店。昼時を当に過ぎているというのに、満席だ。何組かは並んでいる。
丸太をモチーフにした大きな看板にデカデカとチーズのイラストが描かれている、可愛い。お店はログハウスみたいな見た目で二階建てだ。もうお店の見た目だけで美味しそうだ。
予約してくれてた席は2階の個室だった。内装も木で作られており、カーテンは赤と白のチェック柄でおしゃれな山小屋っぽい。そして、ものすごくチーズが似合う雰囲気だ。
「メニューは決まってないから、好きなのを選べ。迷うなら俺が選ぶから、その時は言ってくれ。」
「ありがとう。ねぇ、メンシスって本当に気遣い上手よね。それは公爵令息の嗜み?家庭教師とかから習うの?」
「こんなこと習うと思うか…」
結局私は気になっていたラクレットチーズだけ注文し、他はメンシスに任せた。
待つこと数分、運ばれてきたのは、フレッシュチーズと生ハムの盛り合わせ、ラクレットチーズ、鴨肉のハム、ポークソテーのベリーソース添え、マッシュポテトのチーズ焼き、キノコのシチュー、鹿肉の燻製、名物のチーズトースト、だ。
完全に全て私好みのチョイスだ。
自分でも忘れかけていた好物が目の前に並んでいる。前に鹿肉の燻製にハマってしょっちゅうシェフにリクエストしてたっけ。その時は家の中が常に煙くて、そろそろやめてくれって兄に懇願された記憶がある。
ほんと私の好みよく分かってるな、、いや、少し分かりすぎじゃないかな…。聞いてみる?本人に?いや、怖いからやめておこう。世の中知らない方がいいことだって存在するはず。
「うわぁ、どれも美味しそうね。ふふ、それにしても、私が好きなものばかりで、どれから頂こうか迷うわ。」
「いつも似たようなものばかり食べてるから覚えた。」
「え…。なんか恥ずかしいから、そんなの覚えなくていいわよ。」
「でも、今役に立っただろう?」
「う…。役に立ったけども、、才能の無駄遣いよ。もっと身のためになることに頭使った方が良いわ。」
「もちろん。それでも余ってるからな。」
「…。」
く、悔しい。。
言い返せなかった私は、並んでいる料理を食べることに切り替えた。せっせせっせと口に運んで堪能する。
あー、美味しいものってなんてしあわせなんだろう。美味しいもの食べてしあわせを噛み締めるだけで、生きてて良かったって思うよね。生きる理由なんて、このくらい軽いものでも良いのかもしれない。
「お前は本当に美味しそうに食べるな。」
「だって、本当に美味しいもの。はぁ、しあわせだわ…。美味しいもの食べている時ってほんと至福の時よね。」
「あぁ、しあわせだな。」
メンシスは頬杖を付いたまま、微笑みを浮かべてエルザが食べる姿を鑑賞していた。
「…。なにか他意を感じるのだけど?」
「ん?どう思ったんだ?」
私の食べる姿を見てしあわせだとか言ってなかった??
なんて言えるかーーー!!
自信過剰にも程があるわ!
ニヤニヤしているメンシスは危険なので、全会一致で無視します!
「い、いいから、早くメンシスもお食べ!」
「はいはい、頂くよ。」
メンシスも食べ始めると、テーブルの上にずらりと並べてあった皿はあっという間に空になった。
それを見たエルザは思わず拍手を送っていた。もちろん、メンシスは呆れていた。