恋というもの
ルシアがいきなり出て行ってしまい困惑する一同。エルザに至っては、何が原因でどうしてこうなったのか、まったく状況を理解出来ていない。
「この中だったら、私が一番適任だと思いますの。ちょっと行ってきますわね。」
そう言いながら、アリスは安心させるように皆に微笑み、すぐさまルシアを追いかけに行った。
カフェテリアを出てすぐのベンチにルシアは座っていた。強張った顔をして俯いている。
「ルシア様、お隣いいかしら?」
突然のアリスの言葉に驚いたものの、どうぞと手で隣をで示す。
良かった、拒絶されなくて。
アリスは心の中で安堵の息をつく。
「ルシア様は、メンシス様に恋していらっしゃるのですね。」
微笑みながらアリスが言った。
それを聞いたルシアはびくっと一瞬肩を振るわせ、アリスの方を向いた。
「どうして…?」
「あんなに熱心に見つめていたら気付きますわよ。」
アリスは独り言のように続けて言う。
「私、恋をしたことがないのですよ。婚約者がいるのにっておかしく思うでしょう?彼のことは家族としての愛情はありますが、ときめいたりドキドキしたり時に不安になったり、そんな気持ちを抱いたことがないのですわ。だから、恋をしている真っ最中のルシア様のお姿を見て少し羨ましく思ってしまったのです。」
アリスの言葉に驚いた顔をするルシア。
「だからこそ、誰もが抱けるわけではない、『恋』というその感情をもっと大事にしてほしいなんて烏滸がましいことを思ってしまったのですわ。悩んで苦しんで時には絶望して。そうやって育てていくのが恋だと、そう思っていますの。」
ふふと自嘲気味に笑うアリス。
「恋を知らない私がこんなことを言うのは変でしょう?すべて恋愛小説のうけうりでしてよ。」
そんな彼女を見て思わず笑うルシア。
「ふふ、アリスはすごいわ。そんなふうに思えるなんて。私は随分と余裕が無かったのね。」
「余裕がなくなるのが恋というものらしいですわよ。人生で恋を経験出来るのは貴重で素晴らしいことですわ。誰にでも訪れる機会ではないのですし、ぜひ胸を張ってくださいまし!必要でしたらおすすめの恋愛小説をお教えしますわよ。」
そう言いながら、勢いで思わずルシアの肩を軽く叩くアリス。
良い音がした。
「ありがとう、アリス。少し元気が出てきたわ。」
「もちろん、好いた相手に好きになってもらえることが一番の幸せなのかもしれませんが、私のように恋でなくても素敵な相手を見つけられる場合もありますわ。」
「そうよね。本当にありがとう、アリス。心に留めておくわ。」
アリスがルシアにのところに向かった後、メンシスはマルクスから説教をされていた。
「あれは、さすがにメンシスが悪いよ。分かっていてやったんでしょ?」
「…。思っていたことを言っただけだ。」
「だーかーらー。それがダメなの!女の子には優しくするの!」
「…。」
そんなやり取りをしていると、アリスがルシアの手を引いて一緒に戻ってきた。
2人の姿を見て、みんなほっと息を吐いた。
アリスに促されて、ルシアが恐る恐る言葉を発する。
「あの、先ほどは急に出て行ってしまってごめんなさい。驚かせてしまったわよね。アリスと話をして落ち着いたからもう大丈夫よ。その、、こんな私なのだけど、良かったらまたご一緒させてくれないかしら?」
緊張した面持ちのまま震えた声で彼女は言った。
「もちろんよ!私友達少ないし、こうやって仲良くしてもらえたらとても嬉しいわ。こちらこそ、改めてよろしくね。」
エルザが、ね?とみんなに視線を向けると、各々頷いて、ルシアに笑顔を向けた。
「ありがとう、エルザ、みんな。こんなに素敵な友人が出来て、この学院に留学してきて私本当に良かったわ!」
そう言って彼女はようやくいつもの輝くような笑顔を見せたのだった。