牽制
会場である学院内で最も大きいホールに足を踏み入れると、その豪華絢爛さに圧倒される。
高い天井に光輝くシャンデリア、金色の装飾が施された真っ白な壁、庭園が見える大きな窓、それは日常とかけ離れた、とても煌びやかな世界だった。
収穫祭パーティーは、若い男女である学院1年生がメインのため、参加者の装いも色の種類や飾りが多く、会場全体がとても華やかだ。
会場入りしてすぐ、アリスは自分と同じ1人参加の友人を見つけたため、そちらに向かった。
パーティーは、主賓であるルシアとそのパートナーのクレメンス殿下の入場を持って開始となる。殿下より挨拶を賜った後、ルシアと殿下が皆の前でダンスを行い、次にメンシスとエルザがダンスを行う。
それ以降の時間が皆自由に踊れる時間だ。パートナーと踊ったり食事や会話を楽しんだり。社交界の予行練習として、各々過ごすのだ。
定刻まで少し時間があるため、ダンスのお披露目を控えているメンシスとエルザは、それに備えて、とりあえず飲み物をもらうことにした。
「やぁ、エルザ嬢、メンシス。2人ともとてもよく似合っているね。」
そう声を掛けてきたのは、マルクスだった。
そして、その隣にいたのはなんとエミリアだったのだ。
思わず驚いて目を見張るメンシスとエルザ。
え、いつの間に、、、!?
エミリア、聞いてないわよ!!!
「やだなぁ、ふたりとも。僕たちもお似合いでしょ?」
そう言いながらエミリアに、ね?と微笑みかけたマルクス。エミリアは目を合わせずそっぽを向いたが、その横顔は少し照れているようだ。
エミリアは白い肌に馴染む、髪色と同じシャンパンゴールドの生地を幾重にも重ねたシフォンのドレスを着ていた。淡い色味が彼女にとてもよく似合っている。アクセントとして、ウエスト部分には光沢のあるチョコレート色のリボンが巻かれ、後ろで綺麗に結ばれている。
一方のマルクスは、白のパンツにジャケット、中に着ているベストはエミリアと同じシャンパンゴールド、袖部分には白に近い金色で刺繍がされている。
見ての通り、自分の色である茶色は一切使っておらず、エミリアだけを意識した装いとなっていた。
「エミリア、とても素敵よ!本当に可愛らしいわ。それにしてもいつの間にマルクスと、、。ふふ、後でたっぷり話聞かせてもらうわよ?」
「ありがとうございます。エルザ様も花の妖精のようで可憐で本当にお美しいですわ!ま、マルクス様とはその…今回だけ、利害の一致のようなものですので、何もありませんわよ。」
そう言っている割には、ちゃっかりしっかりマルクスの色をドレスに取り入れてるんじゃないの、、ふふ、照れ隠しが可愛すぎるわ!
エルザは内心ニヤニヤしていた。
「えぇ、とにかく2人ともとてもお似合いで素敵よ!」
そのまま4人で少し歓談をしていた。
彼らの周りに人はいない。皆、なんとなく彼らに近づくことを避けているようだった。
気になるわね、、周りからの視線。。めちゃ見られてるわ。敵意って感じじゃないけど、羨望?興味?嫉妬?そんな感じかしら??
「んー、やっぱり美女が2人だと目立つねぇ。メンシスもちゃんとエルザ嬢のこと見とかないと、掻っ攫われちゃうからね。」
「分かってる。」
「確かに、メンシスもマルクスも顔が良いから目立つわよね。女性からの人気も高いし。」
メンシスの返答を華麗にスルーしてエルザが言った。
その直後、わざとこちらに聞かせるような声が聞こえた。
「メンシス様のお姿、とても素敵ですわね!」
「えぇ、本当に。パートナーの方がいらっしゃるのがとても残念ですわ。」
「あの方は、先生が決めたパートナーらしいですわよ。だから形式的なものと聞きましたわ。」
「それを聞いて安心しましたわ!」
「他に素敵なご令嬢は沢山いますもの。今宵のパーティーでお相手を探すのだと思いますわ。」
は。。。。なんだこの茶番は。
メンシスが好きならそのまま彼を誘えば良いものを、こんな影口みたいなこと言って自分たちの評判落として何がしたいんだか、、、。
心配そうに見つめるエミリアとマルクスを尻目に、エルザは内心呆れ返っていた。
嫌な雰囲気は大嫌いで、言いたいことは相手に向かって言う性格のエルザは、「どうぞ、お好きになさって?」と声を掛けるために後ろを振り返った。
はずなのに、それが出来なかった。
へ??なぜ???
メンシスがエルザの腰を掴んでそのままぐっと自分の方に引き寄せていたからだ。
は?何この状況、、、??
彼はエルザを引き寄せたまま、彼女の頭のてっぺんにキスを落とした。そしてそのまま、彼女の頭越し、先ほどの声の主達を牽制するように一瞥した。
彼女たちは一瞬で逃げ去っていった。
は、、、、なに、いまの、、
えっと、頭になにか当たった??
あれは、、もしかして、キ、、、ス、、??
「!!!」
ようやく状況を理解したエルザがメンシスに抗議をする。
「ちょ、ちょっといきなり何するのよ!」
大きな声を出したつもりが、蚊の鳴くような情け無い声になってしまった。
「周りに余計なことを言わせたくないからな。いきなり悪かった。次はちゃんと前もって言う。」
そう言っていたずらを思い付いたような悪い笑みを見せたメンシス。
「そ、そういう問題じゃないわよ!」
エルザは、真っ赤な顔のまま慌てて言い返した。
「はぁ、お熱いこって。。エミリア嬢、これ以上ここにいたらのぼせちゃうから、僕たちは移動しようか。」
「えぇ、そうですわね。」
ぽっと赤く頬を染めたエミリアの手を引きながら、マルクスはその場を去っていった。
これ以上2人きりを邪魔しちゃ悪いからね。
それは口には出さなかった。