【番外編】マルクスの昔話
俺は、ルード公爵家の嫡男であるメンシスと同じ年に、キケロ子爵家に生まれた。
キケロ子爵家は名前こそ異なるものの、ルード公爵家の分家に位置し、代々公爵家に仕えてきた。
キケロの人間は、幼い頃から成人するまでの間、将来仕える人間の側でその時間のほとんどを過ごす。ともに学び、ともに鍛錬に励み、ともに生活をする。
それは、将来の主に忠誠を示し深く取り入ることで、裏切られないようにするという打算によるものだ。
俺もキケロの慣習通り、自我が芽生える前からメンシスの側に置かれた。
次期公爵家当主と同じ代に生まれた俺は過度な期待を掛けられていた。俺が上手く取り入れば、キケロの一族に莫大な恩恵を得られるかもしれない、勝手にそう思ったようだ。
馬鹿馬鹿しい。
公爵家を傀儡にすることに対して躍起になって、そのためだけに、子どもを利用する。
そのことに気付いたのはだいぶ後になってだが。
当時のメンシスは今よりも口数が少なかった。俺がニコニコ人懐っこく話し掛けても、ひたすら褒めても反応はなかった。
最初、俺とメンシスは同じだと思った。与えられた役割をこなしているだけだと。だから、反応が無くてもずっと隣に居続けた。
でも、メンシスは違ったんだ。
年々俺は疲弊していった。何のために笑顔で媚び諂っているのか分からなくなってきたのだ。
一方のメンシスは何も変わらなった。
最初に見た時と同じ、朝から晩まで勉学と鍛錬をひたすら繰り返していた。何一つ変わることなく。
その日も彼は早朝から一心不乱に剣を振っていた。もう俺には理解出来なかった。
なんで、なんでそんなに、、
「ねぇ、なんでそんなに頑張るの?」
思わず口をついて出た。
しかも、繕うことを忘れ、妬ましさのこもった声音で。
俺の声に反応して、彼は動作を止め、ゆっくりとこちらを振り向く。
その時のことは今でも鮮明に覚えている。朝日が当たった銀髪が光り輝いて、妙に神々しかった。
「俺にはこれしかないから。」
メンシスはそれだけ言うと、また素振りをし始めた。
その一言は俺にとって衝撃だった。
彼はちゃんと自分の意思を持っていた。
誰にも強制されてなかった。
なのに自分は、、
何をやっていたのだろう。
親のため?家のため?
褒められたい?認められたい?期待に応えたい?
もう何一つ意味がないと思った。
けれど、同時に、視界が晴れた気がした。
初めて自分から興味を持った。
この人の行く末を見たいと思った。
一番近くにいたら何かが叶う気がした。
それから俺は、この人に仕えることを決めた。
自分のために、自分の意思で。
どうしても書きたかったマルクスの話です。中々本心を見せてくれないので、番外編として描いちゃいました!彼の魅力が伝わったら嬉しいです。
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引き続き宜しくお願いします!