さっそくやらかしました。
さすがは最上位ランクの馬車、ほぼ揺れない。ごくわずかな揺れは心地よさに変わる。
内装もこだわっており、ふかふかのクッション、背中を包み込む背もたれ、余裕のある座席、どれをとっても一級品だ。
控え目でリズミカルな揺れが眠気を誘う。
その誘いに乗ったエルザは、車内で爆睡していた。
乗車してから僅か10分足らずの早技だった。
両脇をエミリアとアリスで固めており、その向かいにメンシスとマルクスが座っている。
一行が乗る馬車は、計画通りラクス地方へ向かっていた。空は晴れ渡り絶好の旅行日和だ。窓から流れ込む風も暑過ぎず、程よい。
「え、寝るの早く無い?起こす??」
「「起こすな!!」」
3人に断固拒否される。
冗談だってーとヘラヘラ笑うマルクス。
「きっと、今日のことが楽しみで眠れなかったのですよ。ふふ、ほんとに可愛らしいお方ですわ。」
エミリアが自分の肩にもたれ掛かるエルザを見ながら、いつもよりさらに小さい声で言う。
「席、変わってあげませんからね?」
茶目っけたっぷりに、、ではなく、かなり本気のトーンで、しっかりとメンシスを見ながら、エミリアが言う。
なぜ自分は牽制されているのか分からず、あぁ、と適当に頷く。
それを見てケラケラ笑うマルクス。
いつものことだが、これから先が長いので、一応睨んで黙らせておく。
「で、旅の行程は決まってるのかしら?」
アリスがマルクスに尋ねる。
「今日は天気が良いから、湖の側でお昼を食べて、その後はボートで遊ぼうかなって。明日は丸一日あるから、街に出て観光をしよう。何か買いたいものがあったら言ってね。お店のリストを作るからさ。」
「見かけによらず、ちゃんと考えてくれているのね。安心したわ。続きは、エルザ様が起きてからにしましょうか。」
かわいそうですし、とアリスが言った。
それから2時間が経ち、休憩のため馬車が止まった。心地よい揺れがおさまったことで、ゆっくりとエルザが目を開ける。
「ほへ?」
それはずいぶんと間抜けな第一声だった。
エミリアとアリスは、きゃーーーー!!なんて可愛らしいの!!と叫びたい気持ちを口に手を当てて必死に堪える。
吹き出しそうになったマルクスはメンシスに力づくで黙らせられる。
そんな場面を見ながら、ゆっくりと覚醒するエルザ。
えっと、ここは、、、、
ん??ど、こ、、??
あれ、馬車?みんないる?
…。
き、きゃあああああああーーー!!
やらかしたーーーーーー!!
声にならない声で叫ぶ。
もはや悲鳴に近い。
それを見て今度こそ思い切り笑うマルクス。他の3人も堪えきれず、各々隠すように笑っている。