初めての約束
あれから1週間後、私はメンシスに呼び出され、放課後のカフェテリアに来ている。こうして日時を約束して2人で会うのは初めてかも?
しかし、2人きりといっても何も浮ついた話ではない。収穫祭パーティーの件で、打ち合わせがしたいとメンシスから打診があっただけだ。
真面目か!!!
それを聞いた時、私は思わず心の中で突っ込んでしまった。
まぁ、私は暇だから別に良いのだけど。
そんなことを考えているとメンシスが急ぎ足でこちらにやってきた。
「待たせて悪かった。ちょっと先生に呼び出されていた。」
「え?何か怒られるようなことでもしたの?一緒に謝りに行ってあげるわよ?」
「お前には、俺がそんなことをするように見えるのか…」
待たされたと言ってもたかが数分だが、一応その分として揶揄ってみたら見事に呆れられた。
メンシスは飲み物を取ってくると言ってまたすぐ離席した。何かいるか?と聞かれたが、すでに紅茶を頼んで飲んでいたのでお気遣いなく、と断った。
戻ってきた彼が運ぶトレーの上には、コーヒーとクッキーとチョコレートが並んでいた。
意外に甘党なのね。
たしかに、常に頭使ってそうだから、糖分を欲するのかな?
なんて考えていると、詫びだと言ってお菓子の乗ったお皿をこちらに差し出してきた。
こんなことなら、さっきは揶揄うんじゃなかったわと心の中で反省して、ありがたくお菓子を受け取った。ここのお菓子は何を食べても美味しいから、嬉しい。
遠慮なくお菓子をパクパク食べていると、メンシスがものすごく真剣な顔で聞いてきた。
「お前、ダンスは出来るのか?」
は!!!!!!
「出来るわよ!自分で言うのもなんだけど、普通に上手いわよ。なんならリードして差し上げましょうか??」
フンッと怒り口調で捲し立てると、悪い悪いとメンシスが謝ってきた。
「そんなこと言って、メンシスの方が下手だったら承知しないわよ?」
「ふふ、俺はお前が憧れる公爵令息だぞ?何事も人並み以上に仕込まれている。安心しろ、その中でもダンスは得意な方だ。」
覚悟しておけよと言わんばかりに挑戦的な笑みを向けながらメンシスが言った。
「それ、早く忘れて欲しいわ…」
過去の自分の失態に思わず遠い目になるエルザ。
「ドレスの色は決まったか?」
優雅な動作でコーヒーを飲みながらメンシスが言った。
「かなり迷ったけれど、秋だし、ボルドーのドレスにするつもりよ。」
「ボルドーか、楽しみだな。」
そう言いながら、甘い顔で微笑んだメンシス。
出たわ!不意打ち!!
この顔心臓に悪いから本当にやめて欲しい。。
早くいつもの真顔に戻ってー
「あぁ、それと、当日は完璧な貴族令息で行くからな、笑うなよ?」
「なにそれ、絶対笑うわよ。」
釘を刺すメンシスに対し、即答するエルザ。
「お前な、、そこは建前でも笑わないって言えよ。」
「そんなの無理よ。」
「お前だって、完璧な貴族令嬢の振る舞いをするのだろう?」
「それはそうだけど…」
「だったら、お互いに笑わない、当日は完璧なパートナーとして振る舞うこと、そう決めた方が安心出来るだろう?」
うーん、確かにメンシスにはだいぶ素で話してしまっているから、今更令嬢らしく振る舞うのは気恥ずかしいかも。。。
それを笑わないって約束してくれるなら、ありがたい気遣いよね。
「分かったわ。お互いに笑わないって約束しましょ。」
「あぁ。じゃあもし笑ったら、相手の言うことをひとつ聞くこと。約束な?」
そう言っていつものニヤリ顔をしたメンシス。
は!!!!!!!
騙されたーーーーーー!!!
まんまとメンシスの思惑に嵌められたエルザだった。