見たかったものと見せたかったもの
「さっきは義父と兄が色々ごめんなさいね。」
「ああ。」
「気を悪くさせてしまったわね。」
「俺が最初に褒めたかったのに…」
は… 拗ねてたのか…
可愛い不意打ちもやめてほしい、、。
迂闊にもきゅんとしてしまいそうだった。
馬車が走り出して20分ほど経った頃、そういえばどこに向かってるのかしら?と聞こうとしたら、もう目的の場所に着いたらしい。
コートを着ているので、そのままメンシスのエスコートで外に出る。
どこだろうと思ったのは一瞬で、ここがどこだかすぐに分かった。
「王立劇場?」
「ああ。寒いから中入るぞ。」
彼に手を繋がれたまま劇場内へと入っていった。
王立劇場とは、その名の通り王都にある劇場だ。喜劇やコンサート、ミュージカル等色んな演目をやっている。王都で最も格式の高い劇場のため、王族及び高位貴族御用達となっている。
私も小さい頃から何度か来ている。最近は来ていなかったので、ちょっと懐かしいかんじがする。歌や音楽は元から好きなので、今回ここに連れてきてもらえたことは、結構嬉しい。
中に入るとかなり広く感じる。歴史ある建築物のため全体的に少し古びてはいるが、金が使われている装飾や巨大な一枚壁画など、豪華な雰囲気だ。
クロークにコートを預けた後、メンシスに連れられて、自分たちの席へとやってきた。そこは、ロイヤルシートと呼ばれる、まさにロイヤルなシートであった。
いや、何がロイヤルかと言うと、個室になっており、給仕が控えている。そして何より眺めがいい。舞台がはっきりと目に見える。
「とっても素敵な席ね。わざわざ取ってくれたのよね?ありがとう。」
「いや、大したことではない。」
「で、演目は何かしら?メンシスが好きなやつ?今人気の劇とか?」
「いや。始まったらすぐ分かる。だから、その前にそこに立ってくれるか?」
「???」
「ああ、それでいい。そのまま一回転して。」
その場でくるりと回った。
次は、ワンと言えとか言われるのかしら…
「うん、とてもよく似合っている。妖精とは真逆の雰囲気で、また美しい。紫は取り入れてくれると思ったが、銀色まで使ってくれるとは…気を遣わせたな。いやしかし、こんなにも嬉しいものだとは思わなかった…」
「ありがとう。いつもと違うから変かなと思ったけど、褒めてもらえて素直に嬉しいわ。メンシスも紫のタイよく似合っているわ。銀色と紫って相性良いのね、私のもそうだし。とても素敵よ。」
「…。」
メンシスは、あれは侍女の仕業か…。と落胆しつつも、側から見たら間違いなく仲睦まじい恋人同士に見えるだろうということで、自分の中で無理やり折り合いを付けたのだった。
ちょっとズレた会話をしていると、照明が暗くなり、始まりの合図がなった。
幕が上がると、楽器を持った人たちがズラリと並んでいた。皆、見たことのない楽器を携えていた。衣装もここではあまり見ない、はっきりとした色を幾重にも重ねた和装に近いような見た目のドレスであった。
「あ、これってもしかして…皇国の…?」
「すぐに気付いたな。」
「どうして、私がこれに興味あるって知ってたの?」
「前に自分で言ってただろ?」
今回の演目は、皇国の宮廷音楽隊の演奏だった。ルシアから皇国の伝統芸能に関する話を聞いた時、前世で言う中国という国に似てると思い興味を持ったのだ。
「え…。お昼休みにルシア様と話してた時のこと?」
「そうだ。」
「それは…、凄まじい記憶力ね。」
「それ、褒めてるのか?」
演奏が始まった後は2人で聞き入った。
望郷の念に駆られた、切ないメロディーが印象的であった。エルザは、終演後もしばらく余韻に浸っていた。
その様子を見たメンシスは、目で給仕を呼び、温かい紅茶を彼女の元に運ばせた。
彼女が落ち着くまでの間、メンシスは、そっと彼女の横顔を眺め続けた。