どっちもどっち
目の前にいた男はその場で膝をつき、血の流れる手を抑えて悶え苦しんでいる。そのすぐ近くには血のついたナイフが落ちている。
へ、、??なに?
いきなりの形勢逆転に理解が追いつかない。
「エルザ!!」
メンシスが走ってこちらにやってくる。
彼に続いてすぐ、マルクスも衛兵を連れてこちらにやってきた。男は衛兵によってあっという間に連行されていった。
って、あれ?結構奥の方でボートを漕いで、じゃなかった、漕いでもらっていたような、、
変なところで冷静に脳内ツッコミが入る。
で、どうして今湖の側道を走って来た??
現実逃避気味にそんなことを考えているうちに、メンシスによってあっという間にボートから引っ張り出され、乗り場の方まで戻ってきた。
エミリアとアリスも衛兵に手伝われて、無事陸地に戻る。
「無事、か?ケガ、ケガはしてないか??」
彼に似つかわしくない必死の形相で、エルザの肩に両手を置き、無事を確認してくる。触れた手から、彼の熱と震えが伝わってくる。
大袈裟ね。大丈夫、なんともないよ。
そう、軽く言おうと思ったのに。
だから気にしないでって言いたかったのに。
心配かけたくないのに。
メンシスの顔を見たら言葉が出てこない。
よく分からない感情が込み上げてくる。
無事を伝えたくて、堪えて頷いた。
「本当に、無事でよかった、ごめん。」
メンシスは、泣きそうな掠れ声でそう言いながら、エルザの無事を確かめるように、彼女の肩に頭を預けた。
「頼むから、無茶をするな。ひとりで全部背負おうとするな。」
懇願するひどくやさしい声。
その言葉でようやく私の緊張の糸が切れる。
あぁ私無理してた。
強がってた。
ほんとは怖かったんだ。
そう認めた瞬間、涙が溢れ出て来た。
すぐに気付いたメンシスは、今度はエルザの頭を自分に寄せ、周囲から顔を隠すように軽く抱え込む。彼女が落ち着くまでそうしていた。
しばらくして落ち着いた後、公爵邸の別邸に移動し、そこのサロンで、私たちはマルクスからの報告を受けている。
マルクスはあの後すぐ詰所に行き、事後処理の対応をしてくれていたらしい。彼が代わりに説明してくれたおかげで、私たち3人は事情を聞かれずに済んだのだ。
ちなみに、今回の件は大事にしたくないという私の強い希望の元、キケロ子爵の方で秘密裏に処理してくれることとなった。マルクスが話を付けてくれたらしい。何もかも対応してくれて、本当に彼には感謝だ。
予想以上にマルクスが有能過ぎて、普段のヘラヘラは演技なんじゃないかなと疑うほどだ。
「エルザ様、助けて下さり、本当にありがとうございました。そして、私たちのせいで危険な晒すようなことになってしまい本当に申し訳ありません。」
アリスとエミリアが泣きそうな顔で私に頭を下げる。
「いいえ。私が勝手にやったことよ。そして、そのせいで逆にあなたちを危険に晒してしまったわ。だから私も謝る。ごめんなさい。」
私も頭を下げる。
「な、なんでエルザ様が謝るのですか!やめてください。助けてもらったのは私です。」
「そうです!エルザ様がいなかったら私、、。」
さらに泣きそうになる、エミリアとアリス。
「よし、じゃあこうしましょ。お互いに謝罪はやめて、ありがとうってことでこの話は終わり。ね?」
私の提案に渋々頷く2人。
私は、話を変えるため、気になっていたことを質問する。
「気になっていたのだけど、あの時どうしてメンシスは側道を走って来たの?」
「あぁ、そっちの方が早かっただけだ。」
ん??
どういうこと???
意味がわからなかったが、彼と普通に話せたことといつもの彼の口調にホッとする。
「あれね、メンシスがいきなりボートを岸につけるように僕に言ってきたんだよ。なんでだよって聞いたらさ、エルザ嬢達が男に絡まれてるって言うから。ほんとこいつ目が良いよねぇ。」
相変わらずヘラヘラと話すマルクス。
「で、岸に横付けした途端、ボートから岸に飛び移って全速力するんだもん。追いかける方も大変だったんだから。そして、最後は岸からナイフ投げつけるんだから。肝が冷えるよね。」
は!!! ナイフ!?
それ、私に当たってたらどうするの!
人に向かってナイフ投げるとか、
こわっ、、、
「…。ちゃんと狙ったから問題ない。」
青ざめるエルザを見たメンシスが、しっかりと目を逸らして言った。
なにそれ、逆に怖いわ。。
「で、お前はなんでナイフなんて持ってたんだ?」
は。。。。。
しっかり見られていた…
今度は私がメンシスから思い切り目を逸らしたのだった。