お返し
朝、ホームルームが始まる前の時間、エルザは隣のクラスにやってきていた。
昨日用意したものを殿下たちに渡すためである。
同じ学院の生徒なのに、隣のクラスってほんと別の国ってかんじよね、、。
これ前世の時もそうだったけど、ものすごーく緊張するわ。。
はぁ。
緊張しながら教室のドアから中を覗くエルザ。
目が合えば、声を出さずに済むからラッキーなんだけどなぁ。。まだ来ていない、かな?
「エルザ嬢、誰か探しているのか?」
後ろからクレメンス殿下の声が聞こえた。その後ろにはアイザックもいる。
「おはようございます!はい、殿下にちょっとご用があって探しておりましたの。」
探し人から来てくれたおかげで、誰だあいつ的な視線を受けなくて良くなったエルザは、その嬉しさでいっぱいだった。思わず笑みが溢れる。
「あ、えっと、私に何だろうか?」
エルザの笑顔に当てられたクレメンス殿下はしどろもどろで答える。
せっかくのチャンスです、しっかりしてください!と言わんばかりに、アイザックがどついてくる。もちろん、エルザには見えない位置から。
「あの、たくさんの薔薇の花束をたくさん贈ってくださったでしょう?結構な量で勿体無いなと思って、昨日薔薇のジャムを作って参りましたの。よろしければお一つ如何ですか?」
そう言って微笑みながら、ジャムの入った小さな瓶を殿下に差し出す。リボンが掛けられていてとても可愛らしい見た目だ。薔薇の色も鮮やかに出ており、目を惹きつける。
それを見たクレメンス殿下が固まる。
美しく整っていた顔は実はやはり彫刻だったのかと思わせるくらい、微動だにしない。
ため息とともにまたアイザックにどつかれて我に返る。
「はっ、、、。こ、こんな素敵なものを私のために作ってきてくれたのか。ありがとう、エルザ嬢。こんなに感動した贈り物は初めてだ。なんとお礼を言ったらいいか、、」
大事そうに小瓶を両手で抱えながら、泣き出しそうな勢いでお礼を言う殿下。
「えっとその、他の方にもあって、、アイザックさんもどうぞ。」
「私にも頂けるのですか。ありがとうございます。」
受け取ったアイザックに、殿下が殺気を送る。
仕方ないでしょうと言わんばかりに殿下に微笑みを返すアイザック。
「で、その、、殿下にお願いがありまして、、友人である私に花束はもう贈らないで頂きたくて、もっと喜んでくれるご令嬢方にだけ贈った方が良いと思いますの。ほら、他にもたくさんいらっしゃるのでしょう?」
固まる殿下。
今回ばかりは隣のアイザックも固まっている。
「アイザック、エルザ嬢は何か勘違いをしてないか、、?」
「そのようですね。調査して参ります。」
小声でやり取りする2人。
「お時間頂いてありがとうございました!それでは失礼しますわ。」
そう言ってエルザは、次に渡す人の元へ軽やかに向かった。
それは先ほど殿下たちの話していた場所から見える窓際の席だった。
「珍しいな。」
殿下達との会話でエルザの存在を認識していたメンシスが先に声を掛ける。
「おはよう。メンシスにもこれ渡したくて。いつも助けてもらっているから。」
差し出された可愛らしい小瓶を見て一瞬微妙な顔をしたメンシス。
心の中で、あぁこれが殿下が贈った薔薇だったものか、、と考えてしまったのである。
「甘いのは苦手だったかしら?」
不安そうに尋ねるエルザ。
「いや、そんなことはない。エルザが作ってくれたものだから、ありがたく頂くよ。お返し、何が良いか考えとけよ?」
そう言って微笑むメンシス。
それを目にした女子生徒から悲鳴が上がる。
エルザも一瞬やられそうになる。
顔が赤くなる。
「お、お礼にお返しなんていらないわよ。受け取ってもらえればそれでいいわ。」
目を逸らしながらなんとか言い返した。
そう言って次はアリスに渡そうと思い踵を返す。後ろでメンシスがくすくす笑ってそうな雰囲気がしたけど無視してその場を後にした。
その後、アリスにもジャムを渡してから自分の教室に戻っていった。