試練の3曲目
目の前で面白そうに笑うその人は、艶のある長い黒髪を後ろに結び、瞳の色はダークグレー、端正な顔立ちであった。
どこかで見たことあるような、、
誰かに少し似ているような、、
「俺のパートナーに何かご用でしょうか、トマス皇子。」
私が頭を悩ませていると、こちらの状況を視認したメンシスが早足に戻って来た。
「あぁ君は、、ルード公爵家のメンシスだね?そうか、今宵は君が彼女のパートナーだったか。」
ん???
なにやら顔見知りのように話し始めたぞ、この2人。。。
おうじって呼んでたから、公爵家だと顔を合わせる機会もあるのかな、、
え?オウジ?皇子?
トマス皇子って、、、ルシアの兄君ーー!!!
道理で見たことのある風貌だと。
って私、、またやらかした、、??
私はもう冤罪ではなく、不敬罪という普通に有罪で投獄されるのかもしれない。。
メンシスを見習って、関係者各位に宣誓書を書いて頂きたいわ、切実に。
「あぁ、名乗らずに騙すような真似をして悪かったね、エルザ嬢。でも、君をダンスに誘いたいのは本当だよ?」
は!そういえば、最初にそんなことを言われたような、、
「あ、先にパートナーの許可を得るのがマナーだったね。メンシス、君の彼女を一曲お誘いしてよろしいか?」
無言で頷く、メンシス。
他国の皇族相手に断れるはずもない。
「では改めて、エルザ嬢、どうか僕と一曲踊ってくれないだろうか。」
うん、休憩してだいぶ体力回復したし、1曲ならなんとかいけるかな。
そう考えて、軽い気持ちで返事する。
「ええ、ぜひお願いしますわ。」
それを面白くなさそうな顔で見ているメンシス。それを見たエルザが慌てて、せっかく美味しいもの持ってきてくれたのにごめんね!と謝った。それを見たトマスはまた声を上げて笑っていた。
笑っているトマスを見ながらエルザは、彼は笑上戸に違いないと自分の中で決定づけた。
フロアに向かうと、先ほどまでとは大きく異なり、たくさんの人がいてかなり賑やかだった。だが、参加人数に対して十分にゆとりのある広い空間のため、窮屈さは感じない。
トマスのエスコートで空いている場所に移動し、踊る姿勢を取る。
流れ出した曲は、今日一番のアップテンポだった。会場の賑わいに合わせてくれたらしい。すでに足腰に疲労が溜まっているエルザには余計なお世話でしかなかった。
疲労困憊の3曲目、初対面で高貴な相手、アップテンポの曲
え、、踊りにくい要因TOP3が見事に入ってるじゃないか、、。
こんな、みんなに見られている状態で、無様を晒すわけにはいかない!!
流れ出した音楽のリズムを掴み、気合のステップを踏み出す。
あれ?なんだろう??想像よりもかなり踊りやすい。
疲れている足がちゃんと動く。さすがは皇族様、相手に合わせたリードが凄まじく上手い。今私が疲れていることもちゃんと察して、たまにステップを一つ飛ばしたりテンポを緩めたり、負担が掛からないようにアレンジしてくれている。
思わずトマスの方を見上げると、彼はエルザを見て微笑んだ。
「ふふ、僕中々上手いでしょう?初対面の子を誘うのだから、このくらいは出来ないとね。あの殿下には無理だろうなぁ。メンシスだったら出来るかもね。」
前半の自画自賛は認めますけど!
最後のやつはなんですか!!!
煽りはちゃんと相手に対してやって下さいませ。
そんなの関わったら炎上しかしないわ。。
「ええ、とても踊りやすいですわ。お気遣い頂きありがとうございます。」
こんな時ばかり令嬢らしさを発揮して、ぼかした返答をするエルザ。
「はは。見事に流されてしまったね。でも僕ちょっと気になるんだよねー。エルザ嬢は殿下とメンシス、どっちが好きなの?」
は!!!!!!
出会って10分も経たない相手、しかも皇族、そして男性、なんでそんな人と踊りながら恋バナをおっ始めなければいけないのか、、。
今日は厄日か!
私は、腐っても侯爵令嬢。
コホンッ
少し腹立たしいですわね。
言葉を言い直す。
「あら、トマス皇子ったら面白いことを言いますのね。そんなこと言ったらお二方にご迷惑が掛かってしまいますわよ?」
令嬢スキルで軽く嗜めてみた。
どうだろう、効果があると良いのだけど、、
「どうして?今日はそれを明らかにするために、無理して都合付けて参加したというのに?」
なんだ、その子犬みたいな顔!
どこで覚えてきた、、、
効果抜群だから今すぐやめてほしい。。
しかも、言ってることはほぼいいかがりだし、、
この人、とんでもなく性格悪そうだわー
遠い目をするエルザ。
「まぁいいや。即答出来ないということは、まだ誰のものでもないってことだよね?じゃあ僕も立候補しよーっと。」
彼は、面白いことを見つけたと言わんばかりの、キラキラしたものすごく良い笑顔で言った。
は!!!!
本気で何言ってるのコイツ!!!