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殿下の気持ち


「殿下、本当にエルザ嬢のところに行くのですか?」

「そうだと言っているだろう。何度もしつこいぞ。」


朝、教室に向かいながら何気ない顔で言葉を交わす2人。ただし、内容が内容なので、いつもよりもだいぶ小声である。


変わらぬ返事を聞き、殿下側近で同じく学院一年生のアイザックは隠しもせずに大きな溜息をつく。


「いいですか、殿下。彼女の元に向かうことはもう止めませんが、絶対にエルザ嬢の名を呼んではいけませんよ。相手は何も知らないのですから。いきなり名を呼ばれたら気持ち悪がられます。まずは、自己紹介から、ですね。」


「う、、それは、、、」


「王家の諜報部員を使って、名前やクラス、誕生日、恋人の有無、親しい友人、好きな食べ物、好きな動物などありとあらゆる情報を調べ上げさせた、しかもたった1時間で、なんて知られたら愛が深いどころか軽く犯罪者扱いですからね。捕まってもフォローは出来ませんよ。」


「し、しかしだな、好いた相手のことをなんでも知りたいというのは至極当然のことであろう。この自由恋愛が許される我が国で、その欲求を誰が止められるのだ。」


「まぁ(どうでも)いいですけど。。にしても、入学式で落としたハンカチを拾ってくれたから運命の人だって、、、殿下はチョロ、、純粋すぎです。」


彼女は殿下に全く興味がなかったから良かったものの。。これが玉の輿狙いあるいは権力を欲する令嬢だったら、うまいこと懐柔ないしは操縦されて、あっという間に傀儡の出来上がりになっていただろう。


「おい、今不敬なことを言い掛けなかったか?」


半眼で睨んでくる。

王族ならもっと表情を隠し、周りに悟られないようにしましょうね。まぁ、素直なところがこ方の良いところでもあるのですが。今は発揮しないでほしい。


「いえ、滅相もございません。」


「誰一人として私に声を掛けなかった。エルザ嬢だけだ。小走りで駆け寄ってきてさっとハンカチを渡してくれた。私に気に入られるためでもなく、颯爽とその場を去ったのだ。こんなこと、心が綺麗な者にしか出来やしない。あぁそして、あの綺麗な明るい栗色の髪、光に照らせて艶めいていた。そして、引き込まれそうな夜空色の大きな瞳。小動物のように周りを気にしてた愛くるしい姿。なんて魅力的な人なのだろう。」


「・・・」


そりゃ、身分の高い相手に自ら声をかけることは御法度ですし、それが王族相手となれば声掛けられるものなどいないでしょうに。


身分を気にせず声を掛けてくるのは、損するほどのお人好しか殿下の顔を知らないアホか、そのどちらかですね。まぁ、彼女の場合は間違いなく後者でしょう。


色々と可哀想なので、殿下には言いませんが。。



********



良かったー!!!!


エルザはクラス名簿が張り出された掲示板の前で、自分の名前を見つけ、内心小躍りをする。


殿下とは違うクラスだったー!


同じクラスだったらどうしようって不安で不安で内臓飛び出すかと思った。


とりあえず、クラスが違ければ、登下校のタイミングとお昼休みさえ気を付ければ、殿下と遭遇せずに過ごせるはず。


とにかくまずは最低1ヶ月は徹底的に会わないようにして、彼の頭から私の記憶を消し去って頂こう。


この学院には魅力的なザご令嬢がたくさんいるし、名前も知らない相手に愛を告げる殿下だから、可愛い子たちに片っ端から声を掛けるのだろう。うんうん、自分には関係ない話だ。


うん、大丈夫。なんだか元気になってきた。

今日のお昼はデザートも付けちゃおうかな!



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