その後の話
クレメンス殿下との話を終え、庭園を後にしたエルザは、オルドのエスコートで部屋に向かっていた。
「お兄様、先程はありがとうございました。とても心強かったですわ!」
「僕は何もしてないよ。でも良かったね。」
うんうん、と頷きながら微笑むオルド。
「それにしても、殿下ってどうして私の噂なんて気にしたのでしょうね?」
心底不思議そうにエルザが首を傾げる。
「ん?それはどう言う意味だい?」
「だって、殿下って、色んな女性に声を掛けているのでしょう?それって、噂を気にするような人は最初からしないと思いますの。」
一瞬黙るオルド。
彼にしては珍しく混乱している。
「えっと、どうしてそう思ったんだい?」
「あら、だって入学式のあの日、初めて声を掛けられた時に求婚されたのですよ?そんな殿方なら、他の方々にもたくさん声を掛けているってそう思いませんこと??」
「…。」
「あ、それは決して殿下を否定しているわけではなくてでして、自由恋愛の国ですもの。そうですわね、特定の方がいないうちは少しくらい良いと思いますわ!」
完全に間違った方向にフォローしまくるエルザ。
さすがのオルドも殿下のことを可哀想に思えてきたのだった。
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「殿下、どうでしたか?」
「あぁ、ちゃんと謝罪をしてきたぞ。」
「それ何よりです。それで?」
「受け入れてはもらえなかった。」
「は?」
「代わりに、エルザ嬢と友人になれたぞ。」
「は???」
アイザックにはまったく理解が出来なかった。どうして恋仲になりたい相手と友人になっているのか。
そして、
それは後退したのでは?と思わなくもない。
結局、プロポーズしたことは有耶無耶にされてしまっているのだろう。。
他にも思うところは沢山ある。
が、今日の主はいつもと異なり、とても満足そうな顔をしている。
こんな顔を見たのはいつぶりだろうか。
それだけで、いいかと思えてしまう。
何かあればまた今回のように助けてやろう。
自分はつくづく主に甘いみたいだ。
翌朝、殿下たちは朝食よりもかなり早い時間に屋敷を出て行った。
視察というのは真っ赤な嘘であり、黙って抜け出してきたため、急いで帰る必要があったのだ。
ちなみに、今回、本当はアイザックと2人で来る予定だったのだが、耳が良いオルドにバレてしまい、彼が周囲にバラすぞという脅しをやんわりと行ってきたため、仕方なく連れてきたのだ。
オルドは妹のために自ら殿下護衛という大義名分を勝ち取ったのであった。