それぞれの行く道
買い物を終えた私達はレストランにやってきた。
レストランは二階建てで、一階は庶民の客も出入りするカジュアルな雰囲気、二階は貴族用らしく、やや高級感のある調度品が置かれており、席は全て個室になっていた。
案内された部屋はかなり広く、10人以上が余裕で入れそうだ。この部屋だけ、窓から湖が見える。1番人気の部屋らしい。
なんと、この部屋を押さえてくれていたのもマルクスだ。旅行が決まった日に予約の手配をしていたらしい。やはりマルクス有能説は本当かもしれない。
テーブルの上に並ぶ地元料理の数々。どれも飾りが凝っており、カラフルな見た目も楽しい。名前は忘れたが、湖で獲れた魚をハーブで香り付けして焼いた料理がとてもおいしかった。味付けは全体的に薄めでさっぱりとしており、女性に好まれそうな味だった。
本当に楽しい旅行だったなぁ。
もう帰るのか、、
学院が始まったらもうこのメンバーで集まることはほぼ無いだろう。
卒業後なんてもはや見掛けることすらなくなるのかな、、
それはもう想像するだけで、
「寂しいわ。」
思わず口に出してしまったエルザにマルクスがすかさず反応する。
「ん?寂しい?僕のメンシス貸そうか??」
「俺はお前のものではない。」
呆れ顔で言うメンシス。
エルザには少し心配そうな視線を送る。
「あ、えっと、、旅行が終わるのも寂しいし、学院が始まったらみんな忙しくなるだろうし、卒業したら、、なんて考えてしまったのよ。こうやって会えなくなるんだってね。」
「あぁ、なるほどね。僕は卒業後メンシスの側近になるから、今とあまり変わらないだろうけど、女性陣はそうはいかないもんね。」
「そうですわねぇ。私も卒業後結婚すると同時に王都を離れますし。」
当たり前のことのようにアリスが言った。
「え??結婚!?アリス、相手が決まっているの!?」
「えぇ、昔馴染みが相手ですわ。うちは保守的で親が決めたようなものですけど、昔から仲のよい兄みたいな人が相手だったので、私も悪くないなって思って先日お受けしましたのよ。」
なんと、アリスに婚約者が!!
まぁ確かに15から婚約出来るから、学院に入ってすぐ婚約する人が多いらしいとは聞いていた。
女性はほぼ全員が在学中に婚約を決めるため、良縁を逃さないようにと、早々に男性がアプローチをするらしい。
親が決めたこととは言え、相手を慕っていることが分かるアリスの口ぶりに安心すると同時に、少し羨ましさも感じる。
私もあんな幸せそうな顔で想い人の話をする日が来るのだろうか。
ん?これはもしかして、、
「え、エミリアも決まった方がいるの?」
エミリアは軽く首を横に振る。
それ見て安心してしまう私。性格悪いわね、、
「親からは在学中にと言われておりますが、まだ何も、、。卒業までに決まった方がいなければ、親が決めると父から言われていますわ。」
暗い表情でエミリアが言う。
そうよね、貴族令嬢だものね、、
結婚をせずに、そのまましたいことをして
素敵な人が見つかったら結婚します
なんて、そんなこと出来ないんだよね。。
「そうだったのね。でもまだ1年生だから、素敵な殿方と出会う機会はたくさんあるわ!エミリアは可愛いもの。」
「そうですね!直近だと、やはり収穫祭のパーティーですわね。殿方をお誘いする良い口実ですわ!」
アリスが強い口調で言う。
それを見て若干顔が引き攣るエミリア。
「エミリアなら、きっと向こうからお誘いが来るわよ。可愛いもの!」
うんうん、エミリアは可愛いのだ。
顔が良くて、気が利いて、優しくて、
これはもう最高の嫁ではないか。
学院が始まったら、それとなく周りにエミリアの良いところを言いまくろう。
「エルザ様、私のことはいいですから。エルザ様の方はどうなのです??その、今気になっている方など、、」
自分で言い始めたのに途中から照れるエミリア。
可愛いやつと内心にやけるエルザ。
「私は、そうねぇ、、」
部屋に緊張が漂う。
みんなエルザではなくメンシスの方を見ている。
彼は思いっきり横を向いて湖を見ている、フリをしている。
そんなことに気付かないエルザは呑気に言った。
「とりあえず、結婚せずに働きたいのよねぇ。」
「「 はい?????? 」」
メンシス以外の全員の声が重なった。