緊張感
それは突然の出来事だった。
穏やかだった別邸の雰囲気が一変し、屋敷内が急に慌ただしくなり、並々ならぬ緊張感に包まれた。使用人たちの表情が強張る。
そして、皆「何か」に備えて必死に準備に奔走している。
その状況を伝えようと執事がサロンにいるエルザたちの元へ向かう。しかし、ほんの僅かな差で、その「何か」の方が速かった。
「やぁ、エルザ。元気にしてたかい?」
サロンの入り口から、爽やかにオルドが声を掛ける。
「え!?お兄様!!?なぜ、ここに、、??」
驚きのあまり、勢いよく立ち上がったエルザが悲鳴のような声で言う。
「ふふふ、そんなに喜んでもらえるなんて、兄は嬉しいよ。しばらく見ないうちにまた一段と素敵になったね。僕は益々君のことが心配になるよ。」
眉を下げながら、サラリと言うオルド。
は!相変わらずのシスコン大魔王!
会話にならないわ!!
そして、久しぶりのキラキラ笑顔が眩しい、、
うっ、、と、思わず目を細めるエルザ。
「えっと、どうしてお兄様がこちらにいらっしゃるのです??」
エルザは、目元に軽く手を当てて、もう一度オルドに問いかける。
「あぁ、仕事でね。本当にたまたま偶然にもラクス地方での視察が決まって、今日一日公務に付き添っていたんだよ。で、遅くなったから今日はここに泊めてもらおうとやってきたんだ。」
「・・・。 」
絶対にわざとだ。
オルド以外のここにいる全員の目がそう言っている。そう、全員の。
あれ、、今公務って言った??
なんで兄が公務??
ん?たしか、「付き添って」と言ってたような…
え、それって、、まさか!!
「急遽決まった視察だったからね、護衛の手配が難しくて、道中目立ってもいけないし。それで、この僕が護衛として同行を依頼されたのだよ。そうですよね、クレメンス殿下?」
「あぁ、オルドには私が無理を言ってついて来てもらった。」
オルドの後ろからクレメンス殿下が姿を現す。
やっぱりーーーー!!
殿下きたーーーーーーー!!!
なんでこんなところにまで、、、
これがゲーム補正ってやつか、、
ゲームやったことないけど…
思わず遠い目になるエルザ。
この日の夕飯は皆で囲むことになった。
さっかくだからエルザと一緒に食べたいと駄々をこねたオルドによって、簡単な晩餐会が開かれることとなった。もちろん、クレメンス殿下とその側近のアイザックも一緒に。
晩餐会は意外にも、とても楽しいものだった。
マルクスとアイザックのおかげで、会話も弾み、食事も豪華で美味しく、エルザは大満足だった。
食事も終わり、エルザは、にこにこと食後の紅茶を頂いていた。
「エルザ嬢、この後少しだけ時間をもらえないか?」
「!!!」
驚きで吹き出しそうになる紅茶をなんとか飲み込む。咳き込みそうなるのも意地で抑え込む。
な、なんで殿下が私に!?
やっぱり入学式のこと!?
まだ根に持たれているのかな、、
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
なに言われるんだろう、怖い。
でも、これはさすがに流せない、よね。
大丈夫、ここには頼れる兄と友人がいる。
きっと何があっても力になってくれる、はず!
そう自分に言い聞かせるエルザ。
腹を括った彼女は、微笑んで言う。
「えぇ、喜んで。」
少し離れたところから見ていた彼は、
彼女の強がりを見抜いて、心配する眼差しを向けていた。